Stubbornly Mind - 3

確かに、そこには人がいた。
まず最初に目に付いたのは、黒い帯状の物の付いた筒型の白い帽子。
頭髪ではないことは明らかなのだが、彼が思った以上に白磁の肌をしていた為か銀髪のようにも見えた。
そして何より一番注意を惹くのは、鮮やかな紅色の瞳。
間違いない、父親であるセンリと同じ色だ。
そんな思案を巡らせながら注意深く相手を観察していると、不意に視線がかちあってしまった。
相手は自分の部屋に見知らぬ人物がいたからであろう、一瞬目を見開かせ、 そして何かを思い出したかのように思い当たったとでもいうような顔付きになる。
徐に開かれた唇から奏でられた声音は思った以上に低く響き渡った。

「………ふぅ〜ん、今度はキミか。」

その響きに嫌味ったらしい"何か"を感じ取った少女は顔を大きくしかめた。
言外に『またなの?勘弁してよ。』、そんな事を含んだような、いかにもウザったいという配いしか受けとれない。
彼にとっては補佐者(サポーター)の変更なぞ日常茶飯事の事としか捕らえてはいないのだろう。
この少女に対しても差ほど変わった印象など捕らえてないようだ。

亜麻色の少女は、密かに拳を握り締めた。
彼との"戦い"の幕は切って落とされたのだ。
攻め勝たずとも、押し切られなければ自分の勝ちだ。

「まぁいいや。コレ、そこに掛けといて。」

さっと脱ぎ去った礼服(スーツ)の上着を側にあった寝台(ベッド)の上に投げ捨て、 装飾布(ネクタイ)を緩めながら、少年は寝台の側にあるソファーに腰掛けた。
その一連の仕草は、立ち振る舞いから指先に至るまで華麗として言いようがない程軽やかだ。
まだ自分と同じ十三である少年だとは思い難い、それが少女が抱いた率直な感想であった。
とりあえず大分お疲れの様子に見えたので、此処は言われた通りにしておこう。
少女はそう思い直して、放り投げられた礼服(スーツ)を広い上げ、 クローゼットの中から空のハンガーと礼服入れ(スーツカバー)のセットを取り出し、中にそれを丹念にしまい込んだ。
その一式をまた寝台(ベッド)の上に寝かせ、残りの衣服を回収する為に少年の元へと歩み寄る。

襟元を緩めていた彼は、目線だけを彼女に向けると、至極つまらなさそうな表情(かお)をした。
そして、それは一瞬で嫌らしい笑みを湛えたものに変わる。
その驚くべき程の違いの変化を見た瞬間、背中に寒気が走り、全身に鳥肌が立った。


これから噂に聞く彼の晴れ舞台(オンステージ)が始まるのか。
全ての事実を彼の二人から聞かされた少女は、全身に走った硬直を必死に解く。
そして、彼に負けじと瞳に力を込めて見つめ返した。

「やっぱり君達は、命令されればそれに従うんだね。」
「命令って何ね?選手(マスター)に頼まれた事ばやるのは補佐者(サポーター)として当然の事とでしょ?あたしは別に何も悪い事はしてなかとよ。」
「ふ〜ん、…ボクにそんな態度取るんだ。」

温度の無い、冷めた言の葉はその場の空気を変える。
普通の人間が同じように言った所でこのような現象は起こらないであろう。
それ程、彼が発する雰囲気という物が重く冷たいものなのだ。
否、言葉だけではない。
目付き、仕草、雰囲気。
彼を形作る全てが、全ての温度を奪っていく氷のような面持ちなのだ。
怯んではいけない。
そこに飲み込まれてしまったら、自分も彼の者たちと同じ末路への道筋へと歩を進めてしまうことになる。
決して身の内の炎を絶やしてはいけない。

「そんな態度って何ね?あたしは別に普通とよ。」
「普通……ねぇ…?」

いかにもつまらない、そう言いたげな様子である少年は、ここで初めて傍らの少女と視線をはっきりと合せた。
自分にまだこのような態度を見せる者が居たのか。
無謀で無茶なその者が一体今どんな顔で自分に牙を向けているのか、そこに意識が向いたからだ。
紅い視界の中に、一人の少女が自分を見据えている姿が映る。
その姿を見て、彼女が見に覚えのない顔である事実に初めて気が付いた。

「…ん?見掛けない顔だと思ったら……もしかして、今日入ってきたっていう新入りはキミの事かい?」
「あっ…そっそうとよ!けど、今日一日で仕事の内容は一通り覚えたったい。やから、何の問題もなかとね。」

初めてだから何だというのだ。
要は与えられた仕事をこなせるかこなせないか、ただそれだけではないか。
自分に否はない、いやあるはずがない。
厳然たる態度で少女はその藍の瞳に力を漲らせる。
しかし、少年の表情は更に不吉の念を起こすような不気味なものに変わっていくばかりだった。
目を細め、口許を歪めさせて言葉を吐き散らしていく。

「…へぇ、ついに来たばっかりで右も左も分からないような新人にまで僕を押し付けるようになったんだ。
 よっぽど人手が足りなくなったのか、それとも僕が手に負えなくなったからその腹癒せなのか…父さん(あのおとこ)も嫌な事をしてくれる。」

一瞬で笑みが消え、まるで怒りを押さえているかのような鋭い視線を前方に向ける。
勿論その先には何もありはしない、ただ部屋の明かりで白くてら光りする壁があるだけだ。
直接見られた訳でもない、だのに悪寒で無性に身震いを起こしたくなった。
喉の奥で竦みそうになっていた声を、必死で張り上げる。

「ちょっ…あんた、自分の父ちゃんやろ!?なしてそげん言い方しか出来んとね!!全部あんたの事を心配して…っ!!」
「…五月蠅いなぁ!!」

その時だった。
彼がいきなり大声を上げて立ち上がったかと思った時、視界が急にぐるりと回転する。
次の瞬間、少女は寝台の上で己の四肢が組み敷かれていた事に気が付いた。
視線の先には、紅い宝玉のような瞳がギラギラと輝いている。

咄嗟の出来事で、何が何だか分からなくなった。
ただ言える事は、彼が怒りの矛先を自分に向けているという事だけ。
鮮血が渦巻くように揺らめいている紅い瞳が、異様に怖い。
背筋が凍ってしまい、組み敷かれている云々以前に身動きが取れなかった。
乏しい明かりが生み出す薄暗がりの空間に、しばしの静寂が走る。

「…何も知らないくせに、偉そうにごたごた言わないでくれない?本気で腹が立つから。」

少年の顔にはもはや表情というものがなかった。
少女を組み敷いているにも関わらず微動だにしない様は、逆に言い知れない恐怖を起こさせる。
押し付けられている腕に込められた力の強さに舌を巻く。
それでも少女は負けじと声を張り上げた。

「センリさんはあんたの事心配しとっと。何があったかは知らんけど、そげな事ば言わんで!」
「キミに何が分かるのさ。僕らの事なんか何も知らないくせに…」
「子供の事ば思わん親なんていないとね!ぎくしゃくするんはあんたにもその一因があるっち!!
 …それに、今あんたが怒っとるんはあたしに対してなんじゃなか?!わざわざ父親に怒りの矛先ば向けんでも…」
「そうだね、確かにボクは今キミに対して怒ってるんだろうね。でも、そんな事は正直どうでもいいんだよ。」

急に冷めた口調で、少年は言葉を切った。
勢いを殺がれた亜麻色の少女は、自身に降り懸かってきた恐怖をひしと感じて身を竦ませた。
その視線が、妙に痛い。

「気に入らないんだよね、何もかも。大人達の私利私欲に満ちた汚れた姿を見るのも、知らないでいいような社会の裏側に翻弄されるのも。
 外の世界がこんな風なのに、帰ってきても良い顔してりゃあ何もかもやり過ごせるって思ってるような(やつ)ばっかりで…
 父さんも父さんさ。ここぞという時には何でもボクに押し付けてきて、そのクセ僕に対しては余談なんて許しやしない。寝る暇すらない時だってあるよ。
 …この状況でどうやってボクに安息を求めろっていうんだい?キミなんかに一体、ボクの何が分かるっていうんだよ!!」

怒りの衝動に任せ、少年は一思いとばかりに少女の衣服を引き裂いた。
ボタンが弾け飛び、埃という名の砂塵が舞う。
大きな音を立て、意外にもあっさりと形を失ってしまった衣装に、少女は呆気に取られてしまう。


自分が此処の主だというだけで、多くの者は己との間に隔りを作る。
それだけではない。
何処から流れたのか、ボクに逆らえば此処から追い出されてしまう。
酷い場合は言い知れないような罰則が与えられてしまう。
そんな根も葉もない噂が一人歩きし始めて、 いつの間にかボクに逆らうどころか、 補佐者(サポーター)として間違いを諭してくれる者など殆ど居なくなってしまった。
ただボクに気に入られんが為に、どんな行為でも強いられれば堪える、または積極的に求めるかのどちらかだ。
誰も"本当のボク"なんて見やしない。

「…どうせ、キミも同じなんだろ!?何も知らないくせに…人に頼ってでしか生きていけないくせに…っ!!」

身動ぎして反抗しようとした少女の四肢を更に強く押し付け、喉元に手を掛けた。
一瞬殺がれた呼吸により、少女はウッと唸りを上げる。
サファイアは普通の女子に比べれば幾分力はあるものの、 此処で頂上(トップ)の座を誇る実力の持ち主であるこの少年の前では無に近いものであった。

どうすれば、彼のこの衝動を止められるのか。
どうすれば、我を失い始めた彼に声を届かせる事が出来るのだろうか。
白濁しそうな意識の中、必死に思考を巡らせる。

「…いらないんだよ。服従の意識も同情も…もう何もかもうんざりなんだ…っ!!」

力任せに、更に衣服を引き契った。
胸元から足にかけてまで、浮き上がるような灯火の中、少女の肢体が淫らな姿に曝される。


苦渋に満ちた顔から発される怒りの嘆き。
今彼が求めているのは、救いの手などではない。
ただ有りのままを受け入れてくれる"理解者"なのだ。
傍からみれば、彼は狂喜に狂った獣のようにしか見えないのだろう。
しかし、少女には分かっていた。
彼が己の私欲で求めているのではない、ただ"否定"して欲しいが為に性の衝動に狩られているのだと。
だが、此処まで怒りに狂って我を見失っている彼に対して、普通に声を上げただけでは返って逆効果であろう。
恐らく、今まで何人もの女子が同じ方法で逃れようとし、結局逃げられなかったはずなのだから。

イエローとクリスから聞いた噂だけの話でも、彼に犯された被害者は十人を超えている。
それは此処を辞めていった人数だけだ。
まだ己の意思を通して留まっている者を入れれば、それ以上になる。
しかし、彼の怒りと悲しみの衝動を沈めなければ憂いの声すらも届かない。
何とか彼の猛った気を乱さなければ…っ!!
少女が取った行動は意外なものであった。

誰モ気付イテアゲラレナカッタノダロウカ

彼ノ本当ノ姿(シンジツ)

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今回の話は本当に嫌なくらいルビが多いな(笑)あっルビーじゃなくてルビね(いやいやいや)
いくらそれが僕の特権とはいえ、ちょっと今回は多すぎるなと感じる程に多様しすぎてます(^^;)
まぁ主体の選手と補佐者及び主人で常にルビをふらないといかん設定にしたのがそもそもまずかった(超絶今更)
そして内容が過激にぶっ飛びすぎてついに15禁のレッテルを最初に貼らないといかんという事態がね(苦笑)