Stubbornly Mind - 0

それは運命だと言えた事だったのだろうか。
ある日突然やってきた迫害の嵐。
その鋭い矛先を向けられていたのは"あたし"であるべきはずだったのに。
いつも苦い思いをかみ砕して耐えていたのは父親の方だった。
私には「大丈夫だから」といつも笑顔で居てくれたけれど、きっと"あの時"から考えていたのだろう。
だからこそ今、此処にいるのに違いないのだから。


木々の生い茂る車道を一台の黒い車が走っていた。
陽の光をきらびやかに反射させている細長く細身(スマート)なその格好(スタイル)は、 まさしくリムジンそのもの。
運転席にはいかにも格調高い衣服を身に纏った短髪の男が、 後部座席には小綺麗だがあくまで庶民的な衣服を身に纏った少女が一人、窓の外をじっと見つめていた。

「すまないね、車での長旅になってしまって。疲れただろ?」
「大丈夫った……いえ、大丈夫です。」

少女は不意を突いて出てきてしまった自分の言葉を飲み込んで、改めて事務的な口調で言い直した。
車を運転していた男は、そんな少女の内心必死な姿を見て滑稽な気持ちになる。

「ふっ、気にしなくていいよ。君ら親子と私の仲じゃないか。」
「そんな訳にはいきません。私は今日から"雇われ"の身ですから。なのにこんな豪華な車で出迎えて貰って、逆に申し訳ないです。」

少女は意思を曲げず、ただひたすらに"良"を装う。
これからは彼の元で己に与えられた役目を真っ当する人生を送るのだ。
自分には帰る場所などない。
彼に見捨てられれば、自分の居場所を失ってしまう事になるからだ。

「雇われ、か。まぁ見方によってはそうなるんだろうね。」

男は少し表情を曇らせて、口調を萎ませた。
今となっては当たり前のような事になってしまった日常。
己の死力を尽くして築き上げた地位と名誉。
それによって得た財産も壮大なものであることは疑い無い事だ。
だがその反面、 失ってしまったものがいかに大きいものであったのかを思い知らされてしまった事もまた事実であった。
ハンドルを握る両手に、僅かに力がこもる。

「父と親友だからという理由で私を引き取って下さってありがとうございました、センリさん。私に出来る事があれば、何でも致しますので…」

どうかお申し付け下さい。
少女は深く頭を下げて男に礼をした。
男はその礼儀正しさに感嘆しつつ、少女が今まで受けてきたであろう"迫害"の事を思い、 胸を締め付けられる感覚に捕われた。
彼女の心優しい人柄とその言葉に、ある思念が揺らぐ。
脳裏に浮かぶ"彼"の姿が、自分を悩ませている存在である"彼"が、一体どのような態度に出るのか、 既に解りきっているはずなのに。
何故だかもう一度、彼女に"賭けて"みたくなってしまうのだ。
男はそんな自分の考えを表に出さぬよう表情を無にする。
そして、常日頃自分が"演じている顔"になった。
目的地はもう目の前に広がっていたからだ。
己の第二の住まいでもある、"選手の養成場"が。

「…見えてきたよ。あそこが、私が生涯を賭けて作り上げた養成場…今日から君が暮らすことになる場所だ。」

示された先に、灰白色の石造りである、まるで城のように大きな建物がそびえ立っていた。
周りを一面の新緑(みどり)で囲まれ、 更にその外側を赤褐色の煉瓦造りの壁が大きく取り囲んでいる。
この敷地全てが"彼等"の為に用意されたものなのだ。

「…最終的に誰の補佐者(サポーター)になるかは分からないが、君が此処で成し遂げなければならない事は"一つ"だ。」
「…はい。」
「分からない事があれば、他の補佐者(サポーター)に聞けばいい。
 最終的に誰の担当になるのかは追々の話になってくるが、やることは差ほど変わらないからね。」

車がゆっくりと速度(スピード)を落とし、やがて大きな鉄格子のような門の前で止まる。
来客が"主人の車"だと識別した探査機(センサー)は、出迎える為にその扉を開いた。


少女は男と共に行く。
彼の為に、彼が手塩にかけて育て上げている"彼等"の為に。
少女には此処で暮らす為に、その藍い瞳に似合ったかの宝石の名が後に付けられる事になる。

名は、"サファイア"。

並木を抜けた漆黒の車の扉から出てきた瞬間、亜麻色の髪がふわりと揺れた。

兵共ガ集ウ、彼ノ地に聳エルコノ楼閣デ

私ノ運命ヲ定メル、開幕ノ鐘ノ音ガ鳴リ響イタ

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いよいよルサパラレル第三弾、主人と補佐者モノが形となってやってきました
さり気に題名考えるのに久々に悩みました(苦笑)結構凝ると難しいものです
多少修正入ってはいますが、基本は多分再掲載の形になるかと思われます
…まぁ1年近く前の掲載なので誰がそんな事細かに覚えてるんだよっていう時限ですがww