6.不安と決意の裏表

地図という小さな世界の上で重力に逆らう事なく吊り下げられている薄水色の宝石。
彼の手には首飾りの紐が絡まっているだけで、特に変わった様子は無い。
だが気のせいか紐の掛かり方が妙だった。
輪になっている筈の物、というよりは一本のものがその手に絡まっているように見えるのだ。
それに吊られている宝石自身もそれが持っている色以外の光しか発していない気がする。
そんな事を考えつつもセナは彼の動向を待った。

だが彼は一行に動く気配が無い。
遂にはその手を引っ込めてしまい、目を閉じ顔を伏せ物思いに耽ってしまった。
少女にはこの少年の一連の行為が謎めいたものとしか考えられなかった。
思わず身体を乗り出して彼に近づき、顔色を伺う。

「どうしたの?レイン…」
「あっ……うん。セナは…ダウジングって良く知らないだろ?
 まぁそれは別にセナに限った事じゃないけどね…
 だから…今目の前でやったって…きっとただの振り子遊びにしか見えないだろうなって…」
「私、そんな風に思ったりしないわよ。」

少年の言葉を無理やりかき消し、さらに近づいてその傍らに腰を落とす。
そして彼に再びあの笑顔を向ける。

「確かに、私はレインの事とかダウジングの事とかは良く分かんないけど…
 レインの言う事、全部信じてるよ。」
「何で……そう思えるんだ?」

伏せられていた短い黒髪の頭がゆっくりと上がる。
瞳は開かれているが、いつものあの透き通った灰の宝珠は光を帯びていなかった。
彼女は励ましや慰めの言葉など色々と言いたいことがあったが、それらをすべて呑み込み、 その代わりに明るみを露にした笑顔を向けた。

「だって私、レインが嘘ついたりしてるようには思えないもん。」
「セナ…」

二つの瞳が一筋の視線に並ぶ。
互いに輝きこそ違うがその瞳に光を宿らせて、それを双方共に強く感じていた。
少年はその光に信頼を、少女は安心を持ち、しばし沈黙が流れる。

「ねぇレイン。ダウジングの事、もっと教えてよ。
 あと…出来れば、中央(セントリア)とか、レインの育った所の事かも知りたいな。」
「俺の…育った場所?」
「あっううん、別に深い意味は無いのっ!」

何?良く分かんないけど、何でこんなに焦ってるの?私…
少年が気付いたかどうかは分からないが、セナの声は低音部の声が少し裏返っていた。
少女は半ば必死に自分を押さえ込む。
顔に浮かぶ妙な笑みを制しながら。

「たっただ…もっと他の場所の事知りたいなぁって思って…」

そう、別に深い意味なんて無い。
ただ純粋に知りたいと思っただけなんだから。
ただ…少し気になっただけ。
何度もそんな事を自分に言い聞かせ、平静を装う少女。
それを知ってか知らないのか少年は笑みを含んだ目で見つめ、「いいよ」とだけ答えた。

レインの話によると、ダウザーには二通りあるという。
一つは最も良く知られている『物の探索』。
主に昔は水脈、鉱山での金・銀・宝・鉱石探しの手段の一つとして使われていた。
生活を支える資源を探索する重要な技術。
一般的に知られているダウジングはこの事だという。
そしてもう一つは『(しるし)の探索』。
人間や生物の記憶、あるいは土地や場所、物に染み込んだ記憶や感情などを感じ取り、 目当てのモノを探す方法である。

前者は人間の潜在能力上、その感覚を身につけ鍛え上げれば会得できると言われている。
だが才が無ければやはりその成功率は上がるものではなく、実際はその道を極めるものは少ない。
後者は一部の人間が持つ特殊な能力が関与している。
この力はその神秘性や効力の絶大さから『超能力』の一つと言われる。
勿論これも元々は人間の潜在能力…いや、生きとし生ける物たち全てにある程度は備わっているのだが、 人として進化し成長していく中でその大半は退化してしまっているのだという。
それゆえ、それらの不思議な能力(ちから)を退化させることなく保持している者というのは希少価値なのである。
つまりこれら全てをふまえると、ダウザーの存在こそが数少ないモノであるという事だ。
科学や技術が発達してきて昔の風習や伝統が失われつつある時代の流れから考えると、 ダウザーという者は、特にレインのような先祖代々の名家の者は貴重な存在である事は間違い無い。

クロゼラス家は、本土――中央(セントリア)のこと――で栄えたダウザーの一族で、 その歴史は何と千年にも及ぶという。
そして一族の始祖は千二百年前の者で、 驚く事にダウジングの技術を確立した者たちの統率者だったらしい。
成る程、それだけの才を備えた一族の跡取りである彼を狙う(やから)がいても おかしくは無い。
クロゼラス家の者は多少個人差はあるものの、どちらの探索方法にも常人より優れているため、あえて言うなら都合が良いという事だ。

こう考えると、一族から離れているとはいえ、 その妹もあながち安全ではないかもしれないではないか。
だから少年は同じ血の流るる少女を探し、その安否を確かめたいのだという。
会う事が目的ではない。
何故なら、自分が近づいていく事で既にその存在を危険にさらそうとしているのだ。
だから贅沢などは言わない。
いざという時には自分が囮になってもいい。
彼はそう覚悟しているのだという。
少なくとも男の自分なら、捕まったところでどうこうされる心配はないから。

ダウジングの事よりも、家柄の事よりも、 自分を投げ打ってでもまだ見たことの無いその存在を守りたいと願う彼の志は、 少女には無いものであった。
その言葉は彼女の耳に留まった。


もし妹に…

クレアが狙われるようなことがあったら

その矛先が向かないように、

 「俺が身代わりになる。」
と。

一族のものはもう、彼女と自分しかいない。
彼女を…妹を守れるのは自分だけなのだと…

ただ、最後に一度でいい。
成長したその姿を目に焼き付けたいのだ。
二度と会えなくなってもその存在を意識して確認する事が出来れば、 自分はどんな立場に立っても負けずに進んでいけるから。
それが自分の唯一の我侭だ。

諦めはしない。
その為にここまで来たのだから…

コノ青イ空ノ下ノ何処カニ

キットアナタガイルノデショウ

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何か足踏みしてて先に進んでませんねぇ…
実はこの6を書いたことが二章が膨れ上がった原因の発端です。
これ書いたが為に話が間延びしてしまいました(汗)
レイン君が何の疑問を持たずにダウジングしていれば!!(おい)
まぁ悔やんでばっかですが、セナの心の変化やらレインの決意やらが表せたので、この話自体は重要だと思ってますよ。
いずれどっかで書かなあかんかったし…最後のレイン君の言葉は余計だったかも知れませんが(汗)