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薄暗い石造りの道。
足音を極力立てないように二つの影が静かに駆けていく。 前を行く少女は慣れているのか、はたまた音を立てにくい靴を履いているのか、 軽快な足取りでずんずん進んでいく。 時々後ろを振り返ってみるが追っ手はこちらには来ていないようだ。 ということは上手く逃げ切れたという事なのだろうか。 「ここまで来りゃあもう大丈夫やで。あっもう町の中心部やけぇ、声出してもええよ。」 「あっ…うん。」 確かこの人はルホというセナの友達だ。 友達っていっても恐らく彼女の方が年上なのだろう。 背も高いし、何より顔立ちが大人びている。 「あっ…ごっごめん…標準語 言ってる側からおもっきしなまっとるやないか!! 小さい頃から親の影響で標準語 「良いよ気にしないで。普通にしてて。」 大体は分かるから。 見知らぬ僕の為に、わざわざ標準語 それにそれほど酷く違った方言ではないので何とかなるだろう。 「ホンマごめんなぁ。うち、標準語 生まれのせいにしたかないねんけどな。」 生まれのせいにしたくないけどね。 大丈夫だ。 頭の中でちゃんと翻訳 彼女とはかなり話しやすそうなので心配はないだろう。 ただ心の片隅で思うのは、セナといいこの少女といい この町の人間はよそ者の自分に対していささか親切すぎる事だ。 「ねぇ。」 声をかけると、目の前の少女は立ち止まって振り返った。 いや、振り返ったのだと思う。 ちょうど橋の下だったので暗くてよく見えなかったのだ。 「どうして君たちは見知らぬ人の為にそこまで出来るの?」 足音もしなくなり、辺りがしんと静まり返る。 聞こえるのは頭上に広がっている、遠くから響いているような町の賑わいと自身の鼓動だけだ。 その沈黙が長く続き、自分の言葉が通じなかったのではないかという不安がこみ上げてきた。 だがそのときに返ってきたのは… 「分からん。」 という突拍子もない返答だった。 「えっ?」 「そりゃあ確かにアタシはアンタの事何も知らんし、はっきり言やぁ助ける義理はないやろな。」 思ったとおり自分の気持ちをズバズバと言う子だなぁ… 「でも…」 「…?」 「アタシはアンタの話聞いて、ちょっとやけどちゃんと話した。だからもうアンタはアタシの友達や。」 友達助けるんはあたりまえの事やろ? だからちゃんと助けたるさかい、安心しぃ。 そう言って少女はまた前に進みだした。 少年はそれに面食らった様子で立ち尽くしていた。 この町の人はよそ者に甘いんだな。 一人の少女の顔を思い出し、ふっと笑みが零れる。 どうやら本当にお人好しはあの子だけではないようだ。 「何しちょるん?早ぅしぃや。ほら、もうすぐ出口やで。」 「うん、今行く。」 でも君たちは知らないんだ。 俺がどれほど恐ろしい事を考えているのかを。 いや、考えた事があるのか…かな。 少年の呟きは闇に消え、誰の耳にも届かなかった。 視界が急に白くなり、次に見えたのは色鮮やかな緑だった。 水路を抜けた先は先程の場所から北西側、アートレスィーズのある丘の麓だった。 後ろを振り返ると通ってきた水路の上に家が転々と広がっている。 ここが町の端らしい。 「こっからはもう分かるやろうけど…」 ルホの響くような声が耳に入り、意識を取り戻す。 声のする方へ向き直り、その人を瞳に移す。 「ほら、あっこに見えるでっかい木がアートレスィーズや。 あっこまで行きゃあ、もうセナん家や。」 ちなみにあっちの丘にある木はヴァイタリーズっちゅうんやで。 ルホが指差した先、町を中心にしてこちら側とは反対側にある丘の上には、 アートレスィーズと同じくらい大きい――と思われる――大木があった。 先程までいた丘からも見えていたそれはここからだとかなり小さく見える。 「アンタの話聞いて、こん話は絶対教えたろうて思ってたんや。」 「…話?」 「そや。ルークラトに伝わる奇跡の伝説や。」 その昔、大干ばつで枯れかけた大木。 勿論町も干上がり、生きていく事も困難になった。 ――その当時はまだ規模が小さかったため――村の大半の者がもう駄目だと諦め掛けた時、 セントリアからやってきた一人の旅人が現れた。 旅人は不思議な力で地下に眠っていた水脈を探し当て、村の大木は蘇った。 今もその木は奇跡の木として大切にされている。 「そん木があのヴァイタリーズや。」 彼方にそびえるその姿は、その現実を想像させないくらい雄々しかった。 木々の中に白い物が点々とあり、白い欠片を散らしていた。――恐らく花なのだろう―― 「アタシそん話が好きでさ、色々調べたんや。旅人がどんな人やったんかとか、その不思議な力のこととかな。」 色々な本や資料、文献も漁った。 時には昔話に詳しい歴史学者の人や長老なんかにも聞いて回った。 そして何年もかけて導き出したその答え。 「水脈を見つける力、ダウジングっつーんやろ?」 アンタの話聞いて驚いたわ。 ルホが少年の顔を見つめ、微笑む。 町を救った救世主。 その者と同じ力を持った少年が今自分の前にいる。 それだけで何故だか嬉しくなってしまうのだ。 「そん人もアンタと同じ瞳 「えっ…」 レインは驚きを隠せなかった。 この少女がどうしてそんな事実 「あっ…、でも中央 当たり前やったか。 少女は照れくさそうに笑う。 だがその発言こそ少年を酷く驚かせ、疑問を残す。 「どうして…」 「…?」 「どうして、そう思うの?」 だって俺が、いや、たとえその人だけで中央 レインは目の前の少女がどうしてその結論に至ったのか、その根拠が分からなかった。 「…違うん?」 だってあの子も同じ瞳 首をかしげた少女の茶の髪がさらりと揺れる。 「…あの子?」 「セナやんか。何言うとんの。」 「えっ…!!」 セナが灰色の瞳 だって今あの子の目は暗い色――黒とも茶とも言えない、深いあの色――をしているではないか。 「…知っとったんやろ?あの子がよそ者 あの少女にはこの町に住む民族の特徴は全く見当たらない。 瞳の色が若干それを漂わせるだけで、元は異国の民であった事は出会った当初から気付いていた。 だから同じよそ者であった自分を助けてくれたのだと、そう思っていた。 「あっ…うん。でもセナには母親がいるって…」 「何や、ロエルはんにまだ会うてないんかいな。あの人は生粋の東央民族や。セナとは全然違うで。」 つかその前にロエルはん、三十路どころかまだ二十代半ばの若い女やし。 ルホが話す事全てに少年は驚かざるを得なかった。 二十六歳…確かにその年齢から考えると、セナを生んだにしてはいささか早すぎる。 セナにルークラトの者の特徴が全く見当たらない所から考えれば、実の母親ではないかも、と仮定できる。 「思い出すなぁ…ロエルはんがあの子連れてきた日の事。」 あの頃は自分も幼かったけどはっきりと覚えちょる。 ロエルはんにしがみ付いていた、自分よりも幼い女の子。 丈の長い象牙色 混じりけのない黒髪に白い肌。 そして、涙を溜めていたその瞳は… 「ありゃあ綺麗やったで。透き通った宝珠のような灰色の目。丁度今のアンタみたいなんやったわ。」 少女は微笑みながら少年の瞳を覗き込む。 少年は拭いきれない驚愕の色を顔に浮かべたまま動かない。 「ロエルはんはあの子を中央 中央 灰色の民に。 ルホは嬉しそうに歩調 その姿を見送る少年は言葉を失っていた。 もしかして、とは考えた事はあった。 その時はどうして気付かなかったのか今でも分からない。 だがそれと同時に、一つの思いがよぎる。 少女がどうして自分を助けようと思ったのか、という答えがこの真実ならば、全て納得がいく。 いや、そう思わなければこの気持ちに収拾がつかないのだ。 閉じかけていた蓋が、また開きかけた。 今度こそしっかり封をしなければ、もう後戻りは出来なくなる… 「ほれ、ぐずぐずせんと、早ぅしいな。」 自分に声をかけてくれる少女の元へ、少年は急いだ。 二人が目指す場所はあの丘の麓、そして少年が目指す場所は目の前に建っている木造の家。 少女と別れた少年は、その扉を開いた。 彼にとってその扉は、運命を断ち切るものであったのか、それとも… 僕ノ知リタカッタソノ答エ 今ハッキリト分カッタヨ back close next
この四章で一番難しかった事、それは新キャラたちの喋り方です(笑)
試行錯誤の結果、カトがエセ広島弁なまり、ルホがエセ関西弁なまりになりました。 (おい仮にも関西出身がエセ言うなやwww) 二人を一緒にしなかったのは、台詞だけで区別をつけたかっただけです(笑)(おい) そしてチビちゃんたちは片言にしてあんまり喋らないように、残りは異民族で標準語を喋らせる、というある意味卑怯なやり方で片付けました(何しとんねんお前) そして考えてみればこのグループ、レインを混ぜると茶髪:黒髪が1:1になってしまいます…地元民少ねぇ(苦笑) |