神が宿世の邂逅を導く

全てを吐き出した後、まるで力尽きたかのように身体から力が抜けていった。
辛うじて膝で立っていたけれどそれも砕けてしまう。
落ちてきた身体をヴィクトルは優しく受け止め、言いようのない幸福感に満たされていく感覚を覚える。
漸く聞けた彼の本音。そして姿形は変わってしまったけれど、もう一度この腕の中に帰ってきてくれた。
入矢が“運命は魂が求めるものだ”と言っていたけれど、正しくこの感覚がそうなのだろう。
勇利が俺の運命だったなら、前世でも俺たちは番だったという事だ。
それを彼女の存在が証明してくれた。
この広い世界の中で、数多の魂が輪廻転生を繰り返している。その中で巡り会える奇跡がどれほどの事か。
俺はつくづく恵まれているんだろう、最愛に何度も再開出来るというのはそれほどに稀な事だ。
一度は道を間違ってしまって取りこぼしてしまった。
失ったものはもう戻らない。誰もが新たなものを生み出す事しか出来ないのだ。

彼がどれ程の代償を払って戻ってきてくれたのかは分からない。
だけど今度こそ、この手を離さないと誓おう。
もう二度と誤った選択で失ったりしない。
腕の中に抱き込んだ存在を愛おしそうに見つめ、更に強く抱きしめた。



Ep.2.5



一度理性を取り戻して収まっていた筈のフェロモンが、また更に充満してきた。
一通り記憶の波が去って身の内を曝け出すように言葉を吐き出した彼女が、再びせりあがってきた発情(ヒート)に飲まれ始めていたからだ。
己のαを呼んでいるんだ、αからの刺激が中々与えられない事に身体が痺れを切らして更に魅惑を放っている。
だがもう大丈夫だろう。この二人はもう、大丈夫だ。
運命は再び惹き合ったのだから。
入矢は抱き合う二人を見て微笑むと踵を返した。
少しばかりこの部屋に置き土産をして、程なくして部屋を後にしていた。

充満していくフェロモンに、幾ら抑制剤を服用しているからといっても耐え難い。
己が理性を飛ばすのは最早時間の問題だろう。
そうなる前にせめて彼女を寝台に運ばなければ。
幸いにも彼女の肢体は軽く容易に抱き上げることが出来た。
その肉体は成熟しているとはいえまるで子供のように小さく華奢だ。
だが苦しそうに呼吸するその様すら艶がある、これも運命から放たれる芳香のせいなのだろうか。
嘗て男性体である勇利にも同じように欲情したことを思えばそうなのだろう。
運命相手には元々持ってる性癖などは関係ないようだ。
ただ己の半身の存在が愛しい。そこに宿る魂が全てを惹き寄せ、魅了し、冀求(ききゅう)する。
言葉で言い表す事の方が正直難しい、正しく本能がそうさせているとしか言えない。

寝台にゆっくりその身体を沈ませる。
発情(ヒート)に侵された身体はとても敏感で、ちょっとした刺激でも衝撃が走る。
瞬間に彼女が声を漏らし、その喘いだ声は艶っぽく己を刺激する。
まだ駄目だ、理性を飛ばす訳にはいかない。
頭ではそう思っているが既に己の左手は彼女の肢体を撫でていた。
優しく表面を滑る感触に、彼女が耐え兼ねて喘ぎ声が小さな唇から漏れる。
太腿から腹部、胸の上へとそれぞれの感触を確かめながら首元へと上る。
頬へと辿り着いた時、彼女が己の手を添えてきた。
熱を含んだ、光をため込んだような瞳でじっと俺を見上げている。

『ヴィ…ク、トル…。もう…』
『うん。俺も…もう限界、みたいだ……
 君を、捕まえて良いかい?もう、離してあげられなく、なっちゃうけど。』

俺と生きたいと言ってくれたその言葉を、信じても良いかい?
決して長くはないかもしれないけれど、それでも以前よりはずっと長く居られる筈だ。
それくらい勇利と共に過ごせた時間は短かった、短すぎた。
辛かっただろう、悔しかっただろう。どれだけ想像しても本当の心に触れるのは難しい。
他人が分かってやれる痛みなんてほんの一部だ、どんなに心を砕いたって全てを理解するのは不可能だから。
それでもより近くに、寄り添おうとする事は、相手を理解しようと求める事は出来る。
そして傍にいる事を一番に望んでくれるのであれば、迷いは捨てようと決めていた。
添えられた手が握り返してくる感触すらも熱を燻る。

『…離れずに、傍にいて。』
『…っ!!?』
『そう、約束したのに…最初に破ったのは、僕の方…だ。今度は…僕が、貴方の我儘を…聞く番、だよ。』
『ゆう…り……』
『僕の気持ち、は…もう伝えた。今度はヴィクトルの…気持ち…聞かせて?』
『……一緒に、居たいよ。もう…離れたくない。』

両頬を包み込むように手を添えて、彼女の身体を跨ぐように両膝を立てる。
上から顔を覗き込むような形でその慈愛に満ちた琥珀色アンバーの瞳を見つめる。
押し寄せる衝動に震える手をゆっくりと、俺の首筋にするりと伸ばして項を捉えた。
ユリアナが優しく微笑んでいるその表情が、勇利の面影に自然と重なる。

『うん……もう、離れないよ。貴方の最期まで、傍にいるから…』

もう、一人にしないから。瞳一杯に涙を溜めて、細くしなやかな腕を首に絡ませる。
互いの呼吸を感じる距離に熱が上がっていく。
薄く開いた唇から漏れる呼気を飲み込むように、ヴィクトルは目の前の愛しい存在に食いついた。


息苦しささえ与えられたものだと思うと愛おしくて。更にその先をと求めて舌を絡めていく。
水音が鼓膜をくすぐる、その感覚すら身の内の熱を上げる燃料にしかならない。
既に理性が霧散していてただただ只管に互いを求めに走っていく。

口腔を愛撫しながらも手は肉体の上を滑る。
袖口を少し絞った生成りのサルファイエローのチュニックが纏う彼女の身体は細く滑らかだ。
タンポポを思わせる淡いオレンジ色の周りには、彼女の琥珀色アンバーの緩やかな髪が散っている。
胸元のボタンは既に外されて白い首筋が隙間から顔を覗く。
裾から手を差し入れて直に柔肌に触れ、優しく撫であげる。
触れる度にユリアナの唇からは吐息が漏れ、誘うフェロモンが舞い上がる。
身体が早く触れろと叫びを上げているかのようだ。

『ひゃ…っ、あぁ……っ、ふっ…』

片方の手で胸元を(まさぐ)り、もう片方の手で彼女が纏う膝上丈のサックスブルーのパンツを緩めて足から引き抜く。
徐々に露わになる白い肌は碧を帯びた濃い青色にとてもよく映えていて、欲情を煽られて無意識に喉が鳴る。
全身から己を惑わせる甘い匂いが発せられているようで、誘われるようについついその柔肌に口付けを落とし舐め上げてしまう。
その度に少女の口からはたまらないと言わんばかりに嬌声が零れる。
勇利も刺激に敏感な所があったが、ユリアナの方が過敏に反応している気がする。
肉体が違うだけで感覚も異なるのだろうか。
なんて考えも直ぐに消え去ってしまう。随分耐えた方だ。
抑制剤なしでは当に理性は手放していて、今頃本能の求めるままに目の前の存在を貪りつくしているだろう。
まだ少しばかり半身の身体を気遣う余地が俺の中に残されている。
香るフェロモンは成熟したΩを示しているが、彼女の身体は余りにもか細く小さく見える。
小柄な肉体はまだ男もαも知らない、誰にも暴かれていない清純さを纏っている。
勇利も俺が掴まえるまで自身に誰にも触れさせないように、しっかり貞操を守ってくれていた。
生まれ変わっても変わらない、真っすぐ俺だけに注いてくれている愛を感じ、嬉しさと同時に罪悪感も襲う。
幾らΩが受け入れるに長けている身体を持つとはいえ、この小さな身体で受け入れさせるのには些か忍びない。
壊してしまわないように、優しく触れる。
下着だけを纏ったその清純な姿に目を奪われつつも、割れ物を手厚く扱うように。

『少しだけ、我慢してくれ。このままじゃ、痛いからね…』

これからその身に受ける衝撃を少しでも和らげる為に、彼女の身体を余すところなく愛撫する。
胸の飾りを舌で転がし、右手は腹部を撫で上げた後脚を割り開いた秘部へと伸びる。
下着越しでも分かるくらいに既にそこは濡れきっていて、触れた瞬間たまらないと言わんばかりに少女はまた嬌声を上げる。
剥ぎ取るように覆う布を取り去ると、そこは熟れ切った果実のように蜜を噴き出していた。
割れ目に指を差し入れると絡みつくように溢れてくる。
女性のΩは発情(ヒート)時には通常よりも多量に溢れてくるのだと聞いたことがあるが、これがその状態なのだろう。
初めて受け入れる筈なのに入り込もうとする指を苦なく招き入れる。
痛みすら快楽にすり替わっているのか、増やした指にも臆することなく喘ぎ声が漏れる。

『やぁ…あぁ!!……ふぁっ、あっ……いっ!』
『はぁっ……はぁぁ………ゆ、れにっ…か……』

愛しい愛しい。唯一無二の、俺の半身。

『俺の…ユーレニカ。愛してる。もう、何処にも、行かないでくれ…』
『ヴィ、ット、ル……』

記憶が重なる。あぁ、これはあの日の夜と同じだ。
初めて彼を求めた、彼と命を紡ぎたいと望んだあの日に彼が浮かべたあの顔だ。
同じように自分に向かって彼はそう囁いた。
最も最愛の存在を呼ぶときだけに使う、ロシア特有の愛称呼び。
ユーレニカが己を指す言葉だという事をこの時知った。
永遠の約束を交わした、あの日の再来を今目の前にしている。

『…愛しい、ヴィーチェニカ。…誓うよ、もう一度。』

今度こそ、離れたりしないから。全てを曝け出し、受け入れるように両手を広げる。
少女は落ちてきた唇に己のものを重ね、全てを委ねる。
男は深い口付けに酔いしれながらもその身体の奥を暴いていく。
これだけ解せば大丈夫だろうという所でなけなしの理性がふとした事実に気付く。

(不味い…スキンが、手元にない。)

予め想定していたので用意はしていたが、あろうことか着ていたベストのポケットの中だ。
そんなものは彼女をこの寝室に運んで直ぐに脱ぎ捨ててしまっていた。
既に記憶がその頃から飛び始めていて、部屋の何処で脱ぎ捨てたのかがハッキリしない。
暫く色欲事とは遠ざかっていた為、自分が取る行動を読み切れていなかった。
因みにスラックスですら既にベッドの下に落ちている始末だ、余程余裕が無かったのだろう。
昔の自分であれば真っ先にシャツを脱ぎ捨てたとしても、スラックスは最後まで残していたように思う。
彼女を快楽に鎮める為に愛撫を優先していたせいで、白いシャツだけが自分の身を覆っていた。
残念だが今更何処に落ちているか分からないベストを探している余裕はない。
困ったな、流石に彼女も避妊薬は服用しているだろうが、番同士のセックスに於いては絶対はない。
着床率が高すぎる為に、避妊するのであれば幾重にも対策を施す必要がある。
彼女はまだこれからシニアに上がる大事な時期を控えた選手であり、彼女の国の法でもまだ未成年だ。
迂闊にも程がある、俺の不手際で彼女の選手生命を危ぶませる訳にはいかないのに。

その時視線を上げるとあるものがベッドサイドに置かれているものが目に入った。
それもご丁寧に箱の封も切られている。
予め幾つか既に中身が取り出されていて、この位置なら少し身体を前に出して手を伸ばせば届く距離だ。

(俺はあんな所に準備していない。という事は…犯人はイリューシャか。)

日本製のもので俺に合うサイズを見つけてくる所も無駄に几帳面というか。
予め俺がこうなる事を予測していたかのように準備が細かい。
俺が部屋で待っていた時にはなかった筈だから、今し方この部屋を出ていく前にか。
賢い息子の施しに感謝しつつ、何とか手を伸ばして取ったそれの半透明の封を破る。
己の身体の下ではもう待ちきれないと言わんばかりにユリアナが手を伸ばして首筋にしがみ付いていた。
軽くその唇を数回啄むと、その肢体をくるりと反転させる。
通常であれば俺自身も互いの顔が見える正常位を好むのだが、この時ばかりは本能がそうさせていた。
既に俺の双眸は彼女の項うなじを捉えている。
ユリアナも分かっているのだろう、力を失くして投げ出されていた四肢に賢明に力を入れて俺を迎え入れようとしている。
首筋をのけ反らして、早くと言わんばかりに潤んだ瞳をこちらに向けていた。
全く止してくれ、此方は意識が今にも飛びそうだっていうのに。
霧散する理性を何とか総動員して、封を解かれたスキンを自身に被せた。

この年にもなってこれほどに自身を猛らせる衝動があるとはな。
心中で愚痴る、それが最後の理性だった。
何とか膝で立とうと持ち上げられた小さな腰。
細く締まった両の足の間から覗いている秘部が俺を受け入れようと準備を整えていた。
視界に入った瞬間に衝動に駆られて。
小さな腰をその手で掴まえると一気に己の男根を突き入れた。

『ひゃあああああ!!!ああああああ!!!!』
『…っ、くっ……あっ…。』

一気に割り入った衝撃にユリアナは一際高い声を上げた。
もうヴィクトルには己を止める余裕が微塵もなかった。
ただただ彼女の口から零れる喘ぎ声に酔いしれ、只管に彼女の中を蹂躙する。
求めるのは最大限にΩのフェロモンが撒き上がる瞬間。
番関係を結ぶには互いのフェロモンが最高潮に高まる瞬間で噛まなければならない。
Ωは噛み痕から入り込むαの唾液や秘部に注ぎ込まれる精液などの体液を体内に取り込んで。
αは項を噛まれた衝撃で発せられるΩの契約フェロモンを吸い込んで、また自らもαの契約フェロモンを放つ。
支配の力のあるそのフェロモンを一身に受けて、鼻から口から体中からΩはαを受け入れる。
そうして互いの間に唯一無二の繋がりが出来るのだ。
その時を待ちわびんとばかりに息が荒くなる。
もう少し、もう少しだ。

少女が衝撃を受け止めた後に暫し思考が巡る、受け入れるには余りに小さいと思っていたが流石はΩの身体という事か。
突き入れはしたが難なく自身が収まった事を確認すると、更に最奥を目指そうと律動を始める。
動く度に少女の唇から僅かに声が漏れる。
襲い来る快楽を受けきれず、生理的に涙が流れている。

『あっ、あっ…ひゃっ、ああっ、あっ、はぁっ…、ひゃあぁっ!』
『はぁ…あっ、はあぁ…っ!うっ、くっ……!!』

内側からふつふつと湧き上がる衝動に限界が近付いている事を感じた。
彼女からも絶頂が近い事が伺える、溢れ出てくるフェロモンに酔いそうだ。
体格差がある為、組み敷く身体を押さえつけるようにして上から覆いかぶさる。
髪の毛を掻き分けた先に見える白い首筋だけを、ヴィクトルは捉えていた。
もうそこに制御する意思はない。
ただ本能のままに、求めるままに。
まるで獲物を狩る獣のように。
その項に強く噛みついた。

『ひゃあああああああ!!!!』

刹那に上がる嬌声と共に部屋中を埋め尽くす惹き付ける香り。
そこに折り重なるように広がる支配の香り。
互いのフェロモンに包まれ、一つの契約が成された。

『あっ……あぅ……っ』
『…っ、ふっ……』

強く刻まれるその白い刃ですら愛おしく。与えられる痛みにまた記憶が蘇った。
離れたくないと貴方は呟くように言葉を零して。
目を見開いた僕を強く抱き込んだかと思うと、その唇を僕の首筋に押し付けて。
驚いて瞬きした瞬間に項に走った痛み。
あぁ噛まれたんだと思った瞬間に湧き上がった何かにそのまま意識を持っていかれた。
今思えばあれが初めての発情(ヒート)で、目覚めていなかった己の第二性を彼の手で暴かれた瞬間だった。
気が付いたら彼にそのまま抱かれたようで番契約が成されていた。
あの時は事が全て終わっていたどころか、その後結局引き離されてそれっきり彼には8年以上触れる事が叶わなかった。

(今度は…もう、誰にも…邪魔されない。)

再び身に受けた契約の儀式の反動で、次第に意識が遠のいていく。
己の身体を抱きしめてくれる存在を感じながら、少女は眠りに落ちていく。
今度はもう大丈夫。目覚めたらきっと、優しく微笑む彼が迎えてくれる。
漸く穏やかな時を一緒に過ごすことが出来る未来に安堵し、ユリアナは意識を手放した。


荒い呼吸を何とか整え、漸く視界が開けてきた。
Ωの発情(ヒート)を受けたのもおおよそ20年ぶりの事で、あの頃は自分も若かったなと苦笑する。
体力の消耗具合には呆れかえるしかない。
半身を起こすと抱き込んでいた彼女がくたりと敷布に臥せっていた。
既に意識はないようで静かな呼吸が聞こえる。
穏やかに眠るその顔を眺めているだけで、胸の内に淡い温もりが灯る。
優しくその身体の向きを変えて正面を向かせた。
あどけないその寝顔は彼ともそっくりだな、なんて思いながら汗ばんだ額にそっと口付ける。

『無理をさせてしまったね…ゆっくりお休み。』

俺の愛しの、ユーレニカ。
嘗て彼に向かって呼んだ、最愛の名と同じ。
彼女がユリアナという名を与えられた事もまた必然だったのかもしれない。
生まれ変わった歯車が再び時を刻み、そして離ればなれだった二つがまた噛み合い綺麗に重なった。
もう決して離すまいと、ヴィクトルは腕の中に少女をしっかりと抱き留めた。



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各話毎で大よそ執筆期間は1ヶ月程度だったんですが、この宿世の邂逅は流石にプラス2週間ほど要しましたw
あの、本当に読むのと書くのでは違うんですよww毎回描写に云々唸りながら苦悩しています(苦笑)
やっと会えた、もう離れない…こういう瞬間の描写って唯でさえ心苦しいのに、苦手シーンとか…
それに二人の体格差がな…大人と子供ぐらいになってて、凄く大変だったと思う←