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一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
目の前に座っている男は今何と言ったか。 「はっ…あっ……へっ?こっ…婚約?」 「そうだ。君にルビーの元へ嫁いできてほしいということだよ。」 「えぇっ!!!!なっ…ななな何ば言うとっとか!?」 「まぁまぁ、落ち着くんだサファイア。」 「父ちゃん…もしかしてこの事ば知っとうたと?」 「知ってるも何も…ねぇ?」 これは私達がずっと前から決めていた事だし。 話を振られた男の代わりに、少々困ったという風に手を顎の横に添えて女が答えた。 『前から決めておった…?あたしの知らんところで?』 少女の頭の中は更に深く絡んでいく。 いくらなんでも話が唐突過ぎると怒鳴りたかったのだが、 それは自分に知らされていなかっただけで既に決められていた事だという。 何と理不尽な事だろう、少女は顔を紅潮させたまま唖然と佇むのみだった。 「魔術師にとって生涯を共にする伴侶選びというのは凄く難しいことなんだ。 迂闊に面識のない者を選べば、後に大変な事に成り兼ねない。 君の魔力は我が家系に置いては有効だということは、初めて会った時に確認済みだ。」 「初めて会った時…?あたし、パパさんに前に会っとうとか?」 だって今日が初めてやとばかり思っとったったいよ。 少女の人生の中でこの家族に会ったのは今日が初めてだ。 そう彼女は思っていたのだが、話の口ぶりからするとどうやら違うようだ。 「随分小さかったからね。もう今から十年も前になるか。だが、その頃から君の魔力は普通の人間よりも数段強かったよ。」 それがきっとルビーの力になるはずだ。 だから君を候補として入れていたんだよ。 センリはいつもの厳格で厳しい顔を緩ませながらそう言った。 反対に無愛想だが優しい表情をしている少年の顔が歪みを増していく。 「様子を見ていたんだ。いくら魔力の相性が良くても、当人達が駄目ではどうしようもないからね。」 「でも大丈夫だと思ってたのよ?まだよちよち歩きの頃からあなたたちは仲がよかったもの。 大きくなってから色々あって少し心配していたんだけど…」 女は横目で息子を確認する。 少年は目を閉じてじっと黙り込んでいただけだった。 常日頃 「オダマキさんから家での様子を聞いて、自分の目でも確かめて安心したわ。」 にっこりと微笑んだ顔を少女に向けた。 少女は更に顔を赤らめて俯くことしか出来なかった。 自分の存在を受け入れてくれる場所。 そこに、隣にいる少年と… 横目でチラリとその様子を確認すると、彼の日頃の父親のように目を閉じてじっとしているだけだった。 そしてふっと開かれた瞳には、何処か悲しそうな色が浮かんでいたように見えた。 それを不審に思ったその時だった。 彼がゆっくりとその口を開いた。 「非常に言いにくいんですが…」 ふとよぎるその答えを想像した者は皆、目を見開かせていく。 その予想通り、重苦しい言葉が発された。 「……ボクは、この話を受け入れられません。」 部屋の温度が急に下がったかのような寒気を感じた。 確かに彼は自分の存在を受け入れてくれていた。 だがその反面、自分を遠ざけようとしていたようにも思う。 何処かでその言葉が言われるのではと感じていたことも確かだ。 だが、想像するのと実際に耳にするのでは"重み"が全然違っていた。 「…何故だ?ルビー。」 低く鋭い声が響いた。 その音を聞いた女が慌てて間に入る。 「あっ…いっいくらなんでもいきなり過ぎたわね!なっ何も今すぐにっていうわけじゃないのよルビー。これからの事はゆっくり…」 「そういう問題じゃないんだ、ママ。」 嘘偽りのない本心からの言の葉。 そこに込められている意味を読み取ろうとするが、少年は依然固い表情で薄く目を開けている。 「どういう事だ?」 父親の声は更に鋭さを増している。 理由など考えなくとも分かる、彼の怒りが沸々と昇ってきたからだ。 しかし、そんなことはものともせずというような憮然とした態度で少年は答えた。 「父さんも知っているはずです。ボクの持つ"魔力 そう、彼のこれからの人生にとっても一番重要になるであろう事柄。 此処に全ての"問題"があるのだ。 「"それ"が理由だと言いたいのか、ルビー。」 喉の奥から搾り出すかのような声。 センリの怒りは正に頂点に達しようとしていた。 袖の内側に隠していた手を勢いよく机にたたき付ける。 「"それ"を出来ない理由にするなとあれほど言い付けて来たのに、もう忘れたのか!!ルビー!!!」 「ボクだって今更そんなこと言いたくない!!!」 少年は父親の怒声並に大きな、それも悲痛を帯びたような大声を上げた。 男は意外な言の葉を乗せたその強い口調に気圧されてしまい、言葉を詰まらせた。 啖呵を切った少年は、回り始めた歯車を止められずに突き進む。 「…でも仕方ないじゃないか!!彼女はボクのフェイ……っ!」 「「…っ!!」」 「「 …??」」 少年が言わんとしていた事を悟った両親と、何の事だかさっぱり分からない親子が、それぞれ思いに合った表情になる。 一方、言いかけた言葉を必死に飲み込んだ少年は苦虫を噛み潰したような顔をし、拳を強く握り締めた。 そして、重苦し気に口を開く。 「…とにかく、ボクはこの件については首を縦に振れません。…失礼します。」 少年はそう言い残して、部屋から出て行った。 依然、その表情は固いまま。 動きに沿って靡く黒服 そんな彼の後ろ姿を、少女はじっと見つめているしかなかった。 何故彼は、あれほど苦痛に満ちた顔をしていたのか。 何故彼は、あれほど頑なに自分を拒絶するような態度に出たのか。 最後に言いかけた言葉は、一体何だったのか。 彼が本心であのような事を言った訳ではないのは、その表情からもひしひしと伝わってきた。 では、"何"が彼をそこまでに追い詰めていたのか。 胸の奥が、痛い。 「…まさか。こんな事になろうとは…」 男が息子の行く末を見送る事無く、視線を閉ざし、肩を落とした。 女も信じられないという風な顔をして言葉を失っていた。 「センリ、一体どういうことなんだ?」 蚊帳の外になっていた茶髪の男が親友の男に尋ねた。 センリはその言葉を受けるが、言い難そうに言葉を濁す。 「いや…その……」 「…教えて欲しかよ。」 「サファイアちゃん…」 少女の言葉を聞いて、事情を知る二人が驚きと困惑の入り交じった顔付きになる。 だが、少女はその意思を決して曲げようとはしなかった。 瞳には意思によって支えられているであろう萎えた力が灯っている。 「教えて欲しかよ。あいつが…ルビーが訳も無く突き放すような言葉ば言うとは思えんと。 それに、さっき言いかけた言葉…やっぱり何かあるとでしょ?教えて欲しかよ!」 少女は藍い瞳に真剣な色を浮かべて、声をあげた。 一聞すれば悲痛な叫びであるが、それは正に彼女の心情を殊更露にしたものである。 男は彼女の強い意思を感じ、重い口を開いた。 「…あいつが言いかけた言葉、それは"フェイター"だ。」 「…フェイター?」 「センリ、それはどういう意味だ?」 二対の視線が黒髪の男へと集まる。 その紅い瞳の中に一瞬歪みを生み出した男が、答えた。 「普通一般的に言えば、"運命の人"という意味だ。だが、魔術師の間ではそれほど良い意味合いではないことが多い。 特に、"今のルビー"にとっては一番会ってはいけない存在だな。」 目を細めて再び顔を伏せながら、淡々と説明の言の葉を並べ始めた。 オダマキ親子はそれを一字一句聞き逃さないように耳を研ぎ澄ました。 「我々が術を行使する為の源である魔力はただの物質ではない。それぞれの魔力には"波長"というものが存在する。」 「波長?」 「波や音波に似たような物だと思ってくれたらいい。これは所謂生きとし活ける物全てが持つ"生命力"の一端だ。 だから、魔力の波長が生涯変化することは有り得ない。命が発する力の一つなのだからな。死ぬまでその者の身体を満たし続ける。」 つまり、魔力というものは生命と強い繋がりがあるということが言いたいのか。 少女は軽く首を傾げながらも次の言葉を待つ。 「波と同じように、魔力にも"干渉"という物が存在する。 魔力同士の波長が合えばその魔力 だから、魔術師にとって側にいるものが自分にとって+になる存在か−になる存在かによって運命すら変えられてしまう事もあるん だ。」 そこで一旦言葉を切った男は、自分がこれから言わんとしている事柄をもう一度頭の中で整理した。 そこに少女の声が入る。 「…さっき言うとった"相性"っていうんはその事ったいね?」 男はそれに頷き、肯定の意を表した。 そして、その未来 "この事"を彼女がどう受け止めてくれるのか。 そんな思いを胸に秘めつつ、事務的な口調でまた語り始めた。 「我々はその+になる存在を"増幅者 「私もパパの"増幅者 「…っ!…そうったいか。」 女の言葉に少し驚きつつも、考えてみればそうでないとおかしいのだという事に気が付いた。 わざわざ害をもたらす存在を側に置く訳がないのだし。 「魔術師にとって"フェイター"というのは、"増幅者 しかし、それはこの世に一人いるかいないか、それくらいの確率でしか存在しないと言われている。言ってみれば伝説上の存在だ。 "自分の対になる存在 「そっそんなに凄い存在なのか…?」 「あぁ。私自身出会った事がないから何とも言えんが、ルビー本人がそう言ったのだからそうなのだろうな。」 唯一無二の親友が言う事なのだから、全て真実なのだろう。 だが、その事の大きさにばかり捕われてしまうので、オダマキにはイマイチ実感というものが沸かなかった。 娘のサファイアもその話をじっと聞いていたが、ふと思い出したことに疑問を持った。 「パパさん、増幅者 でも、なしてそれが"良い意味合いではないことが多い"って事になるったい?」 逆やったら分かるけど。 少女はそこに彼が自分を拒む理由があるはずだ、そう確信していた。 尋ねられた男は目を細めて口を開く。 「+の存在 「だからあたしはそれを聞きた…」 「それを知る覚悟は出来ているのかい?」 神妙な面持ちである男のその言葉を聞いて、少女は自身の言葉を飲み込んでしまった。 しかし、此処で引き下がる訳にはいかない。 自分が持つこの感情の意味に気付いてしまったから。 そう、今更どうすることも出来ない想いに。 サファイアはしっかりと強く頷いたのだった。 本当ハ二度ト会イタクナカッタンダ… ダッテボクハ彼女ヲ傷スケル術シカ持チ合ワセテイナカッタンダカラ… back next close
出たよ、僕の十八番の説明文章(笑)
恐らくこれが無いと私の作品ではないだろうとまで言われてしまいそうな、言ってみれば恒例行事です(−∀−;) いつもこの辺りで迷うんですよね…全部説明したらウザったいし、かといって全部しゃべらせちゃったらそれもウザったいし… 文責欲しい……本読まなきゃ;; |