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「ハオってさ、眼鏡とかすっげー似合いそうだよな。」
弟がふとそんな言葉をかけてきたのは、読みかけの本に手をかけて幾分かした後だった。 ふと視線を向けてみれば頬杖を付きながらぽけーっとした表情でこちらを見ている。 その雰囲気からすれば、単なる思い付きなのだろうか。 「いきなりどうしたのさ、何かあったの?」 「や、別に何もないけどさ。」 そう言って再びコタツの中に両手を入れてぬくぬくと暖を取り始める。 いかにも幸せそうなのんびりとした表情で、閉じられた瞳にはうっすら眠気すら伺える。 音楽を聴いたりテレビを見たり、そんなことばかりで退屈になってきたのだろう。 そろそろ寝入りモードに入ろうかとしているのは容易に分かった。 「何にもないって何さ。」 「いや…クラスで勉強できるやつとか本読んでるやつとかってさ、大抵掛けてるなって思ってさ。」 そう言われてふとクラスメイトの顔を思い起こせば、そういえばそんな気もした。 最もハオにとっては葉以外の人間のことなんざどうでもいい部類に値するため、特にそんなことに気をとめることもなかった。 だから本当に"そんな気がしたくらい"の程度だった。 「眼鏡なんて不用意に目を疲れさせたりした人間が掛けるものだろ? 身体のコントロールも出来てない証拠みたいなもんだ、僕なんかに必要なわけないだろ?」 シャーマンである自分は生きとし生ける生命はおろか、この世の理を全て熟知したと言われる者だ。 そうそう易々とあんな人間共と同じような道は辿るまい。 そんなものはこの先必要などしないだろう。 大体文明の力というもので生まれたものは基本的にどれもこの地球環境にはよくない物ばかりだ。 誰が必要もないのに進んで利用などするものか。 「や…まぁ、そうかもしれねぇけどさ。けど、ああいうのって掛けてるだけで何か賢そうに見えるだろ? だからハオにも似合うんじゃねぇかなって思っただけなんよ。」 特に他意はない、ただ純粋に似合うと思っただけだ。 成績優秀、運動神経もよく容姿容貌も淡麗美麗であることは周知である兄ならば、と。 目の前で顎を机に当てながら呟く弟の言葉を聞き、肩に掛かる長髪を跳ね上げながら手にしていた本を徐に置く。 そして少し笑みを称えながら、頬杖を付いて覗き込むように視線を落とした。 「……へぇ〜じゃあ葉は眼鏡を掛けた僕を想像してたわけだ。」 その言葉にはっとしたのか、葉は驚いたように視線を上げた。 自分の顔を覗き込むようにして見つめていた兄の目と視線がかち合い、 微笑んだその表情にカッっと血が上る。 「えっ、あっ…はぁっ!?なっ、何言い出すんよ!!」 「あ〜葉ってば赤くなってる、もしかして図星だった?」 「なっそっ、そんなわけねぇだろ?!」 「ふ〜ん、ムキになるところがすっごく怪し〜」 「べっ別にそんな事思ってねぇってば、つかそんないやらしく笑うな!!」 葉の表情はくるくる変わる。 見てるだけでもすっごく面白いけど、こうやって小突くともっと色んな表情を見せてくれるので尚面白い。 だからすぐにからかいたくなるんだよなぁとハオは再び笑みを浮かべる。 最もやりすぎると今度は怒って拗ねてしまうので、いくらか加減が必要なのだが。 それももう慣れたもので、どうやれば葉をその気にさせられるかというのも既に熟知済みだ。 この辺でそろそろ置いといてやるのが一番いいだろう。 「ははっ、けどさ葉。それって裏を返して言えばお前も似合うってことだろ?」 「へっ?何でそうなるんよ。」 「だって、お前は僕と同じ顔じゃないか。僕に似合うものは葉にも似合うってことだろ?」 確かに傍から見れば葉とハオは一卵性双生児、俗に言う双子であり、容姿も凄くよく似ている。 兄の方であるハオが髪を伸ばしているから区別が付くものの、 もし同じ格好で髪の長さも同じにしてしまえば見分けが付きにくいというのは誰もが思うところだ。 辛うじて兄の方が身長は高いというものの、それでも遠目からみれば分からないほどの差でもある。 顔のつくりだけで見て言えば、ハオに似合うものは葉も似合うという結論が出てくるというわけだ。 「や、でもオイラは多分似合わんよ。勉強出来るわけでもねぇし、おめぇみたくカッコイイわけでもねぇし。」 「まぁね。葉はどっちかって言うとカワイイ部類だもんね。」 「…おめぇ、からかってんのか?それとも褒めてんのか?」 「やだなぁ〜褒め言葉に決まってるだろ?」 自分と瓜二つな顔をしている人間に向かってよくもまぁ可愛いなどと言えるなと毒づく。 勿論それをしたところで何も状況は変わらないのでそのままにしておくのだが。 全く、弟に溺愛しているこの万年発情期みたいな兄は一体どうにかならないものだろうか。 もう慣れたものだから適当にあしらっておくことにする。 「…どーだか。けど今時はファッションで掛けるやつもいるだろ? 度が入ってなくてもフレームの付いたヤツを掛ける奴もいるじゃねぇか。 だから別にいーんじゃねぇのか?文明のがどうのこうのってやつは。」 「…何かお前、いかにも僕に掛けてほしいって言ってるような口ぶりだね。」 「えっ?そぉか?」 自分は単に眼鏡を掛けたハオが凄く様になってるんじゃないかと思っただけなんだけどな。 そう言った後に慌てて口を塞いだ。 だが、時既に遅しだった。 口元だけに笑みを作ったハオが目をうっすらと細める。 「ほらやっぱり、想像してたんじゃないか。」 「なっ!!やっ、あのこれは…っ!」 「本当に素直じゃないねお前って、まっそこが可愛いんだけどね?」 「だからいい加減可愛い言うのやめろよ!このバカ兄貴!!」 「え〜だって可愛いんだから仕方ないだろ〜?」 「弟に向かって可愛いを連呼する兄が何処に居るんだよ!!」 「此処に居るじゃないか、いいだろ減るもんじゃないし。」 「全っ然よくねぇ!!!」 「いい加減素直になったらどうなのさ、往生際が悪いよ葉。」 「誰がなるか!!もうハオなんて知らねぇ!!」 そうやって寝転んだかと思えばコタツ布団の中にすっぽりと隠れてしまった。 あーあ、またこれだよとハオは肩をすくめた。 まぁしばらくすればあちぃとか言いながら顔を出してくるに違いない。 そう思い直して再び視線を手元の本に向けた。 珍しく葉の方から絡んできたかと思えば、すぐこれなんだから。 しかし久々に葉の方から絡んできてくれたのだから悪くはないだろう。 次の休みにでも二人で買い物に出かけようか。 お望み通りにダテ眼鏡でも何でも掛けてやろうじゃないか。 そんなことを考えつつ、その思考を一心に本に傾けることにするハオであった。 そして週末、雑貨屋であれやこれやと言い合う兄弟の姿が見られたのはまた先のお話。 fin. close
眼鏡お題が来たとき、最初はどうしようかなぁと思いつつもこんな感じで落ち着きました(^^;)
実際にハオ様が掛けたところを描写しても良いかと思ったんですが、 小説ならば読者だけじゃなく葉君にも想像して貰いたいかなぁと思ったのがキッカケです(笑) しかし今回はハオ様が大人だったなと思った、えっいつもは子供なのかって? いやいやいやそういうわけではwww |