Stubbornly Mind - 6

「では、これで朝集会(ミーティング)を終了します。解散、朝食を取って各自仕事に取り掛かるように。」

ブルーのその声を皮切りに、少女たちは一斉に動き始めた。
今日一日の選手(マスター)を含めた各自の予定。
来客、来賓等の有無とその対応者の選別。
その他各所に割り当てられた掃除や食事の当番の確認。
朝集会(ミーティング)では主にそれらのことの情報を交わし、そして朝食を取るというのが通例だった。
その日一日一日を無駄なく快活に過ごす為に、 補佐者(サポーター)にとってはとても大事なものである。
彼女たちは毎朝欠かさずにその報告会を朝晩の二度を行っていた。
晩の方は担当の人間によって定時の時間に集まることが出来ない者も居る為、 全員がその場に揃う事はそう滅多にないが、朝は遠征の者以外は必ず参加することとなっている。
この館の管理の一端を担う者としては、決して怠る事の出来ない行事であり、 それを無断で怠ることは断じてしないよう徹底されていた。

静寂を断ち切った後のざわめきが空間(あたり)を占めていく。
しかし、今日のはいつもと少し違っていた、先の出来ごとが原因だ。
勿論全て初めての経験だった当の本人には知る由もなかったのだが。
遅れただけではなく、自身の一日の活動予定ですらまともに言う事が出来なかった少女は、 ただただ己の不甲斐なさを嘆く。
昨日は主である彼の少年と言い争いまではしたものの、 肝心の仕事関係の話には一切触れる事がなかった。
つまり、今日一日の彼の行動はおろか、 自分が何をしなければならないのかすら全く分からなかったのだ。
自分の番になって発言はおろかまともに受け答えすら出来なかった。
悔しい、情けないという思いだけが空回りする。
回りの者達から向けられている視線にも気付かず、 もう二度とこのような失態はするまいと心に誓うサファイアであった。


朝食の席、七時から約半刻の間はこの大広間で食事を取る事が出来る。
担当場所などにより多少個人差はあるが、担当の選手の朝が早い者は足早に退室していく。
勿論この朝食も当番制だ。
食事係になった者は更に早い時間の起床を要求される事になる。
救いは朝食、昼食、夕食で担当がそれぞれ異なっている為、一日中従事せずに良いという事だ。
最も、人手不足で食事専用の係を設けられない状態であるが為に、 一人の人間を一日中拘束するようなことが出来ないからなのだが。
用意された食事を適当な座席へと運び、腰を掛ける。
少女のその足取りはやや重い。
後悔先に跡を立たず、未だ頭の中は昨晩と今朝の出来事(こと)でいっぱいであった。
普通ならばそれゆえに食事が喉を通りそうもないという、 言わば精神的な食不全になりそうなものなのだが、 どうしたものかそれでもお腹というものはやはり減るものだ。
昨日は主を迎える為に夕食を幾分か早く取ったが為に、 既に空腹による飢えの症状はピークに差し掛かっている。
これで空かない訳がないとは言え、この状況下に置いてこうも本能に従順な自分の身体を恨めしくも思う。

「…けど、腹が減っては戦は出来んって言うちね、仕方なかとよね。」

とりあえず、全ては食事を終えた後だ。
サファイアは目の前に並ぶ皿に手を付け始める。
と、そこへ二つの影が近付いてきた。
少女はその気配からあの二人だということにすぐに気が付き、視線を向ける。

「イエローさん、クリスさん、おはようったい。」
「おはようございます、サファイアさん。」
「大丈夫?ちょっと疲れた顔してるわよ?」

二人の少女はそのままサファイアの向かい側に腰掛けた。
今朝のこともあり、心配そうに見つめ返している二対の瞳と目がかち合う。

「あはは、やっぱ思ったよりもすぐに馴染めなかね。初日からえらい失敗やったとよ。」

罰の悪そうな苦笑いを浮かべながら亜麻色の少女は頭を掻いた。
皆の姿を見れば、 此所まで失態を犯したのは近年では自分くらいな者だったのだろうという事くらいは分かる。
どうしようもなく不器用でドジではあるが、空気が読めないほど馬鹿ではない自覚はあった。
早く仕事に慣れたいという思いは先走ってしまうが、 やはり自分の歩調(ペース)を保ちつつやらなければ結局の所上手くはいかないのだ。

「焦る必要はないわ、サファイアが一生懸命頑張ってるのはすっごく伝わってるもの。」
「とりあえず、今日一日しっかり働く為にも朝ご飯ですよ。」

笑顔で励ましてくれる二人の優しさに暖かいものを感じる。
その期待に一刻も早く応えたいと願うからこそ、胸が締め付けられるような感覚をも覚える。
食事を始めて間もない頃、今朝の奇妙な出来事をふと思い出す。

「そいえば、今朝のブルーさんのあれはなんやったんやろうか…」

普通なら遅刻してきたら新人とはいえ厳しい激が飛んできてもおかしくない。
だが彼女は遅刻を咎めるどころか理由すら聞かずにそのまま流したのだ。
それが此所の仕来たりだったとしても、あの妙な空気の説明にはならないだろう。

「なぁ、アタシ何か変な事ばしたとやろうか?」
「別に変という訳じゃないわ………ただ……」
「……ただ?なんね?」
「今までにこんなことなかったから、皆驚いたのよ。」

箸を動かす手を止めて、蒼い瞳を擡げ少女の姿を映す。
その何とも言えない複雑そうな顔を目の当たりにし、亜麻色の少女は困惑の念を胸中に抱く。
口を開いたのは隣りに座っているイエローだった。

「ルビー様はその戦闘能力、洞察力、言語術、どれを取っても素晴らしい方です。他にもご趣味で裁縫や編み物もされたり、とても器用な指先をお持ちなんです。」

とても表現能力(プレゼンテーション)の高いお方なので、 それに必要な能力(スキル)はどれも一流の腕を持っているんです。
少女はそう付け足し、更に言葉を続ける。

「ですから、ルビー様自らその人柄、能力を認めた方にはその証としてご自分で作られた物を与えて下さるんです。僕もあの方からこの衣装(ふく)を頂きました。」

そう言って向日葵色の少女は自分の手を胸元にあてがった。
明るい橙色を基調に、黄色、黄緑、 水色などの刺繍が所々に施された精巧な造りをしているスカートやブラウス。
幼顔で丈の低い彼女に合わせ、首もとや肩口、 手や太股辺りにある裾元に大きな編地(レース)をあしらってあり、 その小さな存在を引き立てる脇役として咲いていた。
確かに、よくよく見てみれば昨日自分が着ていた物と比べて明らかにその精巧度に違いがある。

「…もしかして、クリスさんのもそうじゃなかと?」
「ええ、そうよ。よく分かったわね。」

こちらは薄紫を基調として白い編地(レース)が装飾された、落ち着いた造りになっている。
イエローのそれとは違い、少し細かめの折目(プリーツ)が施された短めのスカートから、 黒いレースをあしらった太股丈の黒いスパッツが見えている。
腕も同様に同色同形状の七部丈の袖が肌に張り付くように伸びている。
こちらは機動性を重視した造りのようにも見える。

「と言っても、あの方に認められて証を頂いた人っていうのはそう多くありません。
 既に一人前として選手と共に出て行かれた方もいますが、今現在この館に残っているのはブルーさんと僕らだけです。」
「たっ…たった三人しかおらんと?!」

だから皆あのような反応を示したのだ。
ルビーという人間から物を与えられるという事実事態が珍しい。
それを目の当たりにした、その驚きから生まれた空気だったのだ。

「昨日来たばかりのサファイアさんが、あの方から衣装(ふく)を頂いた。本当にこれは今までになかった事なんです。」
「それも、証として頂くような世話用衣服(メイドふく)だったから尚の事だわ。多分皆尊敬というより疑惑の目を向けているに違いないわね。」

何故、どうして来たばかりで右も左も分からないような小娘に、 自分たちよりも早くそれを手にすることが出来たのだろうか。
今頃他の者の中にはそのような思いを抱いているものが沢山いるに違いない。

「サファイア、くれぐれも用心してね。決して仲間だからといって油断しては駄目よ。」
「ここ最近はルビー様の回りで立て続けに起こった件で、皆不安定になっていますから…何をされるか分かったものではないですしね。」

なるほど、事情が分かればそれ相応の対応(うごき)が出来る。
二人に感謝の意を述べ、再び食事を始める。

『…しかし、まさかアイツからの贈り物ばそれほど価値のあるものになっとるとは、おかしな世の中ったい。』

勿論この事実がこの場所だからこそ作り上げられたものであり、 世間から見れば虚無だということなど、サファイアの頭には消え失せていた。

証ガ背負ウ重圧(オモサ)、ソレユエノ窮苦(クルシミ)

コノ時少女ハマダ知ル由モナカッタ…

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いい加減ルビの量が減らないのかね自分(笑)いや、決してルビーの代わりではないぞ!ww
まだこれ6話目なんですねぇ…このまま行くと10話とかその辺が中盤になりそう…
ということは魔術師を超える長作になるってことかもしかして(爆)
次でようやく違うスペキャラ登場ですww長・す・ぎwww