5.彼の能力(ちから)

じっとその宝石(いし)を見つめている灰を帯びた瞳。
真っ直ぐ何の迷いも無いそれに、セナは胸の高鳴りを感じた。

「なぁ、この辺りの地図とか持ってない?出来れば詳しいヤツがいいなぁ…
 あと大陸の地図もあれば欲しいんだけど…」
「地図?」

この期に及んで一体何故地図なのか…地図といえば場所を確認する、あるいは目的地を決めるために使われるその土地の図。
でも彼だって何も無しに此処に来るはずが無い、此処が(イーストリア)大陸のルークラトである事は既に知っているはずだ。
現在位置を今更確認する訳がない。
ではこれから先の行く道筋を決めるためなのか。
しかしそれならば大陸の地図の必要性がかなり欠ける。
一体何のために…
そんな疑問を抱えつつも、少女は取り合えずそれを置いておくことにした。

部屋の隅にある棚から少し大きめな本を数冊取り出し、部屋の中央で広げる。
少し埃を被っていたが比較的新しいそれには事細かに地名や道が書き記されていた。

「これがこの町や隣町の地形が書いてある地図、こっちがこの(イーストリア)大陸の地図。
 それと、これが世界地図だけど…これはちょっと古い本だから……」
「全然良いよ。これだけあれば十分だ。」

そう言うと、彼は広げられた(ページ)に目を通す。
この地方の文字は(イーストリア)の中心で使われているのと少し形や発音が違ったりしている。
それは勿論本土である中央(セントリア)のものとも幾分異なる。
所謂方言というヤツだ。――つまり他の三大陸とも違う字形であることは容易に解る――
世界共通の『レイド』という語がほぼ全土で普及しているとはいえ、 その地方独特の言葉使いという物がある為、異国の地で暮らしていた彼にとって読み辛いだろう。
地図の書き方だって大陸ごとに違っているので、やはり少女の助けが必要だ。

そういえば、彼が異国の民だという事は彼女にも見て分かる事だが、 外界の事についての知識が乏しいセナには彼が何処の大陸から来たのか分からないままである。
地図の話を持ち出され、少女はふとその事が気になった。
しかし少年は黙って床に広げられているソレから一向に目を離そうとしなかった。
その様子を見る限り、とてもじゃないがそういう事を聞く状態ではない。
少女は横目で彼の目線を気にしながら、同じようにそれに目を通す。
初めはその行為ばかり繰り返していたが、地図なんて普段は滅多に見ないので所有者である彼女自身もしばらくするとかなり見入っていた。
二つの視線が向かっているのは、世界地図と五大陸それぞれの大まかな地形図が載っている大陸地図だった。

セナが暮らしているルークラトは全五大陸の中にある、 (イーストリア)という東にある大きな大陸の内陸。
しかも左右で言うとほぼ真ん中の辺り、上下で言うとその微妙に細長い所の上から三分の一程の所だろうか。
――基本的に世界地図では中央(セントリア)という一番大きな大陸を中心として描くので、 (イーストリア)は世界から見て東部にある――
丁度赤道が大陸の中心部から少し下側を通っているため比較的に、 いや本来ならばかなり暑い地域となるが、大陸の中央部は高山地帯となっていて尚且つ北方から南西に向けて常に風が吹いているので、 ルークラト付近の地域は温帯といっていい気候になっている。
ただし、本来乾燥地帯に属している地域であるうえに山部なので雨が少ないのも現状である。

「これがセント世界地図だね。――中央(セントリア)が中心になっている地図――」
「うん、そうよ。」

そうか、彼はこれを探していたのか、と彼女は気づいた。
自国で使われている形式の物の方が分かりやすいはずだ。
セントリアは国の首都があるので中心になっている地図も多い為、使い勝手が良いのもあるかもしれない。
――ちなみにこの時代は世界が一つの大国で、大陸ごとに(イーストリア)地域、 (サウスリア)地域、[セントの南側]、 西(ウェストリア)[セントの西側]、 (ノースリア)[セントの北側]、 そして中央(セントリア)地域の五つに分かれていた――
では彼は中央(セントリア)の人間なのだろうか。
確かに、その言葉に癖が無いところからすると中央部の者である可能性が高い。
その事で頭が一杯になってしまい、普段あまり使わない部分を働かせすぎて少女は落ち着きがなくなっていた。

「これが、いま僕らが居る(イーストリア)大陸。
 そして此処が僕の生まれ育った中央(セントリア)地域、ファイナ地区だ。」

ファイナ地区、中央(セントリア)の北東部で温帯と冷帯の境目である。
――彼が色白なのはこの為か…――
地図でのその場所に先程の宝石の付いた紐を絡めた手を差し出す。
そして握られたそれを垂らし、静止させる。
一体彼が何をしようとしているのか、彼女にはさっぱり分からない。

「さっき言ったよね、この石はセンス−ジェムだって。」
「う…うん。」
「これは僕ら一族の本来の能力(ちから)、 ダウジングの力を高めるための探知宝石(たんちいし)[=センス−ジェム]なんだ。」

聞きなれない言葉と共に凛と澄んだ声が少女の耳に届いた。
彼女にはやはりそれをすぐには理解できない。

「…ダウジングに……探知宝石(センス−ジェム)?」
「うん、そう。」

知らない?という疑問詞を含んだ表情(かお)で少女を見つめるレイン。
先程から自分の心は何故か落ち着かない。
頭はくらくらして破裂しそうなくらい混乱していて、心臓が隣に居る彼に聞こえるかと思うくらい高鳴っている。
その為、セナは首を(すく)ませながら縦に振る事しか出来なかった。
彼の視線が何故か何処かを締め付けるかのように痛く感じられた。

「そっか…この大陸ではあんまり盛んじゃないんだね。まぁ、それも仕方ないか。」

苦い薬を口に含んだような顔で視線を彼女から反らし、手元の宝石(いし)へと目を向ける。

「ダウジングっていうのは正式には『放射探知法』っていうんだ。
 本来は水脈や金属物を探したりする方法の一つとして古くからセントで使われていた技法でね。
 一般的には二股の棒を使うって言われてるけど、僕ら一族はもう一つの方でその能力(ちから)を発揮させたんだ。」

自分へと向けた厳しい言葉。
その威厳のあるモノに気圧され、セナは息を呑む。

「クロゼラス一族はその血に優れたダウザー――ダウジングの名手――の能力を宿している。
 この宝石はその能力を更に高める為に一族が開発した特別な宝石なんだ。」

己に流れるダウザーの血。
その宿された能力(ちから)を補助し、更に高める効果を持つ探知宝石(センス−ジェム)
それが彼だけの能力(ちから)であり、彼であるための証でもあるのだ。

「でも、レイン。それでどうするの?どうやって妹さんを探すっていうの?」
「まぁ、見ててよ…」

そういって少年は地図に再び宝石を垂らした手をかざした。

君ニ出会ウ、ソノ日ノタメニ

僕ハコノ手ヲ(カザ)スンダ

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色々用語が出てきましたねぇ…
ややこしいかも知れませんが、とりあえず必要な語句のみを載せていきます。
あっても無くてもいいようなヤツは一通り済んでからにしましょう(笑)
レインにダウジングやらせようと思ったのは…
マンキンのリゼルグに影響されてるのかもしれません。
でも錬金術やらせようと思ったのは決してハガレンの影響ではありません(断言するなよ)
偶然だったんです、本当、だってこの頃ハガレン知らなかったし…
一応それぞれにやらせる意味があるんですよ。