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黒髪の少年と茶髪の少女が去ってから後、丘の麓に二人の男の姿が現れた。
薄汚れて清楚な感が失われている異国の衣服が、レインと彼らの時間を表しているようだった。 だんだんと此方に近づいて来るのが分かった。 あくまで気付かないふり。 こちらの思惑を悟られないよう平穏に事を運ばなくてはいけないからだ。 それを誤魔化す為の話しの種は幸いにも尽きそうになかった。 皆と会うのも久しぶりだったので、話すことは沢山あった。 調子が上がって緊張が最高潮 「君たち、ちょっといいかな。」 はたと気がつき、動きを止めた。 そして声のした方を見ると自分たちよりも大きい影が見えた。 その姿がまだ遠かった時には分からなかったが、なかなか端整な顔のつくりだった。 長身の方は髪が黒く、何よりがたいがよい。――腕や脚は衣服に隠れているが、肌は多分黄褐色だ―― もう一人の方は茶髪、それも長髪を束ねていた。 同じように身体は衣服を纏っているが、こちらの方が若干線が細いのが分かる。 ――肌は白と黄褐色の中間、とでもいったところか―― 「この辺りで、これくらいの、黒髪の少年を見なかったかい?」 予想通りの質問だ。 「灰色の瞳をしているんだけどなぁ。」 その言葉を発した口がいやらしい笑みを浮かべているように見えた。 何だか分からないが、男がするその一つ一つの行為を見る度に身が震えた。 「…知らん、んなヤツ。」 茶の少年、カトが気だるそうに答えた。 演技というよりは、元よりこの男達が気に入らないようだ。 「二三日前のことなんだけどなぁ…本当に見かけてない?」 一見優しそうだが、どこか冷たい感じを与える聞き方だ。 この人たちを怒らせると、どうなるか分からない。 「この町は言うほど広くねぇ。よそ者 吐き捨てるように少年は答えた。 「……嘘はいけないねぇ、君。」 男の表情がいきなり変わる。 一瞬で辺りの空気が凍った。 威圧感のある重い言葉。 何かを既に悟られてしまっていたのか。 「なっ…オレが嘘ついちょるってか!?何処にそんな根拠があるんじゃい!」 「さっき麓から望遠鏡で見たんだ、君たちを。」 「…望遠鏡?」 「おや、知らないのかい?遠くを見るための装置だよ。」 君たちの村には何もないんだねぇ。 そう言って『望遠鏡』と呼ばれる細長い筒状の物を、目の前の男は懐から取り出した。 どうやら伸び縮みするようで、両端にレンズのようなものがはめ込んであった。 ――それはこの地方で極たまに旅人が持ち込んでくる千里鏡に似ているが、 高価な品物なので実物を見た者は此処にはいなかったのだが―― 「黒髪の男の子が…もう一人いたよね、ここに。」 見られていた… あれほど離れているから大丈夫だと思っていたのに… そうだ。よく考えてみれば分かったのだ。 丘の上に子供達が集まっているのが見えたからといってわざわざ此処まで登ってくる訳がなかったのだ。 町を離れれば標的に逃げて下さいとでも言わんばかりの奉仕 彼らは望遠鏡とやらを使って、確信を持って此処へ来たのだ。 「何処に行ったのかな。麓には下りてこなかったみたいだけど。…ねぇ。」 怖い。 私たちを捕らえる視線がとても痛かった。 下手に誤魔化せば絶対に怪しまれることは明白だった。 だが何時までも黙っているわけにもいかないだろう。 「あっ…えっと…それは……」 男達は笑っていた。 人が良さそうなその顔の裏に一体何を考えているのだろうか。 「おっ…お前 カトが突然大声で叫んだ。 「オレたちは見てねぇってさっきから言ってるじゃろうが! そいつ探しちょるんやったら、オレらに構わずにさっさと探しに行きゃあええじゃろ!?」 「おや?どうしてそんなに怒ってるの?それとも焦ってるのかな?」 まずい。 これ以上墓穴を掘るのは危険だ。 誰もがそう思った、その時だった。 「怒って当然だと思いますけど。」 自分たちの背後、町とは反対側の丘の方から、聞こえるはずのない声がした。 何故ならそれは先程町へ降りていった者のものであったからだ。 子供達は一斉にその方向へ振り向いた。 「貴方たちが何を考えているのかは知りませんが、それ以上その子たちを虐めないでくれませんか。」 身の丈は高く、細身なのでスラリとした印象を受ける青年。 くすんだ黒が鈍い光を放ち、その肌に映える。 その見知った顔を見て、皆息を飲んだ。 「ほら、こんなに怯えてるじゃないですか。」 そういって、青年は身を震わせていたキリアとサオを抱きしめた。 その温かい腕に抱かれた二人は、緊張の糸が解けたのかしくしくと泣き始めた。 「シュウ君!」 「シュウ!」 「シュウ兄…」 現れたのは、セナの依頼を受けて一旦町へ下りたはずの青年、シュウ・ハイロであった。 「べっ…別に私は虐めてなんかいないさ。なぁ、ゴード。」 「…あぁ。」 「そうですね、正しくはこの子たちを脅していたんですからね。」 男たちの事も別段気にすることなく淡々と答える青年の様子は、驚くほど落ち着いていて冷静である。 その様子に向こうはたじろぐばかりだった。 先程まで優越に浸っていた彼らは共に舌を巻いている。 「ここにいた黒髪の男の子って、多分僕の事ですよ。 僕、すぐ下の川に水を汲みに行ってたんです。」 そういって彼が背負っていたカバンの中から取り出したのは、暗めの布地で覆われた口の細い入れ物だった。 その大半が湿っている事が、中にあの透き通った液が入っているということを想像させた。 「あぁ…そうか。ははっ、いや、すまなかったね君たち。ご協力感謝するよ。…ほら、行くぞ。」 「あぁ…」 口達者な者がやってきて分が悪いと判断したのか、男たちはそそくさと立ち去ろうとした。 「あの…」 「…何だい?」 「その男の子、見つかるといいですね。」 シュウが目を細め、ほんのりと口で笑みを作った顔で見つめた。 目が笑っていないことがすぐに分かる。 男たちは苦々しい顔をして丘を下っていった。 その一部始終を見ていた少女たちは言葉の裏にある感情というものに触れ、 改めて自分たちがまだ子供なのだと実感した。 「大丈夫だった?」 先程とは打って変わって明るい声で青年は尋ねた。 「あっあぁ。つかシュウ、お前 「ここに来る途中であの人たちが丘の上に登って行くのが見えたんだ。 それも皆の方に向かってるもんだからさ、急がなきゃと思ってね。 麓を回って川沿いに先回りしようとしたんだけど、ちょっと間に合わなかったね。」 すまなそうに謝る姿を見て少女は慌てた。 「ううん。シュウ君のお陰でホント助かったわ。」 「さすがシュウ兄。」 「シュウ兄ちゃあぁん。」 サオが勢いよく、シュウの首元へ飛びついた。 シュウはそれをしっかりと優しく受け止めた。 「…この様子だと、彼はもう町へ降りたんだね。」 「うん。ルホが私の家まで連れて行ってくれてるはず。」 「そうか。ルホの事だから大丈夫だとは思うけど…」 「あいつは無茶しそうじゃけぇ。心配じゃな。」 別にあの少女に非があるわけではない。 あの二人は本気でレインを探している。 それが恐ろしくて仕方がないのだ。 「…そうだね。カト。この事を町の大人たちに。協力してくれる人を出来るだけ沢山集めてくれ。」 「おうよ、まかしとけ。」 「さ、サオ、キリア。君たちも町へ。ジラン、二人を頼むよ。」 「…分かった。」 茶の少年カトを先頭に、四人は丘を下り始めた。 その背中を見送り、シュウはほっと溜息をつく。 セナには分かっていた。 何だかんだと理屈をつけて皆を町へと促した事を。 そしてそれが、自分に事実を伝える為だということを。 改めて青年の目を見据える。 その漆黒の中に映る自分の姿を認め、息を詰めた。 「調べた事、とりあえず全部報告するけど、いいかな。」 「…うん。」 少女は覚悟を決めていた。 彼を守り、そして必ず探し人である妹に会わせてあげるのだと。 だが少女はこの時、少年の発した事とこの青年がこれから話すこととの繋がりの真意に気付かなかった。 そして今こうしている間に自分の知らないところで何が起こっているのかなぞ、知る由もなかったのだ。 これが二人の運命を有らぬ所へ導いてしまうことを… 明カサレテイク真実タチハ マダソノ繋ガリヲ見セテハイナイ back close next
手書きの方はもうちょいで四章終わりです。
最後を終章にしようかと思ってたんですが、3〜4話必要なので短いですが五章を作ろうと思います。 五章と終章で一つ、見たいな感じ。何はともあれ、終わりは見えたんですが全然時間が足りない(汗) ホント、テキパキと話を進ませてとっとと終わりたいので展開が早いです(汗) 調整は文化祭終了後の予定… |