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「さあさあ、どんどん食べちゃって。今日はご馳走ですからね。」
忙しい年末行事がいよいよ最終段階に入った。 今年最後を惜しむかのように様々な料理が目の前に並べられていて、見ているだけでかなり眩しい。 皆でいつもより一回りも二回りも豪華な食事を囲む、家族団欒の風景がそこに存在する。 「うわぁ、すごかねぇ!」 「こりゃまた豪勢ですなあ奥さん。」 「…ていうか作りすぎじゃない?ママ?」 「いいのいいの。こんだけ居ればこれくらいペロっと平らげちゃうわよ。ねっあなた。」 「…あぁ。」 「さっどんどん食べちゃって。今日は今年最後の晩餐ですからね。オダマキさんも遠慮なさらずに。」 「あっああ。じゃあお言葉に甘えていただくとするか。」 「うん!食べるったい!」 ボクの家はどう考えても家族団欒って感じじゃない気がするけどね。 初夢居間と繋がっている、食卓から少し外れた個室の一角。 そこに白い帽子を被った少年、ルビーがお得意の裁縫をしながらくつろいでいた。 その傍らには、彼の自慢の手持ちポケモンであるエネコロロのCOCOが毛づくろいをしながら寝転んでいる。 既に食事は一段落していて、今は大人たちの雑談タイムとなっていた。 すると、その輪の中に身を置いていたあの子がこちらの方にやってきた。 「あんたっ、そんなとこにおらんとこっちに来たらどない?」 「うるさいなぁ、良いじゃないか。どうせ皆でお酒飲んで騒いでるだけなんだから。」 「それじゃあたしがつまらんたい。」 大人たちの団欒の中に子供がのこのこ入っていけるはずがない。 彼女が言っている事は、自分一人ではあの場に居場所を確立することが出来ないのだということ。 それを自分に訴えかけているようだ。 はっきりいってそんなことに微塵も興味が無いのだが。 「無理して一緒にいること無いだろ?特に話すことなんて無いんだし。」 「う〜…」 亜麻色の髪を持つ少女、サファイアは困ったように顔を伏せながら抗議の声をあげた。 その光景は駄々をこねている子供に似ている。 思わず吹き出してしまいそうなくらい、彼女にしては可愛らしい態度だった。 しょうがないなぁと溜息をつきながら少年は顔ごとそちらに視線を向けた。 「…だったらこっちに居ればいいじゃないか。 テレビだってあるし、トランプやボードゲームだって出してくれば遊べるし。NANAやCOCOだっているしね。」 そう言って傍らにいるパートナーの頭を撫でる。 この間まで続けていた旅の途中で奇跡的な進化を遂げたこの子は、スラリとした肢体に艶やかな毛並みを持つ愛くるしい存在となっていた。 彼女も何だかんだ言って可愛いポケモンが好きなのだから、大人たちに無理に付き合うより退屈などしないはずだ。 そう言うと目の前の少女は少し考え直したという風な顔つきをして、こくんと頷いた。 そのままボクの座っているソファーの前の床にすとんと腰を下ろす。 彼女が座ったのを確認したCOCOはその膝元へと体を滑らせて、嬉しそうに頬を寄せた。 その光景が五年前のあの頃の姿に重なって、何だか複雑な気持ちになってしまった。 「…あんたも好いとぉやね。まだコンテスト続ける気ったいか?」 「……まあね。」 「バトルはどうするったい?センリさんの後を継ぐんじゃなかったとか?」 「それとこれとは話が別。」 両方続けるつもりだよ。 ボクはそう言って手元の作業を止めた。 そろそろ時間だと思ったからだ。 「…どしたと?今日はもうやめるったいか?」 「別に急ぎじゃないからね。そろそろ頃合だし。」 「……ころあい?」 少女は分からないという感じで首を傾げる。 彼の動向を目で追ってみるものの、窓の外を見ながら動かなくなってしまったので何をしようとしているのか一向に分からない。 「キミもおいでよ。折角の夜なんだしさ。」 そういうと彼は二階の自分の部屋へと向かっていった。 慌ててその後を彼のパートナーと共に追いかける。 そんなことはお構いなしで、少年はさっと扉を開けてそのままベランダまで向かうとそのガラス扉を開け、外に広がる闇の中へと消えていった。 少女もその後に足早に続いた。 家の中が明るすぎて外に出た瞬間に視界が真っ暗になる。 その一瞬の目眩ましの後に、少女は見た。 目の前に堂々とその姿を掲げている黄金色に輝く丸い光を。 いつも空に浮かんでいるものと比べて、その大きさは遥かに大きく見えた。 「すごか…これが月やろか?」 「うん、今日は満月なんだ。」 少し誇らしげに、少年はその紅い瞳に黄金のそれを映す。 少女の藍い瞳にも同じようにその姿が映りこんでいた。 「なしてこぎゃんに大きか?それにいつも見るよりすごく綺麗に見えるったい。」 「今九時くらいだろ?だから丁度このベランダからいい場所に見えるんだ。」 少し東に傾いていて、周辺の家よりも少し小高い所にあるこの家からは、この時刻に丁度いい高さでしかも間近に見ることが出来るのだ。 偶然とはいえ、この地形が生み出した産物だ。 彼はこの家に来てすぐに旅立ったというのに、ずっとこの町で暮らしてきた自分よりもずっと詳しかったのだ。 「それに、今は冬だからね。空気が他の季節よりも澄んでいるから光が綺麗に見えるんだよ。」 beautifulだよね。 そういって月のせいで群青色に染まっている夜空をじっと見つめていた。 その片隅に小さく瞬いている星の光も、月があるにもかかわらずとても多く見えて幻想的だった。 これが、今年最後の夜空なのだ。 そう思うと何だか無性に刹那さがこみ上げてきた。 「もうすぐ今年が終わるけんね。」 「そうだね。」 「色々あったとね。」 「…そうだね。」 そう、本当に色々あった。 思えばそれはボクがこのホウエンに引っ越してきた時から既に始まっていたのかもしれない。 森で初めて彼女に会って、半ば強引にだが賭けに応じて旅を続けた。 旅の中では多くの人に出会い、色々な体験をした。 世界を大きく揺るがした伝説ポケモンの騒動では、今隣に居る少女と一緒に師匠を始めとする多くのジムリーダー達と共に戦った。 あの事件以来ボクと父さんの仲も、昔のようにとはいかなかったがそれなりに戻り、コンテストへの挑戦が終了したあの日からまた猛特訓を受けている。 人とあれほど関わる事を躊躇っていたのに、今は誰かの為にと自分の力を振るうことも多くなった。 そして何より、この少女との関係がまた一つ変わった。 初めて出会った頃は同じ時間を共有した憧れの存在、次に会った時には目的を違えたライバル同士。 そして今は… 「今日はいい風がふいちょるね。きっと良く眠れるったい。」 そう言って彼女は大きく伸びをした。 随分薄着に見えるが、寒くないのだろうかと疑問に思う。 長袖シャツを二枚とセーターを着込んでいる自分とは大違いだ。 「良く寝れるって、まだ夜はこれからだろ?年越しそばとか。」 「…としこしそば?何ね、それ。」 あぁ、この子にとって年末年始はおいしい物を食べてお年玉を貰う事ぐらいしかないのだろうか。 ポケモンに関する知識では右に出る者はいないというのに、本当に日常に対するモノに対して何故これほど無頓着なのだろうか。 「年越しそばは、年が明けるその夜に食べるそばの事だよ。まんまじゃないか、そんなことも知らないのかい?」 「なっ…//しっ知らんもんは知らんったい!しょうがなかとでしょ?!」 「んじゃあれかい?初日の出とか初夢とか、その類も知らないっていうの?」 「はっ初日の出くらい知ってるったい!毎年山に登って父ちゃんと見てるけんね!」 日の出ごときに毎年山に登ってるのか、この親子。 そりゃあ年越しそばを知ってるはずがないね。 この子の知識の乏しさは父親が原因なのか… 「初夢ってのは、一年の最初に見る夢のこととでしょ?あたしは毎年何見たかなんて憶えとらんけど…」 「その通り、よく出来ました。」 軽くてを叩いて誉めてやると、彼女は頬を真っ赤に染めてボクを凝視した。 からかわれてるのが気に入らないのかな? 「じゃあさ、一富士二鷹三茄子って知ってる?」 「いちふじにた……何ねそれ?」 「初夢に見ると縁起のいい物を挙げた文句さ。富士山が一番、鷹が二番、茄子が三番目に良いって事。」 「…ふじさんとタカが良いものってことは何となく分かるったいけど、何で三番目がナスビなん?」 「さぁ?そんなことボクが知るわけないじゃないか。」 そもそも、そんなことに興味がないしね。 少年はどうでもいいという風に言葉を吐き捨て、自分の上着を律儀に持って切れくれたCOCOからそれを受け取った。 頭を撫でてやり、その行動を誉めることも忘れない。 「何ね、偉そうに言いよって。興味がなかとなら、なしてそぎゃんことば言うったい?」 「そんな古い言葉なんてボクには関係ないからさ。」 「…?どういうことったい?」 「どうって、こういう事だけど?」 そういって僕は手にしていた上着をそっと彼女の肩にかけて、その身体を包み込んだ。 そして僅かにだが自分のほうに引き寄せた。 「そんなのは昔から言われてきたただの言い伝えみたいな物だろ?それが今のボクらにそっくり当てはまる訳がないじゃないか。 現にボクはキミがこうして側にいてくれることが一番嬉しいわけだし?」 どんな夢であろうとこの先進む所で共にいることが出来るのなら、それが一番の幸せなのだから。 ボクのその一連の行為をただ呆然と見ていた彼女は言われている事を自覚してくれたのか急に真っ赤になり、顔を伏せてしまった。 まったく、こういう所は本当に可愛いんだから。 更に腕を伸ばし、背中ごと彼女を抱きすくめた。 相変わらず細い身体だが、そこからはいつも感じるほどの温もりがあまり感じられなかった。 やはりこの外気温でかなり冷え切っていたらしい。 最初は恥ずかしがって束縛から逃れようとした彼女も、少年の体温に安堵したのか次の瞬間には素直にその腕に抱かれていた。 やがて互いの吐息が近くなり、重なった。 冷たくなった身体を温めるように、優しく、力強く、愛着を与えていく。 サファイアは彼のその施しにより次第に全身の力が抜けてしまい、息が上がりきってしまった頃には既に自分の力ではまともに立てなくなっていた。 辛うじてルビーが支えてくれているので、まるで氷のようになったアスファルトの上にへたり込むことはなかった。 「ボク思うんだ。初夢に好きな人の夢を見られることが、きっと自分にとってとても縁起がいいことなんだろうって。」 だから、今夜はたっぷり可愛がってあげるね。ボクの夢を見てくれるように。 そう言った少年の顔には先ほどのやわらかいものではない、黒い笑みが浮かんでいた。 微笑んでいるのに目が笑っていない。 少女はその様子を見て、自分の頭から一気に血の気が引いていくのが分かった。 「あっいやっ…!//るっルビー!!なっ何ばしよっと?!あっこら!離すったい!!」 「イ・ヤ・だ。今日は絶対離さないよ。折角の姫始めなんだから。」 「ひめ…何ったいそれ?……あっ!!また何か変なことば考えとるとね!!やっ!離すったい!」 「絶対逃がさないよ。のこのこボクについて来たキミが悪いんだからね。」 少年は更にきつく彼女を抱き寄せ、完全に腕で自分の胸に彼女を閉じ込めた。 そしてその耳元で甘く囁く。 大丈夫、ちゃんと可愛がってあげるから。 いい子にしてよ、サファイア。 あぁ、自分はこの男のこう言う言葉に弱いんだ。 少女がそれを自覚した時には既に彼に身体を抱え上げられていた。 驚いて慌てて抵抗するものの、やはり鍛え上げた彼の力には敵う筈がなかった。 そのまま彼のやわらかいベッドの上にすとんと下ろされたが、すぐに四肢を組み敷かれてしまい、 見上げると、彼の紅い瞳が自分をじっと見つめていた。 とても力強い視線、彼の強い意志を表している鋭い目だ。 それとかち合うだけでこの心臓は跳ね上がってしまう。 「好きだよ、サファイア。」 誰よりも、君の事を。 そういって顔をその首筋に埋める。 その触れ合う場所から身体へと電撃のような衝撃が走った。 もうこの瞳からは逃げられない… fin. close
ネタは今年一富士二鷹〜への疑問から、そこへ話を持っていくのに苦労しました。
よくネタが終結してくれたものだ…今心からそう思うよ… 終盤直接表現を極力控えているにも関わらず、あまりにこの二人がラヴくなってしまったのでちょちょ〜とルビを黒くしたら… とんでもない終わりを迎えてしまった…(滝汗) ルビが黒いとどうしてもエ○に走ってしまうのか自分?! |