1.永遠。

乾いた風が辺り一面を駆け巡り、視界を覆うような細かい砂埃が大きく舞い散る。
荒野に伸びるのは一筋の漆黒の双線。
その両端どちらからも、何かがやってきそうな気配はない。
灰白色の四角い旅行カバンの上に仁王立ちになっている金髪の少年は、来るべきものがやってくる方向をじっと見つめていた。
陽射しもきつく、砂埃で視界が悪くなっていることもあり、右手で目の上に傘を作り、左手は腰に添えられている。
鮮やかな金髪は長く、長い前髪が両頬に掛かり、残りは後頭部で三つ編にされていた。
吊りあがった目は金色の睫と瞳で彩られ、端整な印象をもたらす。
ただその背丈は誰もが小さいと認める――本人は激しく否定している――小柄な体系であったので、実年齢よりは若く見られることがしばしばである。
しかし、その見た目の幼さが目立つ容姿はともかく、彼は正しく旅人であった。

と、その背後の木造の屋根のしたから一つの姿が顔を現した。
その姿は少年とは比べ物にならない程、というよりその背丈は彼のおよそ倍に及ぶのではないだろうか。
それもそのはず、その姿は人間のソレではない。
一目見たものはまず、『何だこの大きな鎧は…』と零すに違いなかった。
鋼特有の鈍色が反射する陽光もやはり鈍く、肉体の大きさからもかなり重い印象を受ける。
しかし、彼は見た目よりも俊敏で素早く、そして冷静な思考の持ち主であった。
まだ当分汽車はやって来ない、だから日陰でちゃんと今の内に休むべきだと兄に諭したのだが、当の本人はそんな事全く耳にもせず、 かれこれこ一時間ほど炎天下の元立ち尽くしていた。
そんなんだから直ぐに疲れてバテちゃうんだよ。
体格に似合わない声高な音は空洞な鎧の中を響き渡る。

「大丈夫兄さん?そのまま立ってると日射病になっちゃうよ?」
「へーきへーき、これくらいでへこたれるかよ!」
「とか何とか言っちゃって〜、足元大分ふらついてるよ?」

ほら、いい加減にしてちゃんと日陰で休む!
そう言って鎧はその大きな両腕で小柄な少年の胴体を掴み、軽々しく持ち上げる。
自分の意思とは反した行動を強いられるのだ、怒りっぽい彼でなくても、当然暴れて抵抗するものだ。
普通の人間なら、まずその身体を取り落としている。

「こっ…コラ!!降ろせよアル!!…っ!!離せって!!!」
「はいはい、暴れない暴れない。」

怒り猛る兄をなだめ賺しながら、アルと呼ばれた鎧は日陰の、先程まで自分が腰掛けていた木箱の上へと腰を落ち着かせた。
降ろされて少し落ち着いたのか暴れる事はなくなったが、その顔はいかにも不機嫌ですっという感じにムスっと頬が膨れていた。
全く、本当に世話が焼けるんだから。

「汽車でって言っても、次の街まで大分あるんだから。今からバテちゃったらこの先持たないよ?」
「……んな事言ったってよ。」

あ〜あっ、ま〜た始まったよこのバカ兄は。
弟は兄の悪いクセが始まったと大きく肩を落とした。
自分のやりたいように好き勝手やるというのがこの兄の信条みたいなもので、 それがまかり通らない時は弟の彼ですら手に負えなくなってしまうのだ。
勿論、この一連の行動が自分の為に行っているものだと分かっているからこそ、 尚更それを制そうとしているのだが。

「…大丈夫だよ。何も"永遠"に汽車が来ないって訳じゃないだろ?
 どんなに焦ったって来ないものは来ないんだからしょうがないじゃない。」

待ってればいつか来るんだから、ゆっくり待とうよ。
空洞の中から低く響き渡った声は何処か寂しげな色を纏っていた。
その言葉に込められた想いを感じ取ったのか、しかめっ面をしていた少年は逸らしていた目線を弟へと戻した。
弟にとって、"永遠"という言葉は恐怖の対象に近いものがある。
そう、二度と元には戻れないかもしれない、という恐怖が…
アルはしっかりしているが、その分とても繊細な心の持ち主だ。
自分が戻れない事よりも、失った俺の身体の方が心配だというコイツは、慈悲の塊なんじゃないかと常々思う。
止めろよアル、そんな風に考えるんじゃねぇよ。

「……そうだよな、"永遠"なんてねぇよな。」

急に明るく楽しげな口調に変わった兄の言葉を聞き、弟はふと顔を上げてその表情(かお)を見た。
先ほどの機嫌の悪さは何処へやら、寧ろずっと晴れやかな顔である。
一体全体どんな心変わりをしたのか。
しかし、次にその口から発された言葉に、弟は二の句を告げなくなってしまった。

「だから、お前のその身体も、絶対(ぜってー)元に戻してやるからな。」

ニカっと微笑んだ兄のその表情は、アルの冷え切った心の氷を溶かしてくれる。
あぁ、だから彼には叶わないんだなぁ〜なんて思いながら、表情のないはずの自分の顔がだんだん緩んでいくのを感じた。



あの日交わした二人の約束。
それは"永遠"に僕らの心に刻み込まれている。



絶対、二人で元に戻ろうな!



fin.



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何か急いで打った記憶が…(えーっ)鋼小説は久々って感じですね
コレはW−AGENT様からお借りしたお題(フリーチョイスしました)からお送りしました
二人にとって永遠というものは、あって欲しいものでもあり、あって欲しくないモノでもある。
そんなモノを形にしてみたかったんです…(´ω`*)