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バタンッと大きな音を立て、彼らより一回り大きい扉が勢い良く開いた。
だがその中を確認する間もなくその腕に引きずり込まれ、また勢い良く閉められる。 突然の事で何がなんだか彼には分からなかったが、とにかく己の姿を隠す事が出来ると思いほっと安堵したのもつかの間だった。 なぜなら、その先に居たのは大人の人だかり、しかも皆四十前後と思われる――恐らくこの町の住人の―― おじさん達であったからだ。 多くの視線が彼らに向けられている。 いきなり連れてこられた彼にとって、この状況を把握するには少々時間を要したのは言うまでもない。 一体、此処は… そんな思いをめぐらせ戸惑っている彼をよそに、セナは何でも無いかのような振る舞いを見せる。 「マスター!!」 セナはすぐさま奥に居るこの店の主のもとへ小走りで近づいて行く。 「早かったな、セナ。 丁度、新しいお客が入ってきたところだから…おい、どうした?そんなに慌てて…」 そう、此処は紛れも無く、先程セナが働いていた居酒屋である。 そこに居る人たちは、仕事帰りの人や残業前の一服をしにやってきていたのだ。 だが少年にはこの状況がますます理解しがたかった。 まだ成人を迎えていない子供が、こんな時間にこのような大人の店に出入りすることですら この町ならではの特徴であり、ましてや、こんな大人の出入りする場所に助けを求めるのなら未だしも、 どうやらここで働いているという事を悟った時点で、彼にはとてもじゃないが考えられなかった。 「…はぁ…はぁ、マスター…実は…」 途切れ途切れに言葉を繋ぐセナ。 この時期特有の蒸し暑い気候は思った以上にセナの体力を奪ったらしく、苦しそうに肩で息をしていた。 あの距離でこれだけの息遣いになるのだ。 そう考えるといくら彼女の体力が無かったとしても、彼のは並外れた物ではないということがわかる。 「…ん?セナ、誰だ?その坊主は。」 ふと後ろに居た彼に気づき、男は声をかける。 セナは大きく息を吸い、荒れた自分の息を整えこう言った。 「彼を匿って欲しいの。」 「かくまう?そりゃまたどういう事だ?」 「…彼、どうやら誰かに追われているらしいの。」 「何だと?」 その言葉を聴き、マスターはじっと彼を見た。 黒い髪、灰色の瞳、色白の肌。 どれを取ってもこの辺りの民族ではなさそうであり、しかもセナと同じくらいの子供である。 その幼さから旅の者とは考えがたいが、纏っているその衣服ははるか遠い異国のそれであることは、 この店での長年の経験で直感できる。 追われている…とすれば、よっぽどの事であろう。 町の検問所で許可を受けなかったのか、それとも何処かの悪集団に絡まれたのか。 もしそうでないとすれば…いや、彼はそんな風に見えない。 しかし証拠はないし、一体どうしたものだろうか… 主人がこのような思考をめぐらせていると、 表の通りが何やら騒がしくなった。 騒ぎが起こった瞬間、彼の顔は先程のように焦りの色が見え目が泳いでいた。 彼には何かある…セナにはそれがはっきりと分かっていた。 「おい、もしかしてあいつらじゃないか?」 この店に居合わせた常連の農夫のおじさんが、小さな窓から見える人だかりの中にいる二人の男を指差した。 なるほど、その格好や顔立ち――藍交じりの黒髪に黄色肌の長身で身体つきのしっかりした男と、 茶交じりの金髪に白色肌の、黒髪の男より頭一つ分低い細身の男――から、 その者達はいかにもこの土地の者ではなく、しかもそんじょそこらの役人でもなさそうであり、 どうやら追われていることは今に始まった事ではないようであった。 だんだんと近づいてくる二つの影。 彼の顔は先程よりもの凄く強張っていた。 外ならともかく此処は小さな部屋同然である。 今ここに居る事がばれたら、彼に逃げ場は無い。 男はその様子をまじまじと見つめた。 もしこの子が村もしくは国の役人に追われているのならば、匿う必要などない。 役人に追われる理由は、何かしらの犯罪を犯した時ぐらいだけだからだ。 ――相手は少年とみて、おそらくは万引きという程度の事であろうが―― それでも罪を犯したならば、やはり彼を突き出さなければならない。 被害を蒙 だが、彼を追ってきたと思われるものはそうではないようだ。 彼同様に異国の者であり、役人というよりはどちらかというとある種の組織の者といった風に見える。 何故彼がこんな奴らから追われているのかは定かではないが、おそらく彼は自分の身を守ろうとしているだけであろう。 追われている理由を彼が知っていようとも捕まるわけにはいかない理由があるのだろうし、 もし知らないのなら尚更その恐怖から逃げようと必死なのだ。 恐らく彼は何も悪いことなどしていない。 ただ奴らにとって、彼の存在が邪魔なだけなのだ。 となれば、男の取る行動は一つ。 「セナ、店の奥に使い古した上着があるからそいつにかけてやれ。 裏門から町の外に連れ出してやりな。」 そういってマスターはカウンターの仕切りを開け、奥に続いている扉へと視線をやった。 その言葉を待っていたかのように、セナはマスターに笑顔という礼をする。 「ありがと、マスター!!」 少女はそういうと立ち尽くしている少年の側へ行き、ぐっと彼の手を取って引き寄せた。 その衝動にふと意識を取り戻した彼は、焦点の合わない目でセナの姿を捕らえると無意識に彼女の手を握り返し、その存在を確認する。 その手の震えから、彼の不安の気持ちが伝わってくる。 だが、それと同時に無意識ではあるが自分を頼りにしているんだということも感じられた。 「セナ!!早くしろっ!!奴らがこっちの方へ向かって動き出したぞっ!!」 先ほどの農夫のおじさんが密やかに叫ぶ。 そして店に居合わせた人たちが、我先にと立ち上がり、表の扉と彼女達の間に人垣を作る。 口々に励ましや応援の言葉をかけ、さらに手にしていた食べ物や道具まで差し出す人もいた。 此処に居るものは皆一心同体。 困ったときはお互い様。 一糸乱れぬ団結力の賜物である。 「皆、ありがとう!!さぁ早く、こっちよ。」 セナは軽く微笑み、彼の手を引いてそのまま店の奥へと姿を消して行ったのは、 それからまもなくの事であった。 回ル、回ル、歯車ガ… 再ビカミ合イ、回ル、回ル… back close next
何とかかんとかで第一章三つ目です。マスター、いい人ですよね…全然描写されてませんが(汗)
しかしこの人は多分もう出てこない…せめて最後ぐらいに出せるようにしたい自分。 実はこの話、セナとこの少年以外は殆ど人物像が無いのです。 サボってやがる… |