12.終劇の謳歌が響く

簡単に言ってみれば"圧倒的な力の差"が生じていたということだ。
それもたったの一撃で勝負がついてしまうほど。
勿論、彼らが進化によって姿だけでなく基礎的な力が強くなったのは間違いないのだが、 それだけでは森の支配者とまで言われる程の屈強で凶暴な二匹を倒す事は叶わなかったであろう。
それを可能にしたのは間違いなく彼の魔力の力だ。
知識の乏しい男達にも、その事実を実感するのにそう時間は掛からなかった。

「…もう終わりですか?」

荒れた呼吸を繰り返しながらも、少年は男達を小馬鹿にするような口調で言葉を紡ぐ。
相変わらず壊れずに張り付いている笑顔は逆に気味が悪くなるほど妖艶で、 少年が心中で一体何を考えているのかまるで分からなかった。
分かっていることは、彼がこの状況を楽しんでいるように見える事だけだ。
男達は己の顔から一気に血の気が引いていくのを感じた。
その側で、ようやく動けるようになったボーマンダが低く唸りをあげた。
その声を聞いた男達はまるで天使の声を聞いたかのように歓喜に満ちる。
この状況を打開出来る可能性を秘めた唯一の存在に、必死で縋り付く。

「ぼっ…ボーマンダ!!アイツだ!!アイツをやっつけるんだ!!!」

命令を受けた碧い獣は更に低く唸りをあげる。
まるで何かに威嚇をしているかのように。
一瞬それが自分達に向けられているのではないかと感じた男は、更に声を荒らげる。

「なっ…何をしている?!早く攻撃するんだ!!また痛い目に遭いたいのかっ?!!!」

その言葉が効いたのだろうか。
その長い首を高らかに延ばし、ボーマンダは視線を男達から外し、頭ごと少年の方へと向き直った。
その細い瞳には複雑な色が浮かんでいる事に、少年は初めて目の当たりにした時から気付いていた。

分かっているよ。
キミが本当は戦いたくないんだって事は。
でも、今ボク達は敵同士なんだ。
…大丈夫、必ずこの戦いを終わらせて、キミを開放してあげるから。

人には分からない魔物達の言葉で、少年は語りかけた。
そして、新たな召喚の呪文の言の葉を口許に乗せて紡ぎ出す。
さりげなく組まれた手から発される術式が、辺りに波紋を打ち付ける。
それは先程までとは比べ物にならない程、強い衝撃波となって、大地に降り注いだ。

「時の流れはうつりゆけども、変わらぬその目の賢さよ。雨・晴・氷と躍する天気や、いでよっ!POPO!!」

紅い魔力が眩い白光へと変化し、辺りを照らし出す。
その光と共に現れたのは、明るい灰色の身体をした魔物であった。
ポワルンという非常に珍しい種族で、普通属性と言われているにも関わらず様々な技を使うことが出来、 更に浮遊の術を持っている為空に静止し、また自由にさ迷う事が出来る。
この魔獣の大きな特徴としては、天気を左右する能力(ちから)があるという事だった。

「POPO!"霰"だ!!この辺り一帯を氷の空間にに仕立てあげるんだ!!」

主の命を受けた淡灰色の魔獣はこくりと頷き、上空へと舞い上がる。
高見へと上り詰めた彼女は、周囲の環境を変化させる"己の力"を発動させる。
そしてその姿が、そうあるべきモノへと変わっていく。
辺りは段々曇り始め、そして最初の一粒が落ちた。

「なっ…こっこれは……っ!?」
「氷の粒…だと?まさか…こっこんなもので攻撃だなんて言うんじゃないだろうなぁ?」

あれだけ大見得切った仕草(パフォーマンス)をしていて、 出てきたのがこんなちっぽけな氷粒だと?
妙に拍子抜けした男達は、複雑な笑みを浮かべながら嘲笑した。
心のそこから笑う事ができなかったのは、まだ彼が何かをしようと企んでいるのではないかという"恐れ"が残っていたから。
勿論、策略家である少年はそれだけで終わるはずはなかった。

「…貴方達って本当に何も知らないのですね。これは貴方達の切り札を倒す為の下準備ですよ。
 龍属性の魔物は氷属性の力に弱いんです、それくらい魔物を扱う人ならば常識なはずなんですけどね?」
「なっ……っ!!」
「それと、彼女は補佐者ですから攻撃はしませんよ。いでよ!MIMI!!」

新たな掛け声を受けて、再び空間に歪みが生じる。
その裂け目から一匹の獣が飛び出した。
その獣の名はMIMI、ヒンバスという種族であった。
ヒンバスという魔物は一見すると魚のような姿だが、その見た目はかなりみずぼらしい身なりである。
元来そういうモノとして忌み嫌われる傾向にあったこの魔物を所持している魔術師は数少ない。
そもそも野生のヒンバスなど殆ど見掛ける事などないので、初見した者は皆そいうい印象を受けてしまうのだ。
だが、ヒンバスには素晴らしい力が秘められている事をこの少年は知っていた。
訓練次第では非常に強力な技を使えるようになるし、 その転変した姿がとても美しいものだという事実も持ち合わせていたからだ。
今までは召喚に使用する、 及び彼女の能力(ちから)を最大限に発揮するために使用する魔力が多大であった為に殆ど使ってあげる事が出来なかったが、 今なら思う存分彼女の力を発揮することができる。
身の内で暴れ狂う魔力(ちから)を、一つの流れに集中させる。

「いけっ、MIMI!!"冷凍ビーム"!!」

周囲に舞い降る霰が風を巻き込むように渦巻き、そして放たれた技と共に大きく弾けた。
光り輝く光線が纏う冷気が辺りを氷の世界に変えながら、真っ直ぐに碧い獣へと向かっていく。
攻撃の準備の為に"溜め"を必要としなければならない"破壊光線"では、その技に追い付く事が出来ない。
そしてそれ以外に、氷の技を破る術を持たなかった獣は、その直撃をまともに受けた。

悠然と四肢を踏ん張って立っていた身体が均衡(バランス)を崩し、地に倒れる。
衝撃が波紋を作りながら広がった。


青ざめた空間に静寂が漂った。
白煙に包まれた巨体はぴくりとも動かない。
そして、この僅かな時間で、吐息が白くなるくらいにこの空間の温度は下がり切っていた。
"強力な魔力"が働いた事により大きく有様を変えてしまった大地に、男達は呆然と立ち尽くしてしまう。
それほど、目の前で起こった出来事を素直にそのまま受け入れられないのだった。
視界を曇らせる程の荒い吐息が漏れる口許に笑みを湛えた少年が、 こちらを見つめていることに気付くのにも幾分時間を要してしまった。

「…これで、貴方達の切り札はもう使えませんよ?」

その言葉にビクリと反応を示した男達はわなわなと身体を震わせ始めた。
自分達が想像していたよりも、少年の存在は悍ましいものであった。
これが魔術師の能力(ちから)なのか。
自分達の"表面"には、技の一端である"氷"が全身に張り付いていて、一瞬でこの空間の"一端"とされてしまっている。
だのに、彼はこの場所で唯一世界から切り離されたかのような佇まいであった。
絶えず溢れ出てくる"紅い火の粉"が全身を包み込んでいて、 彼は全くこの空間の状態に左右されていない別世界の住人になっていた。
身を持って思い知らされた事実に、身体が強張る。
ガクガクと震える膝に精一杯力を入れて、少しずつ後ずさる。
そして、一人の男の動きが啖呵を切る形となった。
誰一人後ろを見ることなく一目散に駆け出していく。
喉の奥が大きく竦んでしまっていたので、男達は誰ひとり声を上げる事は既に叶わぬ事となっていた。
少年はその瞬間を逃してなるものかと、大地に己の魔力を一気に注ぎ込んだ。

「逃がしはしませんよ!!」

突然地面に亀裂が入り、その隙間から茶色い蔓のようなものが次々と飛び出して来た。
無限に伸びるかのような自然の縄が少年の魔力を受けることによって、自在に舞い踊る。
その意思に従って、矛先を真っ直ぐ男達の足元へと向かわせる。
あっという間にその足首を搦め捕り、動きを封じにかかった。
慌ててこの場を去ろうとしていた男達は足元を掬われることによって大きく体勢を崩し、その場に倒れ込んでしまう。

「おあっ…!!……ぐぁっ!!」
「なっ…何なんだ!!?この蔓はっ!!!」

もがけばもがくほど脚に食い込んでくるように締め付ける蔓を必死に引きはがそうとするが、びくともしない。
腰に提げていた刃物(ナイフ)を使って切り付けてみるが、後から後から蔓が伸びてきてその行為を阻む。
少年は目を細めてその光景を見つめていた。
これが逃げ惑う生き物を追い詰める者の心情なのか。
心に込み上げる苦い気持ちを押し殺して、"悪"を演じる。
これが、お前達の姿なのだと見せ付けるかのように。

「…なんだ、まだ逃げるだけの元気があったんですか。じゃあもう逃げられないように徹底的に痛め付ける必要があるみたいですね…」

少年は手を振り上げて黒衣(ローブ)をはためかせ、再び空間を歪ませる。
次の瞬間に現れていた緑色の魔獣は、白い両手を空に突き上げて念を込める。
辺り一帯に高い光柱が駆け巡り、まるで大きな一枚板の壁が出現したかのように空間を包み込む。
そして新たに主から与えられた魔力が、術者である"彼女"の姿を変える。
細長い脚で器用に体勢(バランス)を整え、キルリアとなったRURUは全力で"壁"の形勢にあたる。

「時の流れは移りゆけども、変わらぬその身のたくましさ!ほとばしりたるは怒りの激流!
 さぁ、ZUZU!!今こそ君の本当の能力(ちから)を発揮する時だ!!」

ルビーは更に魔力の出力を上げ、 自身と己の相棒(パートナー)を紅い魔力(ちから)で包み込む。
まるで無尽蔵かと思われるくらいの膨大な量が既に使われている事は明確なのに、彼から溢れ出る光はとめどない。
ここで男達は、魔術師の中でも彼が"異質の存在"なのだということを悟った。
恐怖の色が全身に張り付いて離れない。
視界を覆うかのように立ち込めた紅い光の中で、新たに変化が起こった。


蒼い姿が、更に大きく膨れ上がる。
穏やかだった表情が一変、鋭い目付きに変化し、その肉体は少年の丈をも上回るほど大きく成長していた。
鰭状になった両手を相手に突き出すように低く構えていく。

「行くよ、ZUZU。今こそキミの本当の能力(ちから)を見せる時だ。POPO!!彼に相応しい戦場を造るんだ!!」

命を受けた淡灰色の魔獣はコクリと頷くと、再び自身の能力を使い、転変を始めた。
その姿が変わるか変わらないかのうちに、天気が大きく変化する。
氷の粒は段々と形を失い、雨となった。
荒れ狂う空模様の下、蒼い魔獣の力は最大限に高まった。
ラグラージだけが保有する"最大の技"が、発動する。

「ZUZU!!"濁流"だ!!」

蒼い獣から吐き出されたのは大量の水、それも泥を含んでその重量をました水流が怒涛の勢いで"標的"へと向かい、 そして衝突によって大きく弾ける。
突き抜けた流れは張り巡らされた"壁"によって跳ね返されて、また別の流れとして"標的"へと帰っていく。
もはや此処は森の中ではなく、氾濫した河の中そのものであった。
重い一撃を何度も何度も食らわせながら、激しく舞い踊る。


それが終わったときには、全てが終わっていた。
空は再び明るい陽射しを地に放っていて、夏特有の蒸し暑い風が漂っていた。
残ったのは、辺り一面が泥の河と化した草原とそこに横たわる三つの影。
そして、何事もなかったかのように立っていた少年と、 それまでの一連の光景を目の当たりにしていた少女の姿があった。
少年が右手を空に翳し、癒しの力を発動させ、静かな魔力の波紋を周囲に打ち付ける。
その力によって大地も魔物も"本来の姿"へと次第に戻っていく。

何もかもが元通りとなったことで、全てが終わった。

アンタガ本当ニ強イ事バ、初メカラ知ットッタツモリヤッタト。デモ、今ノアンタハアタシガ思ットッタヨリモ輝イテイタトネ。

何デヤロ…何デカ分カランケド、スゴク…スゴク悲シカヨ。

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ルビさんをカッコよく書いてあげられているかちょっと謎ですが(笑)でも僕なりには頑張っているつもりですヨ?(流し目)
今更ですけど、僕どうしてもルビさんのポケモンを全部使いたかったんですよ
ですので、本誌通りに頑張って話を考えながら配置したつもりだったんですけど、分かってくれますかね…?
………あっ、そうですか、そうですよね?所詮僕の浅知恵が成せるのってこんなもんですよね(つД`)