Stubbornly Mind - 11

丁度お昼時ということで、大食堂は朝の静けさから一変していた。
元より選手(マスター)の人数を入れても五十に満たない数しか居ないのだが、 それでも補佐者(サポーター)の数だけ選手(マスター)がいるとなると人気が多く感じるものだ。
昼食を求めて賑わう群れに、サファイアは目を見張るしかなかった。

「うひゃあ〜いっぱい人が居るとね!たまげたち。」
「そう?言うほど増えては居ないはずけど。まぁ男率が上がったことで騒がしくなったのは確かだけどね。」
「グダグダしているんだったら先に行くぞ。」
「んもぅ、つれないわね〜乙女の雑談くらい付き合いなさいよ。」

丁度カウンターは混み合いの最高潮(ピーク)が過ぎ去った所だったようで、並んで直ぐに自分達の番になった。
サファイアは取りあえず無難なAランチを頼み、ブルーと共に空いている席に着いた。
その後向かい側にグリーンが腰を下ろし、長机(テーブル)の一角が埋まった。

「今日は当たりね、白身魚のムニエル美味しいのよね〜vv」
「そうとね、タルタルソースを絡めて食べると凄か美味かよ。」
「…話をするんじゃなかったのかお前たち。」
「やーね、それとこれとは別よ。ちゃんと分かってるわよ。」

美味しそうに一口ムニエルを頬張った後、栗色の少女は隣の少女に目配せする。
一方サファイアは本来の目的を思い出し、端と自らの箸を止めて硬直してしまう。
そうだった、何のために一緒について来たのか。
一瞬遅れてその青い瞳へと視線を移し、コクコクと頷き返した。

「査定っていうのは、まぁ簡単に言えば実力テストのようなものよ。一年に一度、一人一人がどのくらい成長したのかを調べるの。」
「…ん〜実力テスト、……ったいか。それって選手(マスター)全員やると?」
「そうよ。だから大会シーズンの中休みになる6月ぐらいから大体始めるの。
 正し選手(マスター)によっては春の大会から勝ち進んで試合が長引いてる場合もあるから、あまり明確には期間を決めてないの。
 大体目安の二週間はあるけどね。今回は一ヶ月後くらいになるかしら。」

まぁこれから予定調整をするから、まだちゃんと決まってはいないけどね。
そう付けたし、ブルーは再び一口美味しそうに頬張った。
昼食を食べるより事柄をメモするのに夢中になりはじめたサファイアも、 最後の一行を書き終えると目の前の食事をまた一口口にする。

「なるほど…で、どうやってテストすると?体力測定みたいにやるとね?」
「ん〜昔はそういうこともしてたんだけど、皆普段から鍛えてる子たちだからね。
 普通の測定じゃあっという間に日が暮れちゃうし、何より全員がオフになる事がまず殆どないから逆に面倒なのよ。
 そもそも人によっちゃ体力よりも技術が問われたりするし、それぞれに合ったテストをする方が成長率を見極めやすいって事になって
 ね。今は個別で一人一人査定をしているわ。」

だから、近日各自の予定を提出させて一人一人査定の日を設けることになるから。
彼女はそう付け足して、目の前の少女に頑張ってねと声をかける。
その含みに若干違和感を覚えたものの、新人に対する労いの言葉だろうと取りあえず流しておく。
メモ帳にしっかり要点を記述し、自分のすべきことを書き留めようとする。

「成るほど…分かったったい。…あれ、でも誰がその査定の審査ばやるとね?
 各自の補佐者(サポーター)…やったらいつもとあんまり変わらんとよね。」

勿論アタシなんかがアイツの事ば査定など到底出来る訳ばなかとやけど…
そう心の中で付け足し、他の選手(マスター)はともかくあの男は何の査定をするのか疑問に思う。

「当たり前じゃない、きちんと第三者の目で見極めて初めて成長したかどうかを測るんだから。
 だから安心しなさい、貴女が誰かを見るなんてことはないから。まぁやってもらう事はあるんだけど。」

心配事を見透かされたと思った瞬間、サファイアには最後の言葉が妙に引っ掛かった。
そのとき、さっき会ったエメラルドが言った言葉が頭を過ぎった。


"俺達は受ける側だから"と言っていた。
受ける側だから、自分達では教えられない、そう言っていなかったか。
ということは…

「……まさか、ブルーさん。その査定の審査ばする人って…」
「あら、少しは察しが良くなったのかしら?そうよ、査定はルビーがやってるのよ。」

だから貴女は彼の査定日程管理をしてあげて頂戴ね。
栗色の少女は笑顔でさらっとそんな事をいいのけた。
亜麻色の少女は嫌な予感が的中し、一瞬気が遠退きかけた感覚を覚える。

「まぁつまり、そろそろ彼の来月の予定を確認しといて頂戴。
 来週くらいに選手(マスター)全員の空き日程を渡すから、 一日二三人ずつで大体二週間くらいの期間を見積もった予定を組んで私に提出する
 こと。それがOKだったら、その後にルビーに連絡して頂戴。」

それで今年の査定日程が決まるからよろしくね。
笑顔で目配せして少女はウインクを送る。
その茶目っ気に慣れていないサファイアは、妙なプレッシャーを掛けられた心地がして息詰まってしまう。
査定をする側として強要される技術量や知識量を得る事に比べれば全然マシなのだろうが、 全員分の日程を決める責務というのも些か頬が強張ってしまうものだ。

「わ…分かったったい。あの…順番とか組み合わせに何か制限ばなかね?エメラルドみたかに戦闘(バトル)じゃない選手(マスター)も居るち聞いたとよ。」
「あら、ラルドにもう会ったの?あの子普段こっちにあまり居ないんだけど、運がよかったのかしら?
 そうね…まぁそんなに気にはしないんだけど、同じ属性(タイプ)が偏り過ぎても判定が鈍ったりもするし、 選手(マスター)を掛け持ちしている補佐者(サポーター)も居
 るから別の日に分けられると手間が掛かる子も居るしね。
 じゃあ日程の一覧と一緒に各選手(マスター)属性(タイプ)も渡しておくわね。どうしても分からなかったらルビーに直接聞いてみなさい。
 結局は査定する側の都合優先だしね。」
「偏ると鈍る…って、そいえば一体どうやって査定するとね?選手(マスター)同士を戦闘(バトル)させるのを見るんじゃなかとか?」
「昔はそういう事もしてたけど、人に寄って成長の度合いが違ったりするし、相性というのもあるわ。
 単に勝ち負けじゃなく、一人一人の成長や技術力、そして弱点の克服全てに至るまでを見極め、 改善させるにはあまり練習試合形式
 は良くないって事になってね。
 今はルビーが一人一人戦闘(バトル)の相手をしたり、技を見たり受けたりして測ってるの。」
「えっ!アイツ一人で二十人以上の選手(マスター)と組み合いやっとるとね!?」

この施設では体術、剣術や槍術等の戦闘術、更に奇術や占星術等の妙術に至るまで、それぞれの個性に合わせて各自の能力を見出だし、育てている。
とは言うものの、割合的には圧倒的に戦闘術の選手(マスター)が多い。
それも多様化している彼等の技量(スキル)を一人一人調べるということは、 それだけの技量(スキル)と判断力が各自に対して必要だということに他ならない。
勿論どの選手も決してその道を極めて日々修業しているのだ、一筋縄で相手出来るはずがないのに…
唖然として空いた口が塞がらないサファイアを余所に、ブルーはさも当たり前の様に話を進める。

「あら?前話してなかったかしら?あの子は天才と呼ばれた"逸材"だもの、ルビーに出来ない事を探す方が寧ろ大変よ。
 今は現役選手としては殆ど動いてないから、私達から見れば凄く勿体ない事なんだけどねぇ。」

そう言ってブルーは溜息をつく。
彼がこの館にやってきた頃からずっと見てきた。
その成長も、秘めたる才も、全てだ。
決して輝かしいとは言えない事も山ほどあったあの頃に、物悲しげな色を瞳に浮かべて思いを馳せる。
昔のことを何も知らない少女には、その追懐の思いを共有することが出来ず、 残念そうに溜息を付く少女の顔を物悲しげに見つめ返す他なかった。

「"能力を秘めた人材"を育成し、その能力(ちから)を然るべき場所で発揮させる。
 その礎を築いたのは紛れも無くセンリ様だけど、その最たる結晶は彼の息子だったっていうのはビックリな話ね。
 まぁそんな素晴らしい天才君でも所詮人間だから、体力配分を間違ったら元も子もないわ。
 その為に貴女が居るんだから、しっかり調整して頂戴ね。」

説明することは以上で終わり!何か質問はある?
そう言って最後の一口を頬張り、ブルーはお盆の上に軽快に箸を置いた。
メモを取ったり話を聞いたりで食が進んでいなかったサファイアは、 その様を見て彼女がいつの間にか食べ終わった事にハッと気が付いた。
当然前に座っているグリーンも既に食べ終わっている。

「やーね、今すぐにとは言わないから大丈夫よ。
 何か分からない事があったら聞きに来なさいな。じゃあ私達は午後の予定があるからもう行くわね。」
「あっ…分かったったい!ありがとうとねブルーさん。」
「いーえ、どういたしまして。じゃねん。」

飄々とした仕草でブルーはグリーンを連れてその場を後にしていく。
その後ろ姿を見送りながら、亜麻色の少女は食事をそっちのけで立ち上がり、ペコリと頭を下げた。



大広間を出て軽やかな足取りで栗色の女が歩いていく。
青年はその後ろ姿を追いかけるように、陽の光が差し込む白磁の廊下を渡って行く。
自分が一体何をしたいのか、正直にいうと良く分からない。
ただ何かしら腑に落ちない事があるのは確かだ。
そんな思念が生み出す空気を悟ったのか、先行く女がふと振り返って後方の男を見遣った。

「どうしたの?グリーン。難しい顔をして。」
「…何でサファイアをわざわざルビーの専属なんかにしたんだ?
 お前が居るんだから、査定前だからといって無名の新人をアイツに付けなければいけない事はないだろうに。」
「…なぁに?珍しく"あの娘が可哀相"とか思っちゃったわけ?」

どこと無く気に障る言い方をする、本当に煩い女だ。
そう思った言葉を飲み込み、楽しげに微笑む彼女の瞳を見つめ返した。
彼の胸の内を知ってか知らずか、ブルーは鼻でフフンと笑うと疑惑を振り払うかのように右手を振って口を開く。

「やーね、人聞きの悪いことを言わないでよ。あの娘を専属にするって言い出したのはセンリ様よ?
 アタシはそれに従ったまで、何も謀ってなんかないわ。」
「センリさんが…?しかしなんでまた…」
「本当はあの娘に負担を掛けたくなかったようだけどね。どうも親友さんから預かった大事な娘さんらしいし。」
「だったら何故そんなことを…」
「本人いわく、"賭け"なんだそうよ。」
「…賭け?」
「そうよ。」

その言葉の意味するところを図りかねて、視線を逸らしたブルーの表情を伺う。
珍しく彼女が思いを馳せ、憂いを浮かべているその姿が、まるで眼に焼き付いたように熱く映し出されて離れない。

「…もう、これ以上時間を弄べない、だそうよ。
 確かに、このままじゃいずれルビーの精神がますます不安定になって、後継ぎどころか抑えの効かない人間兵器にも成り兼ねないし
 ね。あの子を力技でまともに抑えようと思ったら、多分重傷者が一人や二人じゃ済まなそうだし。」
「……。」
「強さ故の孤独、権力を持つが故の孤独…
 その柵から解き放つ為には、もはや内部で育って彼の負の面ばかり見てきたような娘じゃ、正直役不足だものね。
 だから、何も知らない、外から来たあの娘に頼るしかない…そう考えられたんじゃないかしら?」

最も、それだけが理由なのかは分からないけどね。
ブルーはそう言って、僅かに顔を綻ばせる。
そして何事もなかったかのように何時ものような笑顔で、相棒(パートナー)の青年に向き直る。

「大丈夫よ。サファイアならきっと乗り越えられるわ。このアタシが後見人なんだから、当然でしょ?」
「……フッ、相変わらず煩い女だ。」
「何よグリーンったら、アタシはこれでも器量良し・人望良しの絶世の美女で通ってるんですからね。
 アタシに補佐(サポート)してもらう事を有り難く思いなさい?」
「お前の自慢話を聞いている暇は無い。…鍛練に戻る。」
「ちょっ、コラ!片腕を勤めてる乙女に対して、もう少し言いようはない訳?!
 せめて『あぁそうだな』って頷いてみるくらいしなさいよ!」

女のガミガミとした文句を零す甲高い声と共に、二つの影が館内に消えて言ったのは、それから間もなくのことであった。

各人ノ思イト共ニ、運命ハ一人ノ少女ニ託サレタ

行ク先ニ待チ受ケルノハ紅ノ惨劇カ、ソレトモ…

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ソースコードと睨めっこすると物凄く目が痛いこのページ(笑)ルビが振られすぎてる、マジ見難いwww
書いた量が中途半端すぎて色々説明を付け足して何とか容量が1話分になりました、何か毎回そんなことしてるような^^;
この頑ななココロはそんな積み重ねで書いているので、書く度にどんどんストーリーが伸びていきます…
もう予定は言わない事にしました、だって既にコレ30話普通に行きそうなんだもん(のーん)