|
森の中を颯爽と二つの姿が駆けて行く。
その傍らに小さな影をいくつも伴っているのは、まだ十代半ばを過ぎたかそうでないかの少年少女であった。 先程二人がいた地点から直線距離でおよそ八百m、 だが、その間には川や岩壁や深い森林地帯が行く手を阻んでいたため、かなり遠回りをしたのもまた確かである。 しかし、この険しく長い道程を全力疾走してきたにも関わらず、彼らは息一つ乱していなかった。 勿論それは、少年は自身の魔力を使ってその身体の能力を高めることによって、 そして少女は日頃から鍛え上げた自身の卓越した身体能力によって耐え得たのだが。 先導していた少年が物影に隠れるように身を反らし、さっとその場に伏せた。 後ろを走っていた少女もそれに習い、少年とは反対側の茂みに身を隠す。 その視線の先には、それぞれの肩に身の丈が長い銃器をかけている男が三人いた。 このご時世にしては珍しくその身体は肥えていて、衣服がピンと張り詰めている。 狩猟時に身に纏う装束というのはどれもそのようなものであるのだが、 彼らが着ると本来の意味を違えているようにも感じる。 いや、実際そうなのであろう。 現に今彼らは至極楽しそうな面持ちで小さな生き物を追い回し、 そしてその銃口を"彼女ら"に向けているのだ。 彼らは間違いなく、この一連の行為を楽しんでいる。 「ふんっ、マッスグマとジグザグマの親子か。大きさも手頃で、何より毛並みがいい。こりゃあ高値で売れるな。」 「待って下さいよ、ジンギさん。こいつらは生きたままの方がいいですって。」 「ポチエナは強暴ですから扱い難いけんど、こいつらは大人しいかんな。家庭用の飼育動物 「…それもそうだな。」 男たちは互いにほくそ笑んで、目の前で震えている二匹を嫌らしい目で見下ろしている。 その一部始終を見ていた二人は嫌悪の念を抱かずにはいられなかった。 「…何て酷いことを。」 「あいつらーっ!もう許さんったい!!」 怒り猛った少女は大きく身震いするとスッと立ち上がった。 拳は強く握り締められ、わなわなと震えている。 少女のいきなりの行動に、少年は驚いて目を見開く。 「ちょっ…キミ!何をする気なんだ?!」 「決まってるったい!あいつらを懲らしめるけん!」 「待て!相手は武器を持ってるんだぞ?!やみくもに突っ込んだら…」 「うおおぉぉぉおおお!!」 盛大な雄叫びを上げて、少女はお供を連れて勢いよく飛び出していってしまった。 間違いなく真っ正面からぶつかる気だ。 その行動に激しく驚きつつも、少年は何処かでそんな事態が起こるのではないかという予感がしていた。 そう、全てはこの出会いから始まっていたのだ。 「Amazing!!何て無茶をするんだよあの娘は!!」 ここは自分が事を治めるしかないじゃないか! 少年は軽く舌打ちをした後、相棒 その間にも少女は勢いもそのまま、男達の前に悠然と立ち塞がっていた。 男達は、いきなり視界に現れた見知らぬ少女の姿を認めると激しく驚きの表情を見せる。 「なっ…何だお前は!!」 「それはこっちのセリフったい!森で密猟しとったんはあんたたちやとね!ここで会ったが100年目。覚悟するったいよ!!」 「ふんっ小癪な、小娘。武器も持たないお前がワシらに逆らおうだなんて100年早いわ。」 驚きはしたものの、やはり男たちは動じなかった。 自分達には人など簡単に往なせる術があるのだから、当然といえば当然であった。 だが、武器を向けられても少女は一瞬たりとも怯まない。 男たちはそれに少したじろいだが、すぐに銃器を構えなおす。 「…ふん!撃てるもんやったら撃ってみぃよ!あたしにはそんな武器ば通用せんかんね!」 「言ったな?小娘。悪いが、煩いハエは始末しておかねぇといけねぇからな。」 男の一人が少女に向かって引き金を引こうとしたまさにその時、少女は地を強く蹴って空中へと跳ね上がった。 その為、放たれた銃弾は激しい激音を纏ったまま地へめり込み、白煙をあげる。 「何っ!?」 「構うな!撃ち殺せ!」 別の男が空に身を置いている彼女に銃口を向け、そして発砲した。 少女は既に自分が読みきっていた行動を取った男を見て、ニタリと笑う。 「効かなかよ!」 突如轟いたのは放たれた銃弾の爆発音と鋼鉄を殴りつけたような響き。 そして、寸断されたような鈍い音と砂煙が舞った。 軌道上に突如現れた鋼の魔獣ココドラによって、弾は跳弾されて男の足元を掠めて地に突き刺さったのだ。 「そんなんじゃどららの身体に傷一つ付けられんとよ!」 更に少女は相手の懐に踏み込んでいき、男の眼前にまで一気に近付く。 そしてさっとしゃがんで相手の視界から姿を消し、地に両手を付いて下から強力な蹴りを食らわした。 「ぐぼぉぁあああ!!」 蹴り上げられた男は、そのまま綺麗な弧を描いて吹っ飛ぶ。 少女は身軽な身体をさっと捻り、直ぐに体制を整えて構えた。 背後から自分を狙っている"存在"に気が付いていたからだ。 「…にゃろっ!クオンをよくもっ!!」 更に別の小柄な体格の男が、すかさず少女に狙いを定める。 その姿を横目で確認した少女は、直ぐに合図を送る。 「…ちゃもっ!」 名前を呼ばれた瞬間、草むらから橙色の魔獣が飛び出してきて、その嘴から明るい炎を吐いた。 橙色の揺らぎが、男の手元を覆い隠す。 「ぅあちっ!」 男が熱さに耐え兼ねて手放した銃器に、獣は更に火を吹き掛ける。 そして内部に仕込まれていた火薬に引火し、大きな爆発音を響かせてそれは破壊された。 弾けとんだ鉄の産物は地を撥ねるように飛び散り、半ば形を残していた銃器からは黒煙が上がっていた。 自分の立てた作戦が見事決まった事に、少女は喜びを感じずには居られなかった。 「やった…っ!よくやったったい!ちゃも!」 「何がよくやっただい?お嬢ちゃん。」 「…っ!」 カチャリ。 耳元で聞こえた、硬い金属のこすれる様な音。 少女が気を取られている瞬間に、残りの一人である大柄な男が背後に回り込んでいたのだ。 少女の背中に、嫌な汗が流れた。 今自分の首元にはあの銀色の口が牙を剥いている。 一番大柄な身体をしていた為動きが鈍いとばっかり思って油断していたが、 彼は思ったよりも俊敏で一番冷静であったようだ。 喜びのあまり、一瞬とはいえ注意が散漫になってしまった事を今更ながら後悔した。 「あっ…」 「よくもワシの仲間をやりよったな。」 怪我だけではすまさねぇぜ、嬢ちゃん。 男はにたりと表情を崩し、指を引き金にかける。 耳元で聞こえたその硬い音を聞いた少女は一瞬で身体が強張り、足が地に張り付いてしまった。 今動かなければ殺されてしまうことは分かっているのに…っ! カラダガウゴカナイ 「ら〜っ!!」 「ちゃも〜!!」 彼女の相棒 もう駄目だ、と少女が目を固く閉ざした、正にその時だった。 少女の視界に蒼い姿が飛び込んできた。 「ズッ!」 男の顔に向かって蒼色の獣が口から大量の水を吹き出した。 その予想外の砲撃に男がたじろいだ瞬間、灰色の獣が草むらから飛び出して、横から男に体当たりを食らわせる。 そして桃色の獣が反対方向から少女に向かって体当たりを食らわせ、男との距離を半ば無理矢理に開かせた。 足が張り付いていた彼女はその衝撃に耐え切れずに、そのまま前方へと倒れ込む。 が、その身体が地に着くことはなかった。 「大丈夫?」 そこにいたのは先程まで自分と一緒にいた少年だった。 彼がよろけた彼女の身体を支えてくれたのだ。 少女は自分の身に起こった出来事を飲み込めずに、呆けた表情で少年を見遣る。 「あっ…あんた…」 「ったく、何も考えずに飛び出すからだよ。ボクがいなかったらどうするつもりだったんだい?」 呆れたように、だがそれでいて柔らかく少女に諭す。 それは彼なりの優しさであり、少女の無事を確認して安堵したからでもあった。 灰色の獣に体当たりを食らわされた大男へと、ようやく体制を立て直した二人の男が慌てて近寄っていく。 「だっ大丈夫ですか!ジンギさん!」 「…っ、あぁ。くそっこのガキ共が、よくもやってくれたな。」 「何の事です?」 男の怒りの言葉に、少年は嘲笑のそれで答える。 武器を向けられているにも関わらず、脅えるどころか怯みすらしないその姿に男達の怒りは更に上り詰めていく。 だが、少年にはそんなものは通用しなかった。 口許は笑みを形作っているのに、瞳 口調をそのままに、少年は言葉を紡ぐ。 「どんな理由があっても人に銃を向けてはいけないはずですよ? ボクから言わせれば、あなたたちはそんな簡単な事も分からなくなってしまった人間のクズだ。それに…」 彼が瞳を閉じたその瞬間、笑みを貼付けていたその顔からふっと表情が消えた。 「あなたたちがこの森でしていたことは人として最低の行為です。」 次に現れたのは、怒りを押さえようとしている鋭い目付きの形相だった。 紅い瞳はまるで焔が燃えたぎっているかのように揺らめいている。 彼のその一瞬での変貌に、脅していた男達の方が逆に恐怖を覚えてしまったほどだ。 その時、少女に一番最初に蹴り飛ばされたクオンという男がはっと気付いたように叫んだ。 「じっ…ジンギさん!あのガキ紅目だ…っ!間違いない…あいつ魔力持ちですよ!!」 「…魔力持ち?」 「もう遅いですよ。」 ここはもう既にボクの領域 少年がそう言い放って手を翳した瞬間、地に光が迸る。 これは彼の魔力が行き届いていることを示す紋様、魔法陣と呼ばれるものだ。 勿論、一般人が目にすることは殆どない為、男達にはそれが何なのか分からなかったが、 それが自分達にとつて"良くないモノ"であるということは瞬時に察知していた。 クオンがすかさず攻撃をしようと自分の武器が落ちている所を見ると、既に桃色の獣が手中に納め、 その脇で鋼の獣がそれを貧っていた。 「あっ!!こっこいつら!いつの間に!!」 炎によって銃器を爆破されてしまった男が腰の鞄にしまってあった刃物 「痛っ!こっこら!離しやがれっ…!!」 動けば動くほど、その鋭い牙は食い込んでいく。 その壮絶な痛みで、男の顔が大きく歪む。 「サイ!今助け…っ!ってあっ…こらっ!止めろっ!!」 いつの間にか桃色の獣が男の背に乗っていて、先っぽの太くなったその尾で男の首を締め付けていた。 そのかわいらしい見た目からは想像も出来ないほどの強い力だったので、男がどんなにあがいても全く歯が立たない。 「クオン!サイ!…っきしょう!覚悟しやがれ小僧!!」 ジンギが素早く銃器を構えて掛けた指を引こうとした。 したのだが、何故か指が動かない。 そして"それ"が全身に及んでいる事に男が気が付いた頃には、既に勝敗は決していた。 「気付きましたか?」 身動きが取れない男に向かって少年は温度のない声をかける。 「RURUがあなたに金縛りをかけてるんです。人間の力ではそれから逃れることは出来ませんよ。」 少年の傍らには、先程までいなかったはずの緑の魔獣が白く小さな両手を上げて魔力を使っていた。 更に魔法陣は強く光を放ち始め、その輝きが反射された瞳はギラギラと燃えたぎっている。 今正に大きな力が働こうとしているのだという事を悟り始めた男達は畏怖の念を覚え、恐怖に震えた。 「さぁ、そろそろ終わりにしましょうか。」 少年はゆっくりと掌を前へと差し出す。 とそこから急に光が漏れ出した。 それは間違いなく彼の瞳と同じ色をした焔。 その塊が彼から離れようとした、正にその時だ。 発されようとした火球が突然手の内で爆発した。 「…っ!」 地を走っていた光が突然消え失せ、辺りに静寂が訪れた。 少年の膝がガクリと折れ、地に伏せられた。 一瞬デモ忘レタカッタノカモシレナイ 自分ニ課セラレタ"逃レラレナイ運命"カラ… back next close
最初の日記の連載を読んだ方は、恐らく此処で行った大変更に大方が気づいていると思います
えぇえぇ、最初から分かってたんですよ? オタチとオオタチがホウエンに居ないってことくらい!(爆) しかしスクロール増えたな…会話のせいで改行が増えただけだと信じたい… でも多分また僕の悪いクセが始まったのだと思いますよ(苦笑)結構書き直した;; |