Stubbornly Mind - 7

食事を済ませ、食器を片付ける。レストランでいう返却口が大広間の端の方にあり、 稼働式の銀色の棚にトレイごと置くことになっている。
洗い物も食事係りの担当だから、自分でする後片付けは此所までだ。

「こげなこと毎日皆やっとうとね、何か凄く悪いち。」

そう、この館の主である彼の担当――勿論現段階ではそれもまだ仮の決定(もの)ではあるが―― となったサファイアには、食事係の職務は回ってこないことになっている。
彼女に課せられた職務は全て館を取り仕切る彼の片腕として補佐をすること、ただそれだけなのである。
それは他の選手(トレーナー)とは違い、活動時間が一定ではなくしかも様々。
主の事を最優先に動こうとすれば、当然振り分けられるような職務などこなせる筈がない。
元来"彼"の専属になれば、他の補佐者(サポーター)とは全く別次元の仕事となるのが常だ。
言わば孤高の戦いを強いられると言っても過言ではない。
寧ろ皆とこうして食事の席を共に出来る事もそう回数がある訳もなく、 逆に言えば自分で食事の一つや二つ準備が出来るようじゃなければ満足に物も食べられないという場面も増える。
そう、自分には身に付けなければいけない技術(スキル)が他に山積みだ。

「サファイアさんが気にする事じゃないですよ。」
「それより色々覚えるべきことが山程あるわ。料理とかは大丈夫?言葉使いとか挨拶のマナーの常識も覚えないといけないし。」
戦闘(バトル)のルールとか、そういう知識面の方もちゃんと学ばないと後々困りますし…
 僕が此所に来た時に使ってたマニュアルが部屋にあるので持って行って下さい。きっと役に立つと思います。」
「待ってて、私が作ったレシピだけど無いよりは全然良いわ。」
「ありがとうったい、イエローさん、クリスさん…」

自分の為に奮闘してくれる二人の姿を目の当たりにし、本当に嬉しくまた申し訳なく思う。
本来ならある程度の下積みを経てから彼の元に行く、というのが常なのだという。
本当に補佐者(サポーター)たる資質を持つか、またどの分野に長けた存在であるのか。
彼は言わばその選別役でもあるのだという。
それを元に相棒(パートナー)が決められた選手(マスター)選手と補佐者(サポーター)も少なくは無い。
だがその選別を受けるだけの技術も器量も自分にはない。
"育成期間"というものを経ていない分を一刻も早く埋めなければ、彼の片腕たる仕事は何も出来ない。
二人は焦らなくても良いと言っていたが、 自分がどの選手(マスター)の補佐も出来ないほど未熟であることなど重々承知している。
一刻も早い行動が必要だった。
少なくとも彼が服を送ったのが自分のことを一人前だと認めたわけではないことくらい分かっている。
たとえ自分に何かの価値を見出してくれていたからだとしても、まだ磨かれていない宝石同然ただの屑石にすぎないことに変わりはない。
やがて一通りの書物を抱えて二人が戻ってきた。
彼女達ももうあと数十分後には仕事を控えているというのに。

「二人共…本当にありがとうったい。一生懸命勉強するとね。」
「頑張って下さい。何かあったら声を掛けてくださいね。」

言葉少なに交わし、書物を受け取った少女は踵を返す。
受け取ったそれを大事そうにしっかりと胸に抱えて。
その後ろ姿を見送りながら、向日葵色の少女は心配そうに瞳を細める。

「大丈夫でしょうか…サファイアさん。」
「……あの娘ならきっと大丈夫よ。経緯がどうだったのかは分からないけど、あのルビー様がご自分で造られた物をどうでもいい人間(ひと)にお与えにはならないわ。」

たった一晩、その短い時間ででさえ、あの少年にかかれば成りと精神(こころ)を計るには十分な時間である。
彼があの少女に何らかの価値を見出だしたからこそ、あれを与えたはずだ。
そして自分の中にも、それらしい何かを彼女から感じている。
何が、とははっきり言えないのだが、しかしそうなのだという確信が(こころ)にあるのだ。

「サファイアを信じましょう。あの娘なら、私達でどうにも出来なかったことが出来るかもしれないわ。」

補佐者(サポーター)としてそれ相応の力量が問われるのは、 言わば(ことわり)みたいな物だ。
それ足る為の前提条件である力量を満たしていなければならないことなど、 どの職に就くにおいても不可欠のことだ、今更何をどういう訳でもない。
だが、それを差し引いても補佐者(サポーター)ならば絶対になければいけないものが、別の次元に存在する。
彼女がそれに気付く事が出来れば…

「あっいたいた。おーいイエロー!」

突如背後から向日葵色の少女を呼ぶ声が聞こえた。
声色は女のそれと比べれば少々低い。
紛れもない少年の声だ。
勿論二人には呼ばれた瞬間に誰であるかすぐに気付いていた。
ただその場に本来ならいる筈がないと思い込んでいた為に些か驚きを覚えただけだ。

「れっ、レッドさん!どうして此所に!?」

部屋で待ってて下さいって言ったのに、そう言いながらイエローは急いで彼の元に向かう。
少し長めの黒い短髪に赤い瞳を持つ十代後半と思われる少年。
優顔の彼にはあまり似つかわしくない引き締まった肉体が、黒い袖無服(タンクトップ)から顔を覗かせている。

「いや、廊下を急いで走っていくのが見えてさ。何事かなと思って…さっきの子は?」
「サファイアよ。昨日入ってきた新人の子。」
「あぁ、あの子が噂の…」
「レッドさん知ってるんですか?」
「そりゃ"アイツ"に専属が付いたってなると、俺達の間でも話題にはなるさ。」

確かにこの館の歴史に置いての"彼女"の辿っている経緯はかなり珍しいことだというのは事実だが、 新人がやって来たという情報や誰の専属になったかという情報がこうも早く選手に伝わっているとは。
誰が口を滑らしたのかは分からないが、今日辺りちょっと騒ぎになりそうな気がする。

「まだ"仮"ですけどね、しっかりとした補佐者(サポーター)になるにはもっと時間が必要だわ。」
「だろうな。そんな芸当が出来るとしたらブルーくらいのもんだと思うぜ。」

そう言って同期の彼女の姿を思い浮かべる。
性格はともかく、彼女の仕事っぷりは誰にも真似は出来ないということは周知のことである。
この館の草創期においてはある意味彼女無しでは現在の館はあり得なかった、と言い切ることも出来る。
それだけの歴史をも背負って彼女はこの館に立っているのだ。

「…しかし、あの子も大変だな。丁度今の時期ってルビーが一番荒れる頃だし…そうでなくても最近めちゃめちゃ機嫌悪いのに。」
「でも…サファイアさんは上手くやっていけると思います。」
「……やけに自信あり気だな。何か根拠があるのか?」
「…直感っていうのかしらね?ただ何となくそう思っただけです。」

その言葉を聞き、少年は怯んだかのように声を失った。
この二人にそれほどまで言わせる人間だという事態に驚きを隠せないのだ。
イエローもクリスも、数ある補佐者(サポーター)の中でもあのルビーから称号(レッテル)を貼られた、 言わば血統書付きの正たる人材と言うべき者達である。
常日頃から仕事熱心だとはいえ、一人の人間にこれほど執着を持つとは。
後姿しか見えなかったあの少女が、彼女達にそれほどの言葉を言わせる存在だという事は驚愕に値する。

「…そっか。まぁ俺たちとしてもあの娘には頑張って欲しいところだけどな。」

既に居なくなった背中を見つめ、少年は小さく呟いた。

「そうだイエロー。今度グリーンと手合わせ何時出来るか聞いといてくれないか?」
「グリーンさんですか?それはいいですけど…でもいきなり何で…もうすぐ課外試合ですよ?」
「二週間後だろ?知ってるよ。だからそれまでの対戦相手になって欲しくてさ。」
「分かりました。じゃあ話を通しておきますね。」

補佐者(サポーター)同士は会議等で面識を持てる上、選手の内外問わずの行動を全て把握している為、 確実な予定を取り付ける事が出来る。
選手同士でやると軽く口約束を交わしてしまい、それが補佐者に伝わらず、あわや大惨事を起こす事にも繋がる恐れがある。
以前それで問題が発生した事から、選手同士での連絡の取り付けは禁止となったのだ。

「じゃあ私も行くわね。二人が待ってるから。」
「あっ、はい。じゃあ僕もこれで。」
「クリス、またな。」

藍色の髪を靡かせながら去っていく背中を見送る二つの影が、やがて建物の内へと姿を消していった。

戦イハマダ始マッタバカリダ

少女ハ闘志ヲ燃エ滾ラセテ進ミ行ク

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狽チてスペキャラ一人しか増えてねぇ!(笑)と真っ先に突っ込まれそうですねww
とりあえずこれから段々と誰が誰の補佐者なのかがじわじわと判明していきます
既に多分読まれてそうですが、その辺は色んな意味で周知だしまぁいいや(笑)
目標はとりあえず主人公ズを全員出す事です…頑張ろう(^^;)