1.依頼に託された思い

爽やかな朝だった。
新芽の瑞々しさを感じさせる香りが漂い、朝靄(あさもや)が晴れきって、 葉に舞い降りた露が煌めいている。

此処は街の南側、建築物の並びが途切れ視界が晴れた草原だ。
そこにはこの街の南東にある『レイアラト』という村へと続く白土の川が一筋あるだけである。
だがこの辺りは土地の起伏が激しく、小さな丘のようなところが幾つか存在している。
元々こういう土地だったのか町を興す際の土台作りの時に出来たのかは定かではないが、 そのせいで何筋もの白線が描かれているように見える。
この場所は見晴らしがよい上に木登りに最適な木もあり、何より十数分南へ下った所には大きな湖もあるので、 子供達は遊び場として毎日のように訪れている。
そしてこの辺りで一番高い丘に一本の若い青木が生えており、その周りには大きめの灰白色の岩が幾つか転がっている。

そこでは数人の子供達が何時ものように座りながら話をしている。
その集団の中に、『カト・マクイル』という少年がいた。
髪は短く、その色は枯れ木のような濃い茶で鈍い光沢がある。
少し吊り上がった目は一重のように見えるが、よく見ると実は奥二重である事が分かる。
瞳は白く濁った黄土色で黄色の肌にその色が非常に映えて見える。
彼は腕を組みながら岩の一つに腰掛けて他の者と話をしていたのだが、ふと視線を町のほうに向けた時 黒い二つの影がこちらに向かってくる事に気が付いた。
そこに見知った顔があることを確認するのにそう時間は掛からなかった。

「おっす、セナ。久しぶりじゃん。」

片手を挙げて二本の指を振り、挨拶をする。
セナと呼ばれた黒髪の少女も軽く言葉を交わした。

「昨日はどうしたんじゃい。来んと思うたら蔵書庫に行っちょったらしいやん。」

狭い町の中だ、仲間内では直ぐに情報が広まる。
しかもセナはこの町では珍しい黒髪をしている。
何かをするとどうしても目立ってしまうので隠しようがない。

「あぁ…まぁ、ちょっとね。」

軽く言葉を濁す少女を少年はきょとんとした目で見つめ、その隣に見知らぬ顔を認めた。

「ん?そっちは誰じゃい?お(めぇ)の連れか?」

珍しい物を見る眼でその人物を眺めた。
黒髪で色白で…光る灰の瞳の自分と同じくらいの少年だ。
この町の子供の数は確かに多いが、彼が余所者であることは直ぐに分かった。

「ゴメン、話はあとにして。……シュウ君は来てないの?」

辺りを見回しても自分より小さい茶と黒の頭しか並んでいない。
彼の姿はまだ此処にはない。

「あいつはまだじゃい。…そろそろ来るんじゃねぇか?じゃが最近は来ん方が多いけんな…」
「…来たよ。」

側にいた小さな少女がボソッと呟いた。
――彼女はキリア・ユキシマルという六歳の少女である――
その視線の先に目をやると、細身で丈の長い衣服を纏った青年が此方に向かっていた。
少しくすんだ黒髪に黄色の肌。
瞳の色は漆黒である。
背は他の者よりも頭一つ分ほど高いように見える。
その隣には明るい茶髪で黄褐色の肌をした少女がいた。
毛先は少し外側に撥ねていて瞳の色は濃い。
典型的な(イーストリア)の人種である彼女が隣に並ぶといささか違和感を覚える。
その少女がふと目を見開く。

「セナ…セナじゃん!」

顔に笑みを浮かべ此方に駆けてくる。
セナもその少女の姿を認める。

「ルホ!久しぶり!!」

互いに手を取り、喜びをかみ締める。
そのはしゃぎ様は傍から見ていても微笑ましいものだった。

「しばらくだね、セナ。仕事の方は順調かい?」

長身の彼こそがシュウ・ハイロその人である。
ちなみにセナより四歳年上で、既に彼も働いている為かれこれ三週間ほどセナと会っていなかった。

「そだ、こんなことしてる場合じゃなかった。」

いきなり手を離したので、ルホと呼ばれた少女の身体がガクリと揺れる。

「ちょっ…!セナ!いきなり何すん…っ!」
「ルホ!ちょい黙っとれぃ!何か訳ありみてぇなんじゃい。」
「…えっ?」

その二人のやり取りに見向きもせずに、黒髪の少女は青年に向き直る。
そして更に言葉を繋げる。

「シュウ君に見てもらいたいものがあるの。」

そう言って少女は肩に下げていた鞄の蓋に手をかける。

「僕に…?」

青年は疑問符を浮かべた表情で目の前の少女を見つめた。
その視線の先に現れたのは、古ぼけた藁半紙とそれより一回り小さい白紙だった。
白紙の方にはつい最近書かれた文字が書き綴られていた。
そのうちの右半分が少女の筆跡である事は青年にも認識できた。
その文字列を辿っていくと、そこにはどうやらこの地図について色々と検分されたもののようだった。
大まかだがこの地図から読み取れる、描かれた時の数年前の気象条件であることが分かる。
その文章をマジマジと見つめ、視線を再び少女へと向ける。
その瞳は真剣そのものだった。

「これが参考になるか分からないけど…この地図が何年前の物だか知りたいの。」

いつもの柔らかい声音ではない。
普段はめったに見せないほどの顔つきだ。
青年も顔を引き締め、丁寧にそれを受け取った。

「…これは正式に依頼だと取っていいんだね。」

澄んだ目で、青年は少女を見据えた。
彼女の暗色の宝珠には自分の姿が映えている。

「…うん。」

少女は改まった風にそのを口にした。

「勿論、シュウ君は歴史の研究者だって分かってる。だから私なりにこの地図を分析してみたの。
 役に立つかは分からないけど…」

不安の気持ちが現れたのか、語尾が萎んでいくのを自身で感じた。
そんな気持ちをかき消すかのように、青年は明るく振舞う。

「大丈夫だよ。これだけ分かれば、すぐに何時のものか割り出せるよ。」

彼は微笑みかけて、それらを大事そうに懐に収める。

「それに、大体の目星もついた。今から家に戻って確かめてくるよ。
 すぐそこだから十分くらいで済むと思うし。」
「本当!?」
「うん。少し待ってて。」

彼はそう言って腰を上げ、丘をもと来た道に沿って下っていった。
その背中を見送った後、その様子を見ていた少年が口を挟んだ。

「セナ、一体なんじゃい。シュウに用事ば頼みよって。」
「それにそっちの少年()は誰やの?セナ。」

二組の茶の瞳が自分に向けられている事に、黒髪の少女は傍と気がついた。

「あっ……えっと」
「さっきの紙、地図みたいじゃったが…異様に古臭かったな。シュウに調べてもらうんか?」
「ズルイ、セナ!アタシにも教えんちゃい!!」
「あっ…その……だからぁ…」

そんなこと言われても、これは隣にいる彼にとって重要な問題なのだ。
自分に答えられる訳がない。
彼の事情を伏せて一体何処まで説明出来るのだろうか。
この状況を打開する方法をあれこれ考えてみるのだが一向に思いつかない。

「セナっ!」
「セーナっ!!」

そんな事言われたってぇ〜!!と心の中で叫んだ所でどうにかなるわけではないのだが、 叫ばずに入られなかった。
昔からこの二人は好奇心旺盛なのだと言うことをすっかり忘れていた。

「…いいよ。俺から話すよ。」
「…っ!…レイン。」

黒髪の少年がセナの言葉を遮るように言葉を発した。

「元はといえば俺が解決しなければならないことなんだ。それをセナに押し付けるなんて公平(フェア)じゃない。」
「でもっ…」

真実を明らかにするという事は、彼の複雑な家庭事情を明らかにするという事。
自分が関わっただけでもかなり問題になっているはずだ。

「大丈夫だよ。」

少年は微笑みかける。

「これは俺の問題だからね。自分の事は自分で何とかしなきゃいけない。それに…」

彼の手が少女の肩に伸びる。

「これ以上セナに負担をかけたくないんだ。」

言外に、巻き込んでしまってごめんねという言葉が含まれている事に、その場にいた者全てが気付いた。
だがそれを言われた少女は言いようのない複雑な感情が同時に湧きあがったことを、ひしと感じた。
その場に立つ少年少女の間を一陣の風が吹きぬけた。
まるでその繋がりを断ち切るかのように…

コレガ私ノ決メタ事ダカラ…

コレハ僕ガ選ンダ道ダカラ…

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進んだようで全然進んでねぇな(笑)
これでも四章はかなりハイスピードで時間が流れるはずなんだが(汗)
最近一日で打って編集して更新してる私…絶対どっかでガタが来そうです。
その証拠でノート、清書のどちらにも間違いが多い(苦笑)
つか登場人物増えすぎ!!www