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五種類の鉱石成分を組み込んだ水晶
成る程、彼の着ていた衣服の模様の複雑さからうかがえた知性の高さというのは予想以上かもしれない。 石だけでなく彼自身も目的なのだとすれば、恐らく…… 「そっか…あの人達は、レインにその石を作らせたいんだね…」 「いや、実を言うと、俺はこの宝石 「…創れない?」 少女は首を傾げる。 彼はたった今、この石は自分の一族にしか創れないと口にした所だ。 では今更何故そのような事を言うのだろうか。 もしや彼はまだその技術を習得していないのかもしれない。 現に彼は自分と同じ十二歳。 いくら優れている一族といえど、流石にその年で習得できる代物ではないだろう。 大人でも習得できるか分からないほど高度な技術である事は明確だ。 ――ちなみにこの頃世間で言う成人は土地によって差があるがおおよそ十四歳前後とされていた―ー しばしの沈黙が流れ、セナが少年に問う。 「その石には、何か特別な事があるの?」 そう、その技術があるのならそれを使う理由があるのではないか。 石を、しかも宝石の一種である水晶を加工するには意味が無ければ話にならない。 「…特別な事?」 「だって、そんなのを肌身離さず持ち歩くって事は商売とかの為じゃないんでしょ? もしかして一族の宝…とか?」 異国の少年はその言葉に息を呑んだ。 先程から薄々感じていたが、――セナ自身は気付いていないようだが―― 彼女は物凄く鋭い所を付いてくる。 もしかして本当は全てを知っているのではないのかと錯覚を起こすほど…… レインは再び石を手に取り、握り締める。 何処から話すべきか迷っていた。 助けてもらったとはいえ、見ず知らずの少女に一体何処まで話したらいいのだろうか。 これはクロゼラス一族の問題であり、 他人が首を突っ込む事も他人を巻き込む事も本来ならば避けなければならない事だろう。 分かっている、それは十分分かっているが目の前の彼女を突き放す事も出来はしない。 何処まで考えてもそれは迷いの方向にしか進まないのだ。 だが、彼はそう思案した後それらの迷いを捨てた。 そう、今更話したところで何も変わりはしない。 俺は自分の目的を果たすだけなのだと自分に言い聞かせ、徐に話を続ける。 それに、何故だろう、彼女には全てのことをすんなりと話せるような気がするのだ。 きっと真剣に聞いてくれる。 決して笑ったりしないだろうし、奴らに関わるような愚かな事もしないだろう。 彼女はそれなりに知識もあるし、賢い。 しかしそれだけの理由では説明のつかない何かが、彼に全てを語らせようとしていた。 「そうだね。宝って程ではないけど、これには色々な意味がある。」 そういって彼は右手の中にある石を左手の指先で摘みあげる。 少女はそのつぶらな瞳で少年の白い指の後を追う。 その光を吸収し、反射して輝く宝石 「例えば…何?」 「さっき言ったよね。この宝石 「一族の…あかし…」 そう、その響きにはある種の『特別』の意が込められていて、セナの中に重く伸し掛かった。 一見普通の少年が自分と違う世界の人間のような、そんな錯覚を引き起こす。 彼が言葉をつなげるたびに、更に重くなって自分の心を押さえつけているようだ。 そしてそれが錯覚ではなく現実だという事実が次々と告げられていく。 「他にも色々あるよ。宝石加工 でも、この宝石の製造に成功したのはそれから五十年程後。 他の宝石も加工速度が遅くて生産量が多くなかったから、一族の要になるまでには百年近くかかったらしいよ。 だからそれまでは占星術とか測量術で生計を立ててたみたいだ。 その前に錬金術が発展していたけど、こっちも要 まぁ一族の錬金術は国の軍事や行事に大いに役立ったって史書には書いてあったけど、それは一族の最盛期だった四百年前の事 で実際はまだ開発の途中だったみたいだし。」 彼はそこではたと言葉を切った。 何とも言えがたい重い空気を傍らで感じたからだ。 何分こう言う風に誰かと話をすることが久しぶりで自分でも良く分からないくらい弾んでいた。 しかもその材料 こんな事を聞いて楽しいはずも無い。 例え真剣に聞いてくれていても難しく話されては理解しようがない。 勿論話を難しくするつもりは無かったのだがどうやら知らないうちにそうしてしまったらしく、 彼は今になって後悔していた。 だが、彼女は難しいとかややこしいとか、そういう風には感じていなかった。 セナはただ、彼と自分の間には民族とか性別とかそういうものではない隔たりを感じ、 独特のあの切なさを抱いていたのだ。 自分と年端の変わらない少年、自分よりは遥かに大人びている雰囲気をもっている少年。 それだけの違いだと思っていたのに、まるで生きている世界そのものが自分とは違っているのだと思い知らされたのだ。 「レインの一族って、凄かったんだね。」 彼女がその場を変えようと辛うじて発した言葉がこれだった。 気のせいかその声が微かに震えていたようにも聞こえる。 別に泣いているわけではなかったのだが。 少年はそれに気付いたのかは分からないが、再び物思いにふける。 「凄いっていってもそれは全部昔の話だよ。 現に一族は衰退して唯一残っていた俺たち家族も殆どその技術を習得していなかったし。 まぁ、その前に皆死んじゃったから、たとえ持っていてもどうって事は無かったけどね。」 「家族…亡くなったの?」 その言葉に少女は異常に反応していたように思う。 まぁ母親と二人暮しの少女にはそれがどういう事か知っていただろうし、 彼女ほど優しい心を持っていれば恐らくそういった言葉を口にするのだろう。 少年にこの思考がめぐるのも、彼自身がやはり『優』の部類の心の持ち主だからだ。 「うん。母さんが俺を産んですぐに、祖父ちゃんは流行り病で四年前に。 父さんはその後俺を育てようとして一生懸命になりすぎて死んだ。多分過労死だろうね。」 思い起こせばあれから三年も経っていた、という事に今更気が付いた。 忘れていた訳ではない、ただそんな事を悠長に考えている暇が今まで無かったのだ。 自分がどう考えどう受け止めようとその事実は変わりはしないのだと思い、ずっと先延ばしにしていた。 たったそれだけなのだ。 そんな思案を巡らせていた彼の横顔を少女がじっと見つめている。 「ずっと…一人だったんだ…」 一人… そんな事、初めから分かりきっていたから自覚すらしていなかった。 一人だからといっても、一人で留守番とかをすることは結構多かったので その後別段寂しいとかいうわけでもなかったし、生活するのに必要なものは色々用意されていて特に困らなかったからだ。 それに…まだ自分には希望があった。 挫けて泣いている暇など、寧ろなかったのだ。 そんな自分をじっと見つめているセナ。 心なしか少女の瞳が潤んでいるように見えた。 やはり強大な優しさの持ち主だ。 涙をこらえて俺を見つめている。 「うん。……でも…まだ一人じゃないよ。」 「えっ?」 「父さんが死ぬ前に聞いたんだ。俺には生き別れになった『妹』がいる。その妹がきっとどこかで生きているはずだって。」 「妹?」 「あぁ。母さんが死んだ後、訳あって施設に預けたらしいんだ。 その施設に行ってみたんだけど、俺が行った時にはもう誰かに引き取られていた。 父さん、余程周到だったんだね、妹が何処の誰に引き取られたのかとかの情報を残さないように手配してたんだ。 だから妹の足跡に関する情報はその施設から全く消されていた。」 軌跡がそこでプツンと途絶えてしまった。 手がかりが無くなり、もはや諦めてしまってもおかしくは無かった。 だが、そんな自分を支えたのは他ならない『妹の存在』だった。 「でも引き取ってくれた人が、きっと大事に育ててくれている。 絶対、妹は世界のどこかで生きている。 だから俺は妹を探し出すんだ。その為には、奴らに捕まる訳にはいかない。 何処まで追いかけられても必ず振り切ってやる。」 少年の顔つきは真剣だった。 たった一人の肉親を求め、出会う為だけに彼はここまで来たのだ。 遥か遠い異国の地から。 「でも、その子が何処にいるか、どんな顔をしているのかも分からないのに…」 「うん、確かに何も手がかりは無いよ。だけど俺には…コレがある。」 そういって彼が掲げたのは先程の宝石 一体それでどうしようというのか、少女には全くもって見当が付かないのであった。 今、彼女ハ何処ニ居ルンダロウ… 今、彼女ハ何ヲ思ッテイルンダロウ… back close next
これで少しは話が見えましたか?そうです。
これはレイン少年が血の繋がった「妹」を探す旅の途中で出会った少女との物語でございます。 これから先の出来事に繋がるキーワードは既にちょこちょこ出していますが… 皆様は気づかないかも知れません。 …まぁ最終回を見て「あぁ…これも関係してたんだぁ…」…と思って欲しい(おい) そうなるように頑張りたいと思います(^^;) |