Stubbornly Mind - 16

「剣術っつーのは一刀流と二刀流があってだな。基本は一刀流は一刀流同士やるってのが普通だ。
 けどアイツは査定の時は業と相手が苦手とする流派を選ぶんだよなぁ。
 やりづらいぜ、一刀流の奴が二刀流の相手するのも、その逆も。」
「なっ…なるほど……」
「素手の戦闘方式の方がもっと顕著だ。酷い時は攻撃を全てかわされた挙げ句、急所に一突きされて終わる場合もあるしな。」
「かと言って全部受け止められて捩じ伏せられるのだってすっげぇ()だぜ。
 上からすんげぇ憎ったらしい目で見下しやがるんだぜアイツ。」
「あぁ、肉弾戦方式の場合はその流派にも寄るが…例えば柔道ならば背中を地面に付けたり、地面に押さえ付けられて動きを一定時間
 奪われたり方が負けという感じだ。」
「なっ…なるほど……」

競技の説明の合間に己の主への小言が多々入る事はさておいて。
それぞれの選手(マスター)の得意能力について、しっかりとメモを落としていく。
時折実際に鍛練している様を指差してくれるのを目で追ったり、手真似(ジェスチャー)を交えてくれるときはその姿を目に焼き付ける。
文字ばかりの記憶は苦手だが、こういう見て聞いて覚えることは好きだったから今までで一番しっくりときた。
しかし同時にもう少しこういった格闘技や能力(スキル)について知識を持つべきだったとも、思う訳だが。

「そういえば、ゴールドさんの”棒術”ってどういうものと?何かイマイチピンとせんち、よう分からんくて…」
「おうよ、良くぞ聞いてくれた!俺様の棒術っつーのは…」
「御託は良いから、手短に話せよ。」
「イチイチうっせぇなぁっ!!わぁ〜ってるよ!!」

シルバーに悪態をつかれて怒りの色を少々滲ませながらも、 ゴールドは自分の腰からぶら下げていた細長い小物入れ(ポーチ)から持手(グリップ)の付いた棒を取り出した。
それを勢い良く振り下ろすと、仕舞われていた金属棒が次々と現れたのだ。
――少しずつ太さの違う筒状の棒を重ね合わせ、それぞれの繋ぎ目が抜け落ちないように内側で引っ掛かるように造られているのだろう――

「これが俺様の相棒(・・)よ。」
「おぉ!!凄かね!!こんな長い奴が縮んどったと思わんかったち。」
「……お(めぇ)、今の分かってねぇだろ。」
「ふぇっ?何の事と??」
「止めろゴールド。ジョウト式の冗談(ギャグ)が此処で通用すること自体が間違っている。」
「んなこと言われちまったら、俺の立場ねぇじゃん。」
「???えっと…アタシ、何か変な事ば言うたやろうか??」
「良いんだ良いんだ、お(めぇ)は気にすんな。さっさと続き始めっぞ。」
「Σはっ!わっ分かったとね。」

伸ばしたキューを器用に手の中で滑らせて、持ち手の部分を床に付けると、 少年は先端を掌で弄ぶようにバランスを取りながら床に立てた。

「俺の場合、棒を使った競技全般が守備範囲だ。棒高跳び、やり投げ、薙刀なんかもやるな。
 勿論戦闘スタイルも武器使用形式なら武器用の長い奴を使う。ビリヤードなんかは得意中の得意って奴さ、百発百中だぜ?」
「お前の場合はギャンブル全般的に好きだろうが。」
「うっせぇ、お(めぇ)は黙ってろ。」

背後に居た赤髪の少年に対して悪態を付きながらも、手にしていたキューを器用に弾ませて手に握ると、あっという間に元の縮んだ状態に戻してしまった。
その余りの素早さと手慣れた動きに、少女は感嘆の息を漏らすばかりだった。

「凄か!今手元ば全然見とらんかったとに!!」
「こんくらいは朝飯前よ。」

へへんと鼻を鳴らしてゴールドは得意げに胸を張った。
その姿を目に留めているのかいないのか、サファイアは黙々とメモ帳に"ゴールドの棒術について"書いていく。

「えっと…じゃあシルバーさんの"射的"っていうのも、色々含まれるとね?」
「あぁ。」
「コイツ本当に"的を射る"ヤツ全般でよ!ダーツだろ?コルク銃、拳銃、猟銃、弓道にアーチェリー。
 …こないだ手裏剣とフリスビー投げてた時は流石にビビったぜ、お前俺以上に何でもアリだよな。」
「……それに付いては否定しないが、俺の言葉を奪うな。(怒)」
「凄かね!!二人とも他の人には真似出来ん能力(スキル)ば持っとるとね。」
「オイオイ、忘れてねぇか?サファイア。」
「えっ?」
「居るだろう?とんでもない性能(スペック)の持ち主が、お前の一番近くに。」
「……Σっ!!」

問われて今は姿のない己の主を思い出す。
彼等の言葉は、こんなことで驚いていては、まるで異次元の如く超越した彼の潜在能力を掌握することなど不可能だという事だ。
既に幾度となくその事を伝え聞き、未だ実感が沸かないが決して嘘ではないのだろう事実を突き付けられている。

「……もしかしてアイツ、レッドさんとグリーンさんが戦った時のような激しい戦いばしよって、尚且つゴールドさんやシルバーさんの得意
 分野も普通にこなすとね??」
「残念ながらそのまさかだ。」
「つかお(めぇ)ルビー相手にアイツ呼ばわりって、大した度胸だなオイ。」
「アイツば根性の曲がった捻くれ(もん)とね!幾ら凄か能力ば持っとうとも、人間としてなっとらんち!それとこれとは話が別ったい。」

力強く言葉を放つ少女に対し、二人の少年は目を円くするばかりだった。
まさか誰もが尊敬し畏怖する存在である彼に対して、こうも堂々と日々の言動を批判する者が居るとは。
己達の補佐者(サポーター)である少女が自信有り気にこの少女を立てていた意味が、何となく分かった気がする。

『肝が据わってるっつーか…コイツ、周りに惑わされずに真っ直ぐルビーの事見てんだな…』
『己の価値観がしっかりしている。だから流されずに正しき道を選べるという訳か。』

各々にそのような事を思いながら、亜麻色の少女をまじまじと眺めた。

「……えっとぉ………アタシ、、何か変な事ば言うたとね?」
「いや、なんつーか……アレだ。珍しい奴が居たもんだなって。」
「珍しい??」
「ルビーの悪口だなんて陰でも言う奴いねぇっつー事だよ。誰もが皆恐れている、それこそ神様?的な存在だもんよ。」
「日本語を喋れゴールド…サファイアからクエスチョンマークしか浮かんでいないぞ。」
「…最後のはよう分からんかったけど、アタシはただ事実を言っただけったい。別にアイツの悪口じゃなかとよ?」

ルビーの根性の曲がり方を否定する一方で、そうなった経緯に関しては頷ける節はあるのだ。
彼が僅かに零した本音とも言えるあの言葉を耳にしなければ、単なる偉そうにしている嫌な奴で終わっていただろうが。
人を小馬鹿にして笑うような面がある一方で、約束を守ったり己の行動に対する過ちを素直に認める等、責任感のある行動も見せるのだ。
――でなければ自分の為に睡眠時間を削ってまでわざわざメイド服を仕立てる事などしないだろう――
最も、わざと少女を疑惑の渦中に放り込むような事を平気でしている時点で、やはりその性根は曲がっているとしか思えないけれども。

「アイツの悪か所はいずれ突き詰めて正してやるったい。今は殆どこっちに帰って来んちどうしようもなか。
 せやからアタシはアタシの出来る事をするとね。」

そう言い放つと、最後に聞いたシルバーの能力"射的"について、メモの上にペンを走らせはじめた。
少年達は、目の前の少女が持っている"意志を貫き通す強さ"に触れ、何かが変わる予感を感じるのであった。
"彼を取り巻く環境に変化を齎す"事を、心の何処かで諦めていた事を思い知らされたのだ。

『通りでクリスが肩入れする訳だ。』
『これは久々に、アイツの仏頂面以外の顔を見られそうだぜ。』

未来に光りが射したような心地で、二人の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

「うっし!んじゃ次の能力(スキル)説明すっぞ!!」
「えっ!ちょっ、ちょっと待つったい!まだ書き終わってなかt」
「武器を使うヤツは、剣や俺様の棒以外にも色々あってだな。剣の次に多いのが薙刀だな。
 そうそう、剣の中にも長刀と短剣があって…」
「わぁぁあああ待つったい〜!!全然頭が回らんとねぇぇ!!」
「ちょっと、二人とも!何サファイアを虐めてるの!」

甲高い透き通った声が響き、少年達の目が一瞬で丸くなる。
聞き覚えのある声がして、各々がその姿を頭に浮かべながらゆっくりと振り向いた。
想像に違わぬ少女の姿がそこにあった。

「クリスさん!」
「げっ、もう戻ってきたのかよ!」
「……。」
「げっ、じゃないわよ!今日こそは大人しくしてると思ったら、サファイアに何してたのよ!」
能力(スキル)の事が分からねぇっつーから教えてただけじゃねぇか!別に嫌がらせしてた訳じゃねぇぞ!」
「そっそうったい。アタシが何も分からんち、空いてる時間で教えてくれるち言うてくれたとね。」
「それは初めの方の事でしょ!?今明らかにサファイアは困ってたじゃないの、意地悪してたことに変わりないじゃない!」

怒りをあらわにした透き通った瞳が、金の瞳と銀の瞳を一突きに射抜く。
その強い視線に少年達の輝かしい瞳には惑いの色が混じり、二の句を告げられないでいた。
どうやら二人ともクリスタルには頭が上がらないらしい。

「ごめんねサファイア。うちの二人が…世話焼きなのは良いんだけど、ゴールドったらすぐ調子に乗るし、シルバーも他人のペースに合
 わせるのが苦手だから…」
「おいお(めぇ)、人のこと褒めてんのかけなしてんのかどっちだよ。」
「止めろゴールド。逆らっても無駄だ。」
「…ぷっ、三人共仲が良かとね。」
「「「はぁ〜〜!?」」」

心外だとばかりに驚嘆の声を上げる三人の息は、誰が見てもぴったりで思わずまた笑みが零れてしまった。
それはこの三人が共有してきた時間が作り上げた、無意識の域にある絆があるからこそ現れている事を肌で感じたからだ。
そしてその絆こそがとても大事なのだという事を実感した。
悪いところは指摘し合い、認める。
良いところは認め合い、それを生かす。
そんなことを自然とやってのける間柄なのだ。
だからこんなに、大声を上げて怒りを露にしたり素直な言葉を紡げるのだと。
"羨ましい"という感情がこみ上げるのも、藍色の瞳の少女には無理も無いだろう。

「ほら、また三人ともハモってるったい。」
「こっこれは条件反射っつーか、言葉の綾でな…」
「…今の文句には俺達皆同じ反応をするのは当然だろう。」
「とっ、兎に角!書類提出は終わったから、訓練室に行くわよ!!」

罰の悪そうに早足で藍色の髪を揺らしながら少女が進んでいく。
その後を二人の少年は慌てて追いかけていく。
途中で黒髪の少年が爆発している前髪を振り仰ぐようにこちらを向いた。

「えっと、俺たちもう行くけど、お前どうすんだ?」
「あぁ、気にせんでええったいよ。そろそろ戻ろうち思ってたとことね。  ゴールドさん、シルバーさん、色々ありがとうったい。」
「ごめんねサファイア。また夕集会(ミーティング)でね。」
「また何かあったら何時でも言いに来い。」
「じゃあなサファイア。またな。」

それぞれ亜麻色の少女に言葉を投げかけて、三人は連れ立って去っていった。
その後姿を見送りながら、寂寥感と共に胸の奥に別の苦しさを覚える。
選手(マスター)補佐者(サポーター)は常に行動を共にし、 互いの弱点を指摘し、補い合い、支えていく、対の関係。
そこに上下関係など存在せず、それぞれの長所短所を含めて認め合う関係だと。
この館を訪れた時、ブルーがそんな事を話してくれた事を思い出した。
イエローとレッドも、エメラルドとラティアスも傍から見ても仲睦まじくあった。

『アタシとルビーも…そんな関係になれるんやろうか。』

彼は本当に天才と呼ばれる存在で、欠点と言えるものはあるだろうが、弱点と言えるものはまるで見受けられない。
悔しい話だが自分一人が彼の傍に増えたところで邪魔にしかならない訳だ。
彼の隣に己の存在意義を見つけられるかどうか、数週間経った今でも全く確証を抱けなかった。

『それでも、アタシの持つ何かが、彼の欠点を補えるなら…』

意義を見出せるかもしれない。
少なくともこの館で彼に向かって堂々と言いのけているのはどうやら自分だけのようだ。
――最も殆どの者が畏怖によって口を出せないか、しっぺ返しが怖いから関わらないようにしているかだからなのだが――
ならばそこから勝機を見出すしかない。

『…てゆーか、アイツの欠点って"誰にも頼らん所"と"根性が曲がっている所"とよね?
 独りよがりの我侭坊やったいかアイツは。』

少女が考えに考えた挙句、結論として出てきた事は仲良くやっていけそうな気がしないという事だった。

人ハ誰シモ初メカラ完璧ナ者ナドイナイ

ダカラ"成長"シテ大人ニナッテイクンダ

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この話を考えた当初は、ジョウト組がこんなにでしゃばるとは思っても見ませんでした(笑)
でもエメも出たしレド&グリーンも出たのに彼らがあそこしか出ないのもなぁ〜とか思ったらこんな所に^q^
とりま主要人物の関係性が何とか粗方書き切れたような気がするので、此処からザッと本編を切り込みたい…
…と思っているのですが大丈夫かな自分、既に16話て物語の確信にも触れてないのに(^^;)
予定としてはルビーの本心とサファイアの過去への切り込みへの方向に何とか持って行きたい…
(そうしないとこの話自体が終わらないという事に…)