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薄明かりが灯る静寂の間。
外界から微かに小鳥の囀りらしき音が聞こえ、次第にその明るさを増していく。 閉め切ったと思われた垂れ布から俄かに一筋、 二筋と光の束が差し込み、辺りを照らしている。 それは時が経つに連れて淡くなだらかな姿を変えていく。 強く輝くその姿が視界に入った頃、少女はうっすらと眼を開いた。 覚醒仕切らない脳に五感が懸命に指令を送る。 生き物達が活動を始め、辺りに静けさが薄れゆく頃にようやくその瞳に意識を取り戻した。 頭がぼぅっとする。 未だ眠りの淵に片足を突っ込んでいる状態で、回らない思考を懸命に巡らせる。 『…もぅ、朝ったいか?』 肌から感じられる温度、湿度等からまず今の時間を確認する。 時は恐らく、朝六時かそこらだろう。 日が昇ってから既に一刻程は経っている。 この時期は夏至に向かっていく晩春の時期 次に視界を窓から部屋の中程へと移動させる。 人間が一人二人で過ごすには十分過ぎるくらいに広すぎる空間。 向かい側、左右、天井、自分の背後以外の全ての壁面が落ち着かないくらいに遠い。 かつてこのような場所で暮らしたことなどない、寧ろ有り得ないといっていい。 一体此所は何処だ? 何だか見覚えがあるようなないような、そんな気がするのに。 思うように巡らない思考 広い部屋、綺麗な調度品、豪勢な壁画、煌びやかな照明。 一つ一つ、丁寧に思い起こしていく。 そうだ、此所はあの少年の部屋だ。 あの嫌に焼き付く深い紅色が鮮明に目に浮かび上がる。 瞬間、少女は唐突に全てを思い出した。 昨日の二人の話で、 補佐者 いけない、初回から遅刻だなんて気が弛み過ぎていると咎められるに違いない。 急いで仕度をしなければ。そう思って掛布団から抜け出そうとしたその時、 昨日の情事を思い出した少女はハッと動きを止めた。 仕度というが、昨日自分が着ていた衣服はボロボロになってしまったのではないか。 どうしよう、着るための服がなければどうしようもない。 一人で寝るにはどう贔屓目に見ても大き過ぎる寝台 既にこの部屋の主は隣りから姿を消している。 今日も朝から面会だの何だので出かけてしまったのだろう。 その見送りすら出来ずに寝てしまっていた自分にも尚の事悲しみを覚える。 何故この部屋に補佐者 しかしよくよく考えてみれば、多忙過ぎるこの屋敷の主と生活を共にし、 生活面から何まで全てを補佐していく為には常に側にいた方が効率が良いのだ。 寝台 大人二人が横に並んでもまだ余りある程だ、自分くらいの年端の人間なら三人でも十分な幅を持つ。 だから、隣りに並んだぐらいじゃ互いに触れはしない。 男女の間柄とはいえ、その辺りに気を使いさえしなければ大丈夫だろう。 何よりも主人たる彼の少年とは生活時間が違い過ぎる為、 共に食事や風呂や就寝を取るなどがそもそも珍しい。 世話係りとしては、 生活範囲 その現実 初日で幾分疲れがあったとはいえ、不覚にもまた失態を侵してしまった訳だ。 気落ちする自分を叱咤しつつ、とりあえず此所に居ても仕方がないと寝台 昨日収納 正直どうした物だろうかと頭を抱えるしか術がない。 一体どうしたものかと辺りを見回した、その時だった。 視界に昨日までそこにはなかった物が入り込んだのは。 部屋の中央に置かれた長椅子 視力の良いサファイアにはそれが何なのかすぐに見分けが着いた。 驚きと戸惑いを抱えて、ゆっくりとそこに歩み寄っていく。 置かれていたのはどうやら衣服のようで、その上にメモ紙のような紙片だった。 拾い上げて紙面をなぞるように目を通す。 『おはよう、っていうかおそようっていう次元だね完璧に。しかしまぁ警戒心の欠片が微塵も感じられない寝顔だったね。それはさておいて。 昨日のアレで服ボロボロになったから困るだろうと思って、代わりの用意しといたよ。経緯はともかく、一応僕にも責任あるしね。 でも主人にこんなことまでさせる補佐者 「なっ!」 なんね一体この嫌味タラタラな置き手紙は!! 思わず口に出して叫びたくなる衝動を堪えて、少女は静かに絶叫した。 だがその怒りの淵もすぐに静まる。三十分を告げる鐘が一回鳴り響いたのだ。 「いけんち、早く行かんと!」 迷ってる暇はない、急がなければ。目の前に置かれていた衣服を引っ掴んで少女は動き出した。 爽やかな朝焼けから煌めく陽射が差し込んでくる。 カーテンを閉め切って遮るものの、その隙間から幾筋もの帯が漏れ溢れている。 少女でごった返すそんな大広間に、明瞭な声音が響き渡った。 「はいはーい、皆集合〜朝ミーティング始めるわよ〜!」 声を挙げたのは補佐者長 広間中に彼女の凛とした声音が響き渡る。 その合図 それが、此所大広間のいつもの朝だった。 そう、次の一瞬が来るまでは。 「さて、全員揃ってるかしら?」 「ブルーさん、あの子が居ないわよ。」 「あの子?」 「昨日の新入りですよ、初日から寝坊かしら?」 「でも確か今朝早くルビー様が外出されたみたいだし、まだ部屋の整理とかやってるんじゃないの?」 「まさか、もう朝よ?そんなに時間掛かる訳ないじゃない。…もしかして初夜に早速ヤられちゃったとか?」 「有り得る〜もう逃げ出してたりしてね。」 「いい加減にしなさい!」 はやし立てる同僚 その一瞬の喝で場の空気共々動きというもの全てが停止した。 栗色の長髪が揺れる。 「朝っぱらから不謹慎よ、仲間を心配するならまだしもからかいの対象にするだなんて冗談じゃないわ。」 「すっ…すいません……」 「…とりあえず全員揃わないと朝集会 バタンッ 「…すっすまんち!遅れてしもうたったい!」 勢い良く開け放たれた大広間の大扉。 入ってきた人物が誰であるのかは分かりきっていた。 その筈なのに、広間中には一瞬で驚愕の空気が流れた。 言葉を失い、目を大きく見開いたのは、補佐者長 驚きの原因を生んでいる当の本人は、自分が最初の朝集会 「もっ…申し訳なか、早起きには自信あったとやけど…ちょっと昨日色々あったち、思うたより上手くいかんくて…」 「サファイア…貴方…」 「本当にすまんち!罰ならいくらでも受けるったい!やから何でも言うて…」 「違うわ、アタシが聞いてるのはそんなことじゃない。」 「…へっ?」 てっきり寝起き同然の顔や寝癖の残る髪をしたままやってきた自分に対して、 女らしさのかけらもないなどという呆れを彼女に抱かれ、一体昨日は何をしていたのかと問い詰められるのだ。 そればかり思っていた亜麻色の少女は勢いを削がれた。 やけに真剣な面持ちでじっと自分を見つめている青い瞳に気付き、戸惑いの色を浮かべる。 栗色の長髪を靡かせながら少女が近付いてくる。 「…サファイア。この服、どうしたの…?」 「えっ、あっ…ふっ服?」 サファイアが身に纏っていたのは昨今の時に着ていたものとはまるで違った。 黒を基調にした衣服 黒や灰、銀色のレースをあしらった優美 決して派手であるとは言えないが、その生地のどれを取っても良い代物であると誰もが認めるであろう。 これは先ほど、サファイアが部屋の長机 「あっ…こっ、これは…えと……」 「ルビー様から、頂いたのね?」 特に問い詰めもしない。 少女はただその事実が真実であるのか、それだけを問う、ただそれだけ。 どう答えて良いものか分からない少女は、ただ肯定を示すためにおずおずとしながらもコクリとうなづいた。 それを確認したブルーはそう、と一言だけ答えて視線を逸らした。 踵を返すように歩を進めながら声を上げる。 「これで全員揃ったわね、後の予定が遅れないようさっさと朝集会 その一声が響き渡ると皆我に返ったように勢揃いを始める。 事態の収拾がすぐに読み解けずにいたサファイアも、焦りを押さえながら遅れてそれに習った。 大広間に再び静寂が戻りつつあった。 マサカコノ瞬間ガコンナニモ早ク来ヨウダナンテ 一体誰ガ思ッテイタダロウカ… back next close
この話から文章を打つ携帯が変わってしまったので、最初文字数を合わせるのに目茶目茶戸惑いました(^^;)
機種によって文字数の表記の仕方に違いがあるのは本当頂けないなぁ〜結果的には何とかなったけどさ(苦笑) けど正直区切りがすっごく悪くなったと思ってます、どこで一回切れてたのかバレそうだな;; この次からは気をつけられて大丈夫になっているはず…多分(えぇぇ) |