|
「…なぁハオ。」
「ん?何だい?」 「前からずっと思ってたんだが…そんな文字ばっかりの奴の何処がそんなに面白いんだ?」 兄が先程から熱心に意識を傾けている書物を指先で突きながら、 年がら年中ユルユルで本とは全くもって無縁の生活を送っている麻倉葉は疑わしそうな目でそう尋ねた。 「本っていうのは様々な情報や知識の宝庫だからね。人間が生活の中で知り得る事が出来る知識なんてほんの僅かだ。 新たな発見をすることはとても面白く興味深い事なのさ。」 「ふ〜ん。そういうもんなんかなぁ」 至極まともに返答され、その気持ちはよく解らないという風に溜息を漏らす。 挙句の果てには身を前に乗り出して、コタツの上で面白くないと言わんばかりに顎を乗せている。 活字を見た途端、三秒で夢の世界へ旅立ちそうな彼の事だ。 書物の持つ面白みを理路整然と語った所で到底理解出来ないだろう。 「じゃあこう考えると良いよ。本っていうのは、書いたその人の”人生の軌跡”なんだ。」 「人生のキセキ…?」 「要はその人の生きてきた歴史、生き様を示しているんだ。 己の体験した事や考察、知識や知恵などを後世に伝えようと、書物という形で示しているんだよ。」 だからその人の歩んできた足跡を辿る事になる。 一度の人生経験で決して得ることは出来ない数々の事柄が描かれている。 それは所謂、未知との遭遇なのだ。 しかし、そう諭されてはいそうですかと納得する葉ではない。 案の定その顔には分かったような分かってないような、複雑な表情を浮かべている。 「おめぇの言いたいことは何となく分かった気がするが、それとこれとは話が別だ。」 「はははっ、活字嫌いの克服にはならないか。」 「当たり前だ。そんな訳の分からん記号みてたら、オイラどうにかなっちまうぞ。」 「ただの日本語が葉にとっては”記号”な訳ね。」 「”ただの”日本語って…そうじゃない日本語ってあるんか?」 「勿論あるよ。言霊って聞いたことないかい?」 「ことだま…?」 「そう。古来から僕らシャーマンの間でもよく使われた、魔力を秘めた言葉だよ。」 「魔力を秘めた…言葉?」 「そう。例えば…自分が今しがた口にした事が現実になった、だとか、古の言葉で人を呪ったとか。」 「のっ…呪い?!」 「元々呪いそのものは、呪う側の執念深い怨念を呪われる側が意識することによって起こされる、 言わば精神的圧力のようなものだからね。 言葉というのは時として最も形として伝わりやすい媒介だ。」 特に、人と人との間においてはね。 クスリと僅かに口許を綻ばせて長髪の少年は弟を見遣った。 その視線を感じで少しドキリとしてしまい、身体に微かに緊張が走ってしまう。 「だから言葉を使う際には気をつけないといけないよ? 特に僕らシャーマンが使う言葉には霊的力が宿りやすいから、その言葉一つで誰かを傷つけてしまう事だってあるのだから。」 「おっ……おう。」 「書物というのは、そういった"言葉"を正しく理解し、使い方を教えてくれる大切な師だ。 だから人にとって"読書"というのは、生きる道筋や己の在り方を知るためにとても大切な事なんだ。 だからね、君もシャーマンの端くれなら避けて通れない道なんだよ?」 はい、これ。 満面の笑みで手渡されたのは、何かの歴史書なのか少し古ぼけた唐草色の表紙の冊子だった。 活字が大の苦手な彼にとって、寄りにもよって難易度の高そうな本である。 「ちょっ、無理だってハオ!いきなりこんな小難しそうなの渡されてもオイラにゃさっぱり意味分かんねぇぞ! せめてもうちっと優しい本にしてくれんと…」 「おや?じゃあ優しい本なら読む気にはなったのかな?よし、そんな葉君にはコレをプレゼントだ。」 そういって次に渡されたのは、厚さ1cm程の文庫本だった。 表紙には小さな文字で"芥川龍之介 羅生門"と書かれている。 誰もが知る文豪による文学作品ではあるが、流石の麻倉葉にとっては名前を聞いたような気がするくらいの存在だった。 「物語だから比較的読みやすいと思うよ。特に近代文学の中でも人間のエゴイズムを説いた所は中々興味深いモノがある。 改めて人の業の深さを思い知る事が出来るよ。」 至極楽しそうに笑う兄の顔を目の当たりにし、何だかんだと読まされる羽目になり謀られたなと直感した。 言葉の綾というのは恐ろしいものだと改めて思い知らされた葉であった。 fin. close
葉君に読書をさせるのは至難の技だと思います(笑)
言葉巧みに読ませるキッカケを作られるハオ様の手腕を描いてみたかったんですが、微妙感が^^; 読書って言われた時にこういう構図しか浮かびませんでしたww 相変わらず芸が無い…物書き失格ですぜ(ノ∀`)←笑ってる場合じゃない |