純白聖夜

緩やかに舞い降りる白い光。
宵も更けて辺りは真の闇に閉ざされていた。
所々に灯る穏やかな明かりに照らされた森林の中の道に、ある二つの姿があった。
先を行く亜麻色の少女の足取りは、軽い。

「何してると、早くするったい!!」
「そんなに急がなくても大丈夫だって!」

今夜は降り止むことは無いって、ニュースで言ってたんだから。
そう言っても、はしゃいでいる少女の耳には届かなかった。
嬉しそうに跳ね回るその後ろ姿を見た少年は密かに苦笑し、息を漏らした。




純白聖夜



西の地域に位置するこの地方では、至極珍しい光景が広がっていた。
一面真っ白な雪景色。
どこを見渡しても他の色は見当たらないと言っていい程、その無の象徴の色に全てが覆い尽くされていた。
何を間違ったのか、天の神様は普段降るはずの無い冬の宝をこの大地に注いでくれた。
しかし、西の土地柄やはり気温が高い為か、降り積もるどれもが湿り気を帯びた大きな粒ばかり。
ずっしりと重みを持ったそれがただただ山のように積もっていくばかりであった。
そして、この淡い光を纏った物たちが降りやんでしまったら、たちまちその姿を大地に透かしてしまうのだろう。
一瞬の、儚い夢。
だが、誰もがその様に見取れ、うっとりしてしまう。
僕等もそんな人々の仲間であることはいうまでもない。
踏みしめた足元から聞こえる鈍い音が、静寂の中に飲まれていく。


やがて、二人は目的地にたどり着いた。
ホウエンで有数のクリスマススポットと言われるヒワマキシティだ。
木々に囲まれた緑の土地も一面真っ白で、その隙間からは灯された電色がちらちら光っている。
赤青緑と様々な光りを受けた雪の結晶が、更にその様を美しくさせていた。
その見惚れるようなうっそうと茂る並木道の中を、傍らの光りに見向きもせずに突き進んでいく二つの影。
幻想的な灯が灯る空間を潜り抜け、遂にそこにたどり着いた。


噂に聞いていたよりも、それは素晴らしいものだった。
開けた大地にそびえる一本の大木。
雪化粧とイルミネーションで着飾ったその姿は、この上ない美しさを放っていた。
全てを飲み込んでしまいような夜の闇の中に浮かび上がる様は正に幻想的で、もたげた首が時間を忘れるかのように静止してしまう。
そこだげ別世界が広がっているかのような感覚に囚われてしまうのだ。
ぽかんと開けた口元からは、自然と白い息が漏れていた。

「凄いね…こんなに綺麗だとは思わなかった。」
「あたしもとよ。……大きか木やとは知っとったけど、こんなに豪華やとは思わんかたと。」

年に一度、この時期になるとこの街一体にきらびやかな装飾がなされる。
遠くの国の行事であったはずの物であるが、この国ではその本来の意味合いなど殆ど知られてはいないだろう。
年末前の恋人たちの日と称されるこの日にただ便乗して祝っているだけだ。
しかし、そんな策略にまんまとはまっている自分たちも、また流されているだけに違いないのだが。
だが、それも悪くないなと思ってしまう程、造り上げられたこの世界は美しいものだった。
時が経つのも忘れて、僕らはごったがえすような大勢の人混みの中たたずんでいた。

「…また来年も降るとかね…?」
「さあね……今年はたまたま降っただけだろうし、来年は一度も降らないかもしれないよ?」
「…夢の無かこと言わんで、だからあんたはいけんと。」
「悪かったね、これでもボクは現実主義者(リアリスト)なんだよ。」
「少しくらい夢を持ったらどうとね?そんなんじゃ人生楽しくなかとよ。」
「僕にだって夢くらいあるさ。失礼な事言わないでよ。」
「じゃあ…あんたの夢って何と?言うてみいとね。」
「次のコンテストで優勝するでしょ?ジムリーダー試験で合格を取る事でしょ?それから…」
「ホントあんたは現実的過ぎるとね。それ何度も聞いてるち。」

いい加減もっと別な言葉を並べられないのだろうか。
少女は期待していた言葉が紡がれなかった口を恨めしく思う。
そこに必要以上の落胆があった事に気づきはしなかったのだが。
目線を逸し、うんざりだという素振りを見せた少女の横顔を横目で見つつ、少年はふっと微笑む。

「人の言うことは最後まで聞くことだよ。聞かずにあれこれいうのはよくないキミのクセだね。」
「…何ね?まだ他に何かあると?」

怒り混じりにねめつけるような言動で答える少女に構わず、少年はさも当り前のようにその言葉を口にする。
ざわざわとごった返す人混みの中に、放たれる言の葉は消えていく。

「また来年も…」
「……?」
「…キミとここに来たいなって。」

乏しいはずの光りの中に輝く笑顔に、少女は胸を高鳴らせた。
今聞こえた言葉は本当なのだろうか。

「えっ……?いっ、今何って言ったと?!////」
「何度も聞くの飽きたんでしょ?一度しか言わないよvv」

そう言って、少年は人混みの中眼前に開けた空間に飛び出していく。
足取りは先程のものよりも軽く、あっという間に距離を離された。
慌てた少女も、その後を追うように駆け出していく。

「あっ…ずるかとね!なしてあんたはそうやって意地悪すると!!」
「そんなの、キミの反応が面白いからに決まってるだろ?」
「なっ…あっこら、待つったい!!待てー!!!」
「悔しかったら捕まえてみなよ。ほーら、鬼さんこちら、手のなる方へ〜♪」
「く〜〜〜っ!!もう許さんったい!!待てルビー!!!」

雪舞う人混みの中を、軽快につっきっていく二つの影。
足場の悪さなど物ともせずに、華麗に軽やかに舞い踊る。
しばらくそんな追いかけっこが続いた後、人垣を抜けた所で身軽な少女が少年の元に追い付いた。
時宜を逃してなるものかと、何のためらいも無く飛びついていく。

「捕まえたったい!!」
「おわっ!!!」

勢いにまかせて少女が飛びかかった為、軟らかくて足場の悪い所に立っていた少年は体勢を崩してその場で白雪の中に倒れ込んだ。
白い砂塵が舞い上がる。
背に一瞬の衝撃を受けた後、すぐに身体を起こす。
そこには、逃しまいと己の腰にすがり付いた少女の姿があった。
思わず身体を捻って背中から落ちたのは、怪我をしないように受身を取った為。
しかし、少女は何の考えもなく真正面から倒れ込んだ為、二人は向かい合うように倒れ込んでいた。

「……随分と積極的だねキミ。」
「んなっ!!ちっ違うと!!こっこれは事故ったいよ!!!////」

くすっと笑いを漏らした少年の瞳に気づいた少女は慌てたように叫ぶ。
顔一面真っ赤にしながら否定し、慌ててそこから離れようとするが、腕の裾が少年の下敷になっているため、なかなか立ち上がれない。
そうこうしている間に、そのもがく腕を少年の手が掴んだ。
力強く引っ張られ、起こそうとしていた身体がまた前につんのめる。
一度腹部に埋められた亜麻色の頭が、少年の胸元へと落ちた。
瞬時に何が起こったのか理解出来ない少女の頭は、周りの景色のように真っ白に染まる。

「なっ…なななななっ…何するとね?!!!////」
「あれ?こうして欲しいんじゃなかったの?」
「そっそげなこと言っとらんち!!!」
「でも、そうして欲しかったんでしょ?」

何もかもを見透かしたような素振りで微笑む少年の吐息を、すぐ側で感じた。
凍り付いたかのように固まってしまった身体には、対照的な熱がとめどなく溢れてくる。
放心して動くことを忘れた少女の身体を、ルビーは優しく抱きしめた。

「ホントキミって素直じゃないね。」
「あっ…あんたに言われたくなかとよ///」
「失礼だな、ボクはちょっとひねくれてるだけだよ。」
「…どこがちょっととね。」
「何か言った、サファイア?」
「別に…」

憎まれ口を叩けば後でどんなしっぺ返しが返って来るか分からないので、 そこはおとなしく引き下がる方が良いということが、既に彼女の中に定着されていた。
しかし、結局そんなことはどうでもよくなってしまうのだ。
彼の胸中にいられるだけで、これ以上の幸せなどないのだから。
それを感じた途端に訪れた不安が頭を過ぎる。

「……来年も…」
「…?」
「本当に…来年も一緒に居てくれると?」

声が震えているのは寒いからではないだろう。
その瞳が訴えていた。
不安げに見上げて来るその姿が、この上なく愛おしく感じるのは錯覚などではない。
冷えきったその額に自分のそれを押し当てて、つぶやくように言葉を吐き出す。

「キミがそれを望むなら、ね。」

閉じられた紅い瞳につられるかのように、藍い瞳も閉じられた。
互いの温もりを感じるように、そっと。
けれど、しっかりと力強く。


自身の身体に振り積もっていく白の輝きを全く気にすること無く、二つの影は長くそこにあった。
遠く輝くぼやけた金色の光りが、今宵の静けさを幻想的にさせていく。
やがて、宵がふけった頃に、雪が止んだ。
名残惜しむかのように時を掛けて、大地に消えていった。




fin. a



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若干微妙な修正を入れたんですが、ホントあって無いような微妙なものですね(苦笑)
まぁいいや、形になればそれで…(おい)
upが遅れましたが、まぁよくありそうなクリスマスネタです
唯一の救いは原作設定を上手く利用出来たことでしょうか?(笑)