7.見えない溝

レインは淡々と、だが彼女に分かりやすいように時折丁寧に話す。
その話が進むに連れてセナは息を詰まらせて、何とも言えぬもどかしさに包まれているとも知らずに。

少年の話を聞いて分かった事は、クロゼラス家のとてつもなく長い歴史、 ダウジングの種類とその効力。
そしてそれを使いこなす能力と、その才を身に付けたクロゼラス。
他にも本土(中央(セントリア)の意)の様子や情勢、 レインが生まれ育った町なども聞く事が出来た。
クロゼラスは中央(セントリア)のファイナ地区を主な拠点としていて、 彼はファイナの南『リオラス』と言う町で生まれ、その後何らかの理由でファイナの北東『マオア』へと移り住んだ。
その時に妹と生き別れになったのだと父親から聞いたらしい。
勿論旅の途中でリオラスに立ち寄ったが良い情報が得られず、 ダウジングにより此処まで流れ着いたそうだ。

その後、彼はダウジングの基本原理を教えてくれた。
しかしダウジング自体が人間に備わっている未知能力を使う分野なので上手くは説明できなかったし、 聞いているセナ自身もそれを丸々理解する事は難しかった。
ただその中で言えることは、レインはその不思議な光を放つ合成水晶を振り子にして使うと言う事だ。
水晶は、占いでもよく使われるように霊的なものや生命に眠る未知の力を最も通しやすい物質とされている。
そしてクロゼラスはその水晶に宿る力を更に高めるために、補助として五種の鉱成分を組み込んだのだ。
振り子はダウジングの際に使われる道具の一つで、 一般的に使われている二股の棒より持ち運びが便利なので使用度も幾分高い。
だが二股の棒よりも効力の安定感に欠け、しかも振れ方の微妙な違いが読み難い事もあり、扱うには高度な技術と読み取り能力が必要であるとも言える。
しかしそれを一度習得すれば、二股の棒よりも広範囲で、それも正確に事細かく様々なことを知ることが出来る。
これらを総合して言えば、この探知宝石(センス−ジェム)は持つべき者が持ちえた時、 果てしないほどの能力(ちから)を発揮するのだ。

彼は彼女にダウジングの力を見せる為に軽く探索をした。
家具の内部や裏側にある物を探し当て、その上セナがなくしたと思っていた、 母親から誕生日プレゼントとして貰ったピアス――この地域では大人の証として主に女性が身に付けていた―― の片方までもその能力で探し当てたのだ。

「すごい…ずっと探してて見つからなかったからなくしたんだと思ってたのに…」

その赤い石が付いたピアスは、机の上においてある棚にある、 小物入れとしている蒼い硝子(ビン)の中という、 ありそうでその可能性を考えなかった場所にあった。
棚の物の出し入れの際に落として転がったのだろう。

「レインのダウジングって本当に凄いんだね。何でも探し当てちゃうんだもん。」
「そうでもないよ。まだ俺のは未完成だし…」
「…未完成?」

これだけ命中率も高く所要時間も短いのにどうして未完成なのだろうか。

「ほら、ダウジングにはこういった図面をよく使うだろ?」

指差した先に広げられている白い紙。
そこにはセナが描いたこの部屋の簡単な見取り図がある。

「振り子の場合はこういうものが必要で、しかもその場所のイメージが一番重要なんだ。
 今は部屋が目の前にあるから問題ないけど、本来は見知らぬ土地や場所で行うだろ?
 イメージが薄ければ薄いほど具体的な場所を特定しにくくなる。
 つまり、地図や見取り図を見て その様子をより忠実にイメージ出来るようになる必要があるんだ。
 俺にはまだまだその経験が足りない。だから俺のダウジングは未完成なんだ。」

哀しそうな、それでいて先に進むための希望の光を放つ表情(かお)だ。
特にその瞳がそれを物語っていた。

「経験…か。」

一見何でも出来る天才のような彼でも努力を惜しまず頑張っているのだ。
彼には自分に無いものを沢山持っている。
勿論それは彼が持ち得る様々な能力(ちから)や技術のことではない。
何時の時代でも何かの影響を受け、直ぐに無くしてしまう、人としての証のことだ。
少女は遠いものを見つめるかのように目を細めて彼を見つめる。

「でも…それだけじゃないんだよね。」
「えっ?」

苦笑交じりに少年がそんな事をこぼし、少女は現実に引き戻される。

「どういう意味?」

疑問へと変化を遂げた驚きをレインへ投げかける。

「さっき言っただろ?クロゼラス家の者は皆ダウザーの血を引いてるって。」
「うん。」

だが、それが一体どうしたのか。
それがあるからこそ、彼はダウジングが出来るのではないのか。
そもそも彼が此処にいるのはそれを行ってやってきたからではないか。
そこに一体何の問題があるのだろうか。

「でもそれはただ引いてるってだけで、実際それが使いこなせるかどうかは、また別の話なんだ。」
「……それって…宝の持ち腐れってヤツ?」
「そおいうこと。」

笑みを含んだ顔で自分を見つめてくる少年。

「俺はダウザーとしてはそんなに優秀じゃないんだ。」

どうして…

「父さんもそんな気があったから似たんだと思う。」

どうしてそんなに…

「まぁ一族の中にもそういう人はいたから、別にそれがどうって訳じゃないんだけどね。」

どうしてそんな風に…

ワラッテイラレルノ?

自分の能力(ちから)を自分なりに理解し、 それでも挫けずにただひたすら先を目指しているその瞳。
その強い意志がきっと自分との距離を広げているのだ。
自分には彼のように己をも凌駕させるだけのモノを抱えるだけの 勇気も能力(ちから)も器もない。
何も知らず、自分のしたいように暮らしていた日々がどれだけ安易な事だったんだろう。

セナは彼に対して尊敬の念を抱きつつ、自分に対し嫌悪の念を抱いていた。

私ハアナタニ何ヲシテアゲラレルデショウ

私ハミニクイアヒルノ子……

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兎にも角にも、これで第二章が終了です。
6で書いたように変なエピソードをつけてしまったばっかりに、こういうことになってしまいました(汗)
てことで二章があまりに長くなったので、急遽(?)此処で二章を打ち切ります。
だからもしかしたら四章が出現する可能性があります、場合によっちゃ五章…(いい加減にしやがれ)