1.ダウジング

光が差す窓辺に一人の少女が座っている。
肩ほどまである綺麗な黒髪を上部だけ後ろに束ねている、 『美』という言葉をつけてもおかしくはないほどの顔立ちをした少女、セナである。

そして彼女の目の前には、同じく綺麗な黒髪をした少年が居る。
この土地では作りえない柄である衣服を身に纏った異国の旅人である。
彼もまた少女と同じく『美』の部類に入るほどの整った顔立ちをしているが、 やはりどこか異国の形が強く出ている為、何処となく違った『美』の印象を受ける。
だがそれは彼が持つ異様な程透き通った灰の瞳の所為でもある。
セナのそれも同じように透き通っているが、こちらはこの土地の者独得の暗い茶を帯びた漆黒のもの。
当然少女とは違った印象を受けてしまう。

その少年の名はレイン。
彼は今目の前に、二人が居るこの大陸、(イーストリア)の地図を広げている。
では何故そんな事をしているのか。
それは彼が代々素晴らしいダウジングとその他様々な技術を生み出し、 引き継いできたクロゼラス一族の末裔――クロゼラス一族は本土、中央(セントリア)の生まれ――であるからだ。
そう、彼が今から行おうとしているのは正しくダウジングなのである。
それも先程まで見本としてやっていた部屋の物探しとは訳が違う。
巨大なこの大陸のどこかに居る、それも顔も姿も知らない一人の人間、 たった一人の肉親である妹を探し出すのだから。
彼は先程と同じようにその準備に入ったのだが、今度はクリスタルの上部にあった金具を引っ張った。
すると二股に分かれていた紐が束ねられ、一つの輪が一つの紐になった。

「輪が紐になった…」
「これも俺達一族の技術らしい。この金具が輪になっている紐を組み合わせて束ねる役目をしているんだ。」

もっとも、これも俺にはマネ出来ないけど、と付け加え苦笑交じりの顔する少年を、セナは複雑な気持ちで見つめていた。
自分の至らなさや未熟さを受け入れ、更にそれを他人に何の隔てもなしに知らしめてしまう彼の行動は、 見ていてもかなり痛々しい物だ。
救いは彼がそれを受けて開き直っていないことか。
何故そのような事をするのかとセナが尋ねると、レインはこの方がブレが少なくなるからより正確性が増すのだと答える。
縮尺の大きな地図では小さな振れも見逃せない。
一束となった紐を少し解き、小さな輪を作る。
その輪に手首を通し、ダウジングの体制に入る。
だが先程とは全く違う。
その腕にはある種の力が注ぎ込まれており、その緊張感はピンと伸ばされた指先から伺える。
膝を立てしっかりと体を安定させ、精神統一を図るその様は凛々しく、煌びやかに少女の瞳に映る。

ゆっくりと手を地図の上にかざす。
真剣な瞳はその灰の色を更に鮮やかに輝かせる。
その視線の先の吊られた宝石(いし)は相変わらず一定の光を放ち続けている。
それを手の力で振れさせないように驚くべき程遅い速さで床と平行に旋回させる。
しかし、セナの中では常に実際の時間よりも遥かに長い時間(とき)が刻まれていた。
場の空気が何とも痛々しく感じ、そのつもりは無いのだが彼の様子を座視しているようでならなかった。
何かを望んでいる思いと何かを否定している意思が己に潜んでいる。
そんな気がしてならなかった。

ふと少年の手元が止まる。
目で追うと宝石が何らかの変化を起こしているのだと悟った。

「今、微かに揺れた…」

少年はそう口にする。
正八面体のその(ほこさき)は大陸のほぼ中央部を指していた。
正確に言うと中央部よりやや北西。
(イーストリア)の大陸を分ける三つの地区――ドウナ・アンド・トロワ地区の三つ――のうちの一つ、 (イーストリア)西部のドウナ地区の東側を指していた。
ドウナ地区の北と南には豊富な水源と緑があり、北西には(イーストリア)唯一の港町がある。
そして、ドウナの東側はセナとレインが居る所、ルークラトもある。

「やっぱりドウナ地区の東か…」

 少年が一つの確信を得た言葉を放つ。

「やっぱりって?」
中央(セントリア)に居る時はただおおよその居場所をつかもうと思って、 家にあった簡素な地図を使ったんだ。その時も確かこの辺だった。」

結構古いんだけどね、 と言って取り出したのは古ぼけた藁半紙に刷られた世界地図と(イーストリア)大陸の地図だった。
所々その黒い線画の筋は途切れている。
見た目よりもかなり古そうだったが、大陸の形は間違いなく(イーストリア)そのものであった。
一枚目が世界地図、二枚目が大陸、そして三枚目、大陸内部の拡大地図が載っているそれを取り出して目の前に広げた。
古ぼけたせいなのか、セナにはその地形が奇妙に見えた。

「反応があったのが、丁度この辺なんだ。」

少年が指さしたのは地図上にある二つの湖の間の北側。
この二つの湖は恐らく北のナイアラ湖と南のクレアラ湖だ。
――何故なら、二つの湖がこのように並んでいる所は、ドウナ地区では此処だけなのだ―― そしてこの二つのほぼ真ん中にあるのが…

「これが何処だか分かるかい?」

レインが少女へと言を投げかける。
それをきっちり受け止められたのか、彼女には分からない。

「…ここが多分、今私達の居るルークラトよ。」

少年の指した場所の下、二つの湖の間の広い所の真ん中。
つまりレインが探していた場所の近くである。

「えっ…ここが?!じゃあこの上って……」

下敷きになっていた本を引っ張り出し、ペラペラと(ページ)をめくり始める。
その瞳は真剣だった。
協力してあげたい。
だけど、それを制する自分が居る。
この時、彼の幸せを望む(じぶん)と 彼と別れたくないと望む(じぶん)がいる事に、 少女は初めて気が付いた。
こんな事は今までなかった。
どちらかを捨てなければならない苦しみがあるなんて…

少女はその言葉すら知らなかったが、 この時彼に焦がれている事を(ひし)とこ感じたのだ。

コノ時ハマダ知ラナカッタケド

キットモウ逃レラレナイ運命ノ道ニ立ッテイタ…

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あっ…久しぶりの小説upだ…でもやっぱり進むの遅い(汗)
最近気づいたんですが、今三章の最後を書いてて、まだ半分来たか来てないかってとこじゃねーのか?
と本気で思ってしまいました本気で進むの遅いよ!!(怒)
ちっとは予定通りに進んでほしいものです。
ちなみに二つの湖の中間にあるのがルークラト、その北東がレイン君の指したとこですよ
そして輪が紐になるっていうのはチャックのイメージですwww