Stubbornly Mind - 8

陽光(ひかり)遮り布(カーテン)の隙間から幾筋も差し込んでいる部屋。
そこかしこに日溜を作っているこじんまりとしたその場所に影が一つ、二つ。
その影が徐に口を開いた。

「知ってるか?アイツに専属が付いたって話。」
「"出来る奴"なら一度は通る関門(みち)だろ?別段珍しいって訳じゃ…」
「違うっつーの!無名の新人が付けられたっていう噂の事だよ!知らねぇのかお前?」
「…俺は昨日まで遠征試合に行ってたんだが。」
「あっ?そうだっけか?まぁよくあるこった、気にすんn」

ゴッ

「気にするだろ普通…っ(怒)」

先に声を発したのは瞳に金の(ひかり)を宿した、爆発した前髪を持つ黒髪の少年。
その向かい側に立つのは赤い長髪を靡かせている、銀の(ひかり)を瞳に宿した少年だ。
その風貌は正に戦い慣れした戦士(ファイター)を思わせる節を匂わせている。
一瞬した鈍い音は、赤い長髪の少年が黒い短髪の少年の後頭部を殴った音である。

「…っ、てぇ〜何もぶつこたぁねぇだろ!?」
「お前の顔を見たら殴りたくなっただけだ。」
「…っんだとぉぉ?!テメェ俺様を一体何だと思ってやがんだ!?」
「コラ!!貴方達一体朝っぱらから何やってんのよ!!」

勢いよく扉が開き、その瞬間に白い光が飛び出す。
それは真直ぐな線を描きながら黒髪の少年の額に命中して、響きの良い音を立てて跳ね返った。
それも聞いてる側が感嘆するほど見事な命中っぷりで素晴らしく軽快な音を奏でた。
部屋中にその残響が広がって自然と消える。
転がっていたのは、拳よりやや大きめのゴムボールだった。

「全く、スキあらばすぐ喧嘩するんだから。貴方達の喧嘩はホンット度が過ぎるんだから止めてよね。」
「…ってぇ〜何も投げ付けるこたぁねぇだろ?!」
「どーせ言葉で言っても貴方は言う事聞かないじゃない。目には目を、歯には歯をよ。」

扉を潜り抜けてきた少女は、藍色の髪を軽く払いのけながら少年達の元へと歩を進める。
何気ない動作で足下に転がってきた白い球を拾い上げ、そのままいつものように手にしていた資料を二人に手渡す。

「はいシルバー、これが今日から1週間の予定表(スケジュール)。それから、こっちがゴールドの予定表(スケジュール)ね。」

あと今月中に練習試合が入ると思うから、体調(コンディション)しっかり整えといてね。
そう言いながら献立表も続けて二人に手渡していく。
それを黙って受け取るものの、ゴールドはまだ不服そうな顔をしている。

「…んもう、何よその顔。」
「…べっつにぃ。」
「……で、一体喧嘩の原因は何なの?」
「だってコイツが先に殴ってきたんだぜ!」
「お前が先に突っ掛かってきたんだろうが。不可抗力だ。」
「んだとぉ!?先に手ぇ出してきたのはそっちじゃねぇか!!」
「あーっ、もう!分かったから!!そんなに熱くならないの!」

どうしてもう貴方達はそう直ぐに手が出ちゃうのよ。
頭を抱えたくなるような気持ちを押さえつつ、二人の熱を軽く去なすようになだめすかす。
どうもゴールドの喧嘩っ早さとシルバーの火に油を注ぐような発言が、毎度毎度トラブルを引き起こしてしまうらしい。

「…で、肝心の火種の原因は一体何なの?」
シルバー(コイツ)が殴ってきたんだ。」
「お前が不条理な事言うからだろ。こっちは遠征空けで疲れてるんだ。」
「だからって殴るこたぁねぇだろ!?」
「ハイハイ、という事は手を出したのはシルバー、先に突っ掛かってきたのはゴールドって事ね。」
「おい、ちょっと待てよ!俺はただ話題を提供しただけじゃねぇか。」
「結果的に相手を挑発したんだったら、突っ掛かってきた事と同じじゃない。」
「…っ、……。」
「とにかく、シルバーは気に入らない事があってもすぐに手を出さない事。ゴールドは相手のことを考えて発言するようにする事。良いわね?」

選手同士の蟠りは、下手に残しておくと後々その後始末が面倒になる。
相手の非だけでなく己の非も認めさせなければ解決はしない。
特に彼女が受け持つこの二人は何かと問題を引き起こす張本人(トラブルメーカー)であり、隙を見せるととんでもないことになる。
常人より(パワー)技術(スキル)も上である彼らを住なす事は並大抵ではないが、 彼女を見れば力は腕力だけではないという事が分かる。

「…ちぇっ、何だよ。折角耳寄りな情報を教えてやっただけなのによ。」
「耳寄りな情報?」
「オメェは知ってるだろ?新しい補佐者(サポーター)の話。」
「あぁ、サファイアのこと?」
「しっかし哀れだよなぁ〜いきなりルビー(アイツ)補佐者(サポーター)じゃあ、 そいつ絶対(ぜってぇ)長生きしねぇぜ。」
「…さて、どうかしらね。」
「「…?」」

同意の声が返ってくると思っていた二人が、思わぬ少女の返答に首を傾げる。
蒼い瞳には何か確信を得ているような色が浮かんでいるように見え、更に眉間に皺が寄る。

「…何だ?ソイツそんなにスゲェ奴なのか?」
「…まだ分からないわ。でも…」

私が補佐(サポート)するんだもの、そう簡単には終わらせないわ。
少女の顔には、自信と誇りを携えたものが浮かんでいた。
彼女がそんな風に人を評価するなぞそんな滅多にある事ではない。
二人は唖然とした表情で互いに顔を見合わせた。



白磁色の紙面の上でしなやかな指が踊る。
何処となく青白い光を放つ蛍光灯の(あかり)に包まれた部屋で、少女が栗色の髪を掻き揚げながら座っていた。
紙面の上でうねる漆黒の羅列が示すのは、来月の全選手の予定表だ。
彼女は自らも補佐者(サポーター)であり、この館の補佐者長(サポーターリーダー)も務めている。
1ヵ月の選手の動きはその補佐者(サポーター)の動きだ。
勿論この館には各人が専属だけでやっていけるだけの人手はない。
つまり、月末に補佐者(サポーター)達から提出されるそれを元に各部署の配属担当を決めなければいけないのだ。
監督責任がある彼女はその全てを把握し、そして円滑に事が進むように束ねなければならない義務があり、 こうして月末が近付くと提出されてきた紙面をまじまじと眺めなければならない。
静かに紙面を滑る万年筆の先からは、絶えず漆黒の細線が尾を引いている。
他人から見れば面倒と思われる作業でも、仕事の一貫として何度も繰り返していれば否でも応でも慣れてしまう。
またこの作業こそ自分でなくてはと任された大任でもあり、誇りを持って出来る仕事でもある。
勿論その作業に面倒という言葉を感じない、という事は全くないと言えば嘘になるのだが。
その最中、少女はあることに気が付いた。
初夏が終わりいよいよ本格的な夏が到来してこようというこの時分。
春の大会時期(シーズン)が終わり、夏の大会時期(シーズン)の準備がぼちぼち始まるこの頃は、 選手(マスター)補佐者(サポーター)共に一段落して落ち着ける数少ない時期である。
その時期(ころ)を図って毎年行われるある恒例行事(イベント)
それは、選手達の現在の力量(レベル)を調べる為に行われる査定だ。

「今年ももうそんな時期か。全員の日程調整が必要ね。」

特に査定を行う主人側との調整がね。
そう言って栗色の髪をたくしあげ、少女は再び筆を動かし始めた。
と、その時だ。
漆塗りの扉をコツコツと叩く音が少女の耳に届いたのは。

「はぁい、どなた?」
「パイライトです。オレンジの予定表を持ってきました。」
「どうぞ。」

扉を開け放った主は光り輝く黒髪を散らしながら入って来た。
表情は常日頃の彼女と比べると険しく、その瞳はどこか鈍い輝きを放っているようにも見える。
口を一文字に結び、真直ぐに彼の少女の元へと向かって来る。
脇に抱えた紙の束を手に取ると、軽く机の上で纏めた後栗色の少女へとそれを差し出した。
その一連の動作にも普段よりも何処か荒っぽさを感じる。

「何をそんなにカリカリしてるのかしら?パイラ。」
「べっ…別にカリカリしてなんかいません。」
「その割りには機嫌が悪いようだけど。まっ、大方予想は付くけどね。」

受け取った書類に軽く目を通し、確認したそれらをホッチキスで止める。
そのまま机の上にある整理棚の『月毎活動報告書』と書かれた札のある棚へと入れた。
慣れた手付きで、要した時間はほんの数秒だ。

「ブルーさんは変に思わないんですか?あの娘がどうやってルビー様に気に入られたのかって。」
「別にルビーはお気に入りにだけ手作りを与える訳じゃないわ。彼の意思は鋼の如く強いモノ、個人の感情で決して流されたりはしない。"アレ"が彼の出した答えよ。」
「けどっ…、やっぱり納得がいきません!あんな事……有り得ない!!」
「前例が無かっただけでしょう?別に否定する程の事ではないわ。」
「あの娘は何も出来ない、まだ生まれるには程遠い卵のようなモノです、なのになんで私達なんかより上だなんて…っ!」
「知識や技術だけじゃ補佐者(サポーター)は勤まらないわ。ルビーは彼女の"ソコの部分"を評価したまでの事よ。」

気持ちは分かるけどまずは落ち着きなさい。
作業をする手を止め、パイラの白金(プラチナ)色の瞳を見据えた。
冷静な彼女の鋭い視線を目の当たりにした少女は気圧されて声を竦ませた。

「それに、彼から手作りを貰った(イコール)地位が上だっていう考え方がそもそもの間違いよ。
 そんなモノの為に彼はそういうことはしないし、それは私達補佐者(サポーター)にあるまじき感情でもあるわ。」

私達が目指すべきはただ一つ、 選手(マスター)の育成とその補佐(サポート)
ただそれだけよ。
柔らかくもその言葉に厳しさを含ませ、青い瞳の少女は言葉を切った。
返す言葉のない少女はただ唇を噛み締めてじっと押し黙る他無かった。
頭ではそんなこと分かっている、それこそ耳にタコが出来る程何度も何度も聞かされた事だ。
それでも納得がいかないからこそ憤りを隠せないというのに。
ただただ悔しい気持ちだけが込み上げ、瞳に潤いの雫を溜めていく。

「…分かったらもう行きなさい。書類の方は問題ないから。」
「……はい。」

煮え切らない思いを抱えながら、少女はその場を後にした。
静かに閉まった扉を見送った栗色の少女はふぅっと溜め息を着いた。
こういう反応をするだろうという事は分かっていた。
皆何年も何年も此所で補佐者(サポーター)として必死に生きている。
その道程は決して易しいものではなく、誰もが苦労を重ねている。
成功と失敗を重ねながら此所に立っているのだ。
それなのに突然やってきた"何も知らない"少女に"先を越された"となれば憤りを感じるのも無理はない。

「…けど、"彼からの贈り物"が全てだと思い込んでる辺りがそもそもの間違いなのよねぇ。」

それというのも、"彼の行動と態度"が生み出してしまった虚構に過ぎない。
此所数年程の彼の日常は以前よりも凄まじい程多忙を極める物となった。
それも自分が補佐者長(サポーターリーダー)になった頃とは比べ物にならない程に。
あの頃とは違い、選手(マスター)にも補佐者(サポーター)にも"実力"や"格差"を意識する空気を漂わせるようになり、 丁度その頃にイエローとクリスが服を貰ったのだ。
彼が"贈り物"を渡したのは、例のサファイアの件までそれっきりだった。
アレが境目となってしまい、そんな噂がちらほらと一人歩きしてしまったのだ。
初めは他意など全く無かった。
日頃選手(マスター)の為に尽力してくれている補佐者(サポーター)への感謝を込めて、 彼が自ら事を起こしたに過ぎなかった。
日々の余暇が極端に減ってしまい、自分が認められる人間にだけに限ってしまった。
そこから貰われる方が"格差"を生み出しただけ。
勿論、彼は補佐者(サポーター)達の間でそういう風に思われて居る事も知っている。
何ごとにも聡い彼は敏感に彼女達の空気を嗅ぎ分け、その心理や経緯までも理解仕切っている。
知っていて尚、彼は今回の騒動の引き金をわざと引いたのだ。

「あの娘にわざと試練を与えてるのね。その力量がどれだけの物か、見極める為に。」

頑張ってねサファイア。
貴女にこれから降り懸かる事柄(こと)その全てに、どうか負けないでね。
そう心に願いを浮かべ、青い瞳の少女は机に置いた手に僅かに力を込めた。

彼女ハコレカラ待チ受ケテイル困難ニ立チ向カッテイカナケレバナラナイ

少女達ハ無事ト安穏ヲ祈リ思イヲ馳セル

back   next

close



一度視点を変えようと試みた結果、連続で主人公ズが登場する結果となりました(笑)
が、結果1ページ分に足りなかった為、次への伏線を張る事で何とか間を補う結果にもなってしまったというオチwww
別に伏線というほどのものではないですが、まぁ入れたいシーンがあったのでその為っていう感じです
次はようやくサファイア視点に戻ります(^^;)