Stubbornly Mind - 23

赤樫で出来ている木製の武器は、かち合う度にカンッ!カンッ!と甲高い音を立てる。
両者の間合いが付かず離れずを繰り返し、時折強い踏み込みがあると鈍い音が響く。
またその瞬間相手から繰り出された一撃を軽々と避ける仕草もあり、――避けるのは主にルビーであったが――かち合う音の間隔は疎らだ。
ゴールドの攻撃は些か動き(モーション)が大きい風に見えるが、隙は作ってないのだろう。
交わして即座に攻撃を仕掛けてくるルビーに、負けじと直ぐ様反撃をしている。

「隙あり。」
「うぉっ!!………っとっ!」

相手の攻撃を受け流した瞬間に切り返し、眼前の空を凪ぐ。
寸前でその攻撃を避け、身体を捻りながら間合いを取る形で、ゴールドは体勢を立て直した。
見遣る紅色の瞳は常より何処か冷めた色をしており、雰囲気そのものが厳かだ。

「……けっ、相変わらず涼しい顔しやがって。容赦ねぇなぁ……ったくよぉ。」
「今のは良く避けたね。言葉通り、少しは成長したのかな?」
「何時までも似たような手に引っ掛かる俺様じゃねぇぜ?」
「じゃあ、これはどうかな?」

ほんの少し口角を引き結ぶと、身体全体が真っ直ぐ地面に向かって倒れ込むように上体を傾けていく。
倒れていく身体に合わせて前に出された脚を力一杯踏み締めて、まるで飛んでいく矢の如くゴールドに向かって直進する。
あっという間に間合いを詰められ、一旦攻撃を受け止める他ないゴールドは、勢いに押されぬよう全身に力を込めて踏み留まった。
武器に添えた両手に相当力が籠っているのだろう。
攻撃に耐えている為酷く震えている。

「くっ………!!」
「さぁ、押し返せるかな?」

涼しげな顔をしてルビーは目線だけをゴールドに向けて挑発する。
瞳にはいつものような色がなく、例えるなら獲物を狙う野生の肉食獣の、狩りの最中に見せる狂気の姿。
今にも相手を仕留めんと襲い掛かってくる獣に、補食獣は怖じ気付いて逃げ出し、拮抗する獣ならば命を賭して全力で向かっていく他ない戦い正にそのもの。
今までの彼の戦いぶりは査定期間の間幾度となく見てきたが、これほど戦う彼の姿に恐怖を覚えたのは初めてだ。
――恐らくこの館にやってきた初日、彼に組み敷かれた時に感じたそれに良く似ているが、それ以上だ。――
昨日まで垣間見えていた笑みが何一つ見当たらない処か、発される威圧感の強さにただただ圧倒されてしまう。
そうだ、今まで見せていた戦いの最中は何だかんだと何処か余裕めいた態度でいた。
箍が外れるとこれほどまでに変わるものなのか。

「……っ!!うっ……らぁぁああああ!!!」

ゴールドは腹の底からの雄叫びと共に、全身に力を込める。
少しずつだがかち合った剣の軌道が身体の中央まで下がってきて、何時でも互いが切り返して反撃出来る位置になった。
しかしゴールドはひたすら彼の攻撃を力で押し返したいようで、敢えて真っ向から攻撃を押さえ込んでいる。
ルビーも分かっているのだろう。
力のベクトルを変え、その軌道を反らせば彼ならいとも簡単に逃れる事が出来るに違いない。
それどころかそのまま急所への攻撃を仕掛けることだって容易ではなかろうか。
相手からこれだけ押し返されようとも、表情は微動だにしないのだから。

「頑張るねぇゴールド。でも、押し合いだけじゃつまらないからさ?いい加減切り返しなよ。」
「へっ、だったら…てめぇがやれば、良いだろうが。俺にいちいち…指図…すんじゃ、ねぇよ!」
「相変わらず強がりは一丁前だよね。……本当に、知らないよ?」

更に表情が冷たくなり、発される言葉からも温度がなくなった。
視線を向けられている訳でもないのに、全身に恐怖が駆け巡り、少女は自らの鳥肌を押さえ込む余裕すらなくなった。
その時だ。
捻るように武器をくねらせて、相手の押しを受け流すような形で身体を翻す。
あっという間に呪縛からスルリと抜け出し、ゴールドが気付いた瞬間には側面にその身が移されていた。
辛うじて途中で込める力を緩ませて、前のめりに崩れ落ちる事は避けられたが、踏ん張ったその瞬間が"隙"となってしまった。
握り手を切り返したルビーが、下から上に武器を振り上げる形でゴールドの手からそれを弾こうとする。
これも何とか飛ばされないよう、少年は手に力を込めて留まるものの、あらぬ方向からの攻撃に腕が痺れるのを感じた。
その瞬間、視線の先にあった紅色の瞳とかち合い、聞こえない筈の声が聞こえた。

『終わりだよ?』

更に切り返した武器で、そのまま勢い良く相手のそれを地面に叩きつけるように斜めに凪ぐ。
余りの力と速度に、痺れで感覚の鈍った手が追い付かず、そのまま柄が掌からこぼれ落ちてしまった。
気付いたときには時既に遅し。
地に勢い良くぶつかり、カランカランと乾いた音を立てながらゴールドの武器は転がっていってしまった。
そしていつの間に切り返したのか、首筋には一撃を与えんとした武器の胴身が宛がわれていた。
首に触れるまでの時間は極僅か。
武器を飛ばされ、しまったと思った瞬間には既に宛がわれていた為、攻撃そのものの速さに驚愕せざるを得なかった。
その一部始終を目撃した者達も発する言葉が見つからず、ポカンと口を開けたまま放心していた。
勢い良くその首筋目掛けて降り下ろされた武器が寸での所で止められた時は、実戦であれば間違いなくゴールドが命を落としていたであろうという事は直感的に直ぐに分かった。
剣であれば間違いなく、例え今使用している打撃系の武器であっても、ルビー程の力をもってすれば脊柱ごとへし折られていたに違いないのだから。

「Game set.僕の勝ちだよ?ゴールド。」

まるで相手を恐怖で支配せんとするかのような、地底を這うような低い響きの声音が零れる。
表情も鋭いままで既に瞳にはゴールドの姿処か光すら灯っていない。
今まで見せたことがない程の凄惨な姿に、サファイアは背筋を凍らせていた。

『これが……ルビーの本当の能力(ちから)と…?!』

今までの試合でも充分過ぎるほどの能力(ちから)を見せていたというのに。
まだこれ程までの力を有していたのかとただただ驚く他なく、ルビーから視線を外すことが出来なかった。
既に勝敗が決したと悟ったゴールドも、表情を柔らかに崩して溜め息混じりに言葉を紡ぐ。

「……へっ、参ったよ。俺様の負けだ。」
「そっ…そこまで!勝者、ルビー様!」

触れるか触れないかの位置にあったそれが、ゆっくり離れていく。
軽く持ち直して試合の終了の合図と共に、互いに礼を交わす。

「今回は俺の負けだ。けど、次はぜってー勝つからな!」
「まぁ、怪我しなくて良かったね。」
「良くいうぜ、あんだけ思いっきり捻り込みやがって。腕持ってかれると思ったぞ?つか、少し捻っちまったしよ。」
「だから、その程度で済んで良かったねって言ってるんだよ。
 もう少し武器を手放すのが遅かったら、腕の筋が断裂してたか関節外れてたよ?」

本気の僕と戦った人は何人も病院送りになってるからね。
さらりとおぞましい言葉が放った表情は未だ感情の抜け落ちた状態で、辛うじてうっすら口角が引き上げられていたが笑みにはなっていなかった。
その言葉にやはり何かを感じたのだろう。
ゴールドは目を見開いて目の前の少年を凝視していた。

「……けっ、相変わらず容赦ねぇなぁルビーは。ま、今回は俺が吹っ掛けた事だからこれ以上何も言わねぇけどよ!」

周りの人間には充分気を配ってやれよ?
そう言って首だけで合図を送る。
視線で示された先には少女が二人。
心配そうに見つめている藍色の髪の少女と、驚きと動揺を隠せない亜麻色の髪の少女の姿があった。

お前(めぇ)はいっつも言葉が足んねぇからよ、すっげー驚いてるじゃねぇか。もう少し自分の補佐者(サポーター)には気を付けてやれよな。」
「……必要ないよ。僕は別に一人でも問題ないし、今更誰かの手なんて借りなくったって一人で全部出来…」
「あ"ー!!!っそういう事じゃなくてだなぁ!!だから具体的にこーするあーするじゃなくて…」
「言ってることの意味が良く分からないんだけど。話すんならちゃんと筋道立ててからにしてよね。」

漸く終わったことだし、僕はもう休みたいから。
そう言葉を切ってその場を後にしようとルビーは踵を返す。
部屋の隅に転がっている己の帽子を拾い上げると、その足で出ていってしまった。
淡々と告げられるだけでまるで会話になっていない。
慌てて引き留めようと声を上げそうになったが、もはや相手が全く此方の言うことを聴いていないと悟った少年は言葉を飲み込んだ。

「…ったく、ルビーの奴。俺の言うこと全然聞かねぇんだからよ。」
「お疲れ様ゴールド。前回よりも動きは凄く良くなってたわよ。…それにしても怪我しなくて良かったわね。」
「おい、お前(めぇ)もアイツと同じ事言うのかよっ!」
「だってそうでしょ?本気のルビー様相手に病院送りにならなかったのは、奇跡としか言いようがないわ。」
「ったく、どいつもこいつもまぐれみたいな言い方しやがって……おい、大丈夫かサファイア?」
「…えっ、……あっだ、大丈夫とよ。」

急に声を掛けられて思わず声が上擦ってしまったが、サファイアは何とか言葉を紡ぐ。
やはり心に受けた衝撃は大きかったのか。

「そっか、なら良いんだけどよ。」
「サファイア、此処は私達で片付けておくから戻って良いわよ。」
「えっ…で、でも……」
「いーからいーから。早くアイツのとこに行かねぇと、また『遅い!』とか言われるぜ?
 余計な嫌味なんざ聞かねぇようにした方が良いって。」
「…ありがとと、助かるったい。すまんち、先に戻るとね。」

背中を押す言葉を受けて、少女は踵を返して去った少年を追いかけていく。
その後ろ姿を見送る二人は、何処か儚げだった。

「何かあったの?ゴールド。」
「あっ?何でまたそんな事言うんだよ。」
「貴方にしては随分優しい言い方だったから。」
「何だよ、俺がまるでいっつも口が悪いみたいに…」
「事実でしょ?」
「………。」

キッパリと言い切られてしまい、最早返す言葉がない少年は悲しげに押し黙るしかない。
部屋の隅っこで丸まった姿には苦笑いが零れるほどに。

「ちょっと、何落ち込んでるのよ。普段からしゃんとしなさいって言っても聞かないからでしょ?ったく、世話が焼けるんだから。」
「……アイツがさ、何時もよりも余裕がなさそうだったからよ。」
「アイツって、ルビー様の事?」
「なんつーか…精神的な心の余地がなかったっつーか、査定終わったとこだし一人にするのが心配でよ。
『僕は一人で大丈夫』とか言ってたから、尚更な。」
「……そうね。」

この場に姿のない二人の事を思い浮かべ、ゴールドとクリスタルは扉の向こう側へと思いを馳せた。


急いで追いかけたがまるで姿がなく、そのまま自室まで戻ってきてしまった。
査定が終わったあとは何時も此処に返ってきて汗を流す為、戻ってきている筈なのだが。
乱れた息を深呼吸で整えつつ、扉に手を掛ける。
左手に置かれている長椅子(ソファー)にその姿を認め、少女は安堵する。
身を沈めるように深く腰掛けており、息付く表情はやはり常の彼には見られないほど暗い。
あれほど人前で外す事をしなかった帽子もまだ被っておらず、余程疲れているようだ。
いつも強い輝きを放っている瞳は閉じられたまま頭を垂れている。

『この三ヶ月以上、まともに休んどらんもんね…無理もなか。』

緊張緩和(リラックス)出来るようお茶を入れようと台所(キッチン)へと向かおうと、彼の横を通りすぎた、その時だった。
視界の端に何かが緩やかに倒れていくのが見えたのは。
ハッと慌てて振り返った目先に、ドサリと音を立てて長椅子(ソファー)に横たわるようにルビーが倒れていた。
前触れが無かっただけに妙な胸騒ぎを感じる。
小走りで駆け寄っても、反応がないのだ。

「ルビー?大丈夫とね??」

彼の肩に手を掛けたその時だ、苦痛に顔を歪めている顔に額からは大粒の汗が滲んでいることに気が付いたのは。
触れた肩には常日頃の体温以上の熱を感じ、慌ててその頬に手を当てる。

「熱か、凄い熱とね!……ルビー!?しっかりするったい!!」

恐らく既に意識はないのだろう。
肩を揺すっても彼からの反応はなく、ただ浅い呼吸が聞こえるだけだった。
きちんと計っていないが、体温は既に38℃を優に越えている、急いで体温を下げに掛からないと40℃を越えるのも時間の問題だ。
そう己の感覚が叫んでいた。

「急がんと…命にも関わるったい!」

時間限界(タイムリミット)まで幾らあるのだろうか。
最早悠長に考える暇など無く、焦燥感と不安ばかりがサファイアを急き立てていた。

目ノ前ノ姿ガ"アノ日ノ姿"ト重ナリ、ココロガ警鐘ヲ掻キ鳴ラス

オ願イヤカラ目ヲ開ケテ…モウアンナ思イヲスルノハ絶対ニ嫌ッタイ…!!

back   next

close



戦闘シーンも結構この査定編で書いてきたので、レパートリーが難しいなと思いながら仕上げました^^;
此処では"箍が外れたルビー"をどうやって描くかっていうのが焦点だと思って色々悩みつつ。
でも長引かせるわけにもいかない…ってことでこんな形で終わりましたww
ゴールド良いトコ見せられなくてごめんよww
そして話は大きく転がっていきます、多分予想は付いてたんじゃないかなとか思ってますが^^;
この先をどう纏めるかがこの話の鍵になります。頑張らないとな…(何だか話数かさみそうな予感ヒシヒシ)